607:大森林探索行、捜索開始のそのまえに
「居なくなってから、一週間だと?」
そりゃ、大事じゃんか。
「大変、急いで探してあげなくちゃ!?」
レイダが遠くを見ようとして、特撃型改10番の頭に――
よいしょと、よじ登る。
落ちるなよ?
「「「大変だ!」」」「ひょろぉーん!」
「「「ファロコちゃーん!」」」
「あっしもでさぁ!」
次々と、猫の魔物風の手の上に、立ちあがる。
だから、落ちるなよ?
「村を出てからこっち、そこそこの数の魔物に出くわしてるだろぅがよ――!?」
慌てる、おれたち。
「その心配は、いらないよ。なんせロットリンデやトゥナでさえ、ファロコには一度すら勝ったことが無いからね」
横を歩く特撃型改1番に抱えられた様子をみれば、まるで慌てていないのはわかる。
村長訛りを止めたジューク村長が、ふぅと息を吐いて目を閉じた。
また目を開けてるのが、億劫になったんじゃ有るまいな?
「え? コッヘル夫人が勝てない?」
驚くリオレイニア。
「人類最強の魔導騎士団総大将さまがぁ!?」
16番と19番の特撃型改に抱えられた鬼の娘も、目を見開いた。
「じゃぁ、この片角の娘わぁ、相当な手練れってことか?」
どうせ人を乗せない特撃型改を、引き連れることになるなら――
ということで今回はおれも、歩く服に乗ることにした。
「まあね。でも、上には上がいるよ? 天災みたいなのが」
青い顔をする若くもない衆、ジューク村長は、まだ目を閉じている。
「「「「「「「ひっ!?」」」」」」」
物見気分で、へらへらとしていた級友たちが息を呑む。
こいつらも、あのリカルルやリオレイニアの――
はるか上を行く女将さんの実力は、知るところだ。
ぽきゅぽっきゅぽぽっきゅ――「ひひぃぃぃぃん?」
「にゃみゃぎゃに゛ゃぁーご♪」
逆に妙なやる気をみせ先行する、おにぎり騎馬一式。
「あまり先にぃー、行ーくーなーよー?」
迅雷が使えない今、お前らだって迷子にならんとも限らんからなぁ。
ふぉん♪
『ホシガミー>ソレは大丈夫です。姿勢制御系ライブラリには、帰巣プログラムもインクルードされていますので』
ふぉん♪
『シガミー>わからん』
ふぉん♪
『リオレイニア>渡り鳥や渡り狼が、迷わずに大陸横断するのと同じことでしょうか?』
ふぉん♪
『ホシガミー>まさにその通りですわ♪』
ふぉん♪
『シガミー>流石は、ガムランの金庫番だぜ』
物を良ぉーく、知ってらぁ。
「ではまずは、どう致しましょうか? 地図担当のミギアーフさん、クスクス?」
えっ、ここでおっさんに、出番を渡しちまうのか?
「ふむぅん♪ ではまっずは、迅雷君がよこしたこの地図。その抜けたところを、おれっちが先行して埋めていきますっねー♪」
貸してやった黒板を首から提げ、意気揚々と前方を指さした。
18番の猫の魔物風が、指さされた方向へ歩きだす。
「まてまて! 分かれるのは、危険だろぅが?」
「むぅ、そうですかな? おれっちはこう見えても、A級冒険者なんだっよねぇー?」
防具の懐から取り出されたのは、金色の冒険者カード。
おれだって持ってると、言いたいところだが――
彼の持つカードの、ギルドの紋章下。
刻まれた文様は、『A級』だった。
(ギルドからの依頼を規定数受けないと、冒険者としての階級は上がりません)
そう。〝シガミー御一行様〟はギルド依頼のクエストを、それほど受けていなかった。
ていうかクエスト自体、碌に受けちゃいねぇ。
今までの魔物の討伐や、装備なんかの納品依頼。
それが全部ギルド経由の依頼と見なされたとしても、受けた数が少な過ぎらぁ。
〝S級〟のリオレイニアと、〝B級〟扱いのおれ。
そして〝C級〟のレイダ――
ふぉん♪
『シガミー>なあ、リオレイニア。おれたちは冒険者パーティーとしてはB級扱いのままか?』
ふぉん♪
『リオレイニア>とんでもありません。我々冒険者パーティー〝シガミー御一行様〟は、現在C級扱いです』
なんだと? そしたらおっさんにも相当、水をあけられてるじゃんか。
ふぉん♪
『ホシガミー>いえいえ、私のF級が加味されますので恐らく、D級になるのでは? プークスクスクス♪』
やい星神。何を、笑ってやがる?
ふぉん♪
『シガミー>そういや星神さまは、ウチのパーティーになるのか?』
ふぉん♪
『ホシガミー>もちろんですわ。シガミーさんと私は、一蓮托生ですもの♪』
「(初耳だぜ? 冒険者登録なんてしてたのかよ?)」
「(はい。わたくしも、忘れておりました。くすくすっ♪)」
念話なら他の奴に、聞かれる心配はない。
ふぉふぉぉん♪
『カヤノヒメ LV:8
調理師★★★★★ /超料理術/食物転化/毒物無効/星神
追加スキル/超体力増強/超筋力上昇/調理指南
――所属:シガミー御一行様』
「(シガミーさん不在の折、イオノファラーさまの食い道楽の助けになればと――食事関連職に就いたのでしたわ。クスクスプー♪)」
ふぉん♪
『リオレイニア>ふぅ、神の名を冠するスキルを、お持ちなのですね。こと神の存在に関することですので、これまで言及を避けてきましたが。カヤノヒメさまは、どちらからいらしたのですか?』
「(おい星神。五百乃大角も迅雷も居ねぇときに、迂闊なことを言うなよ?)」
「(大丈夫ですわ。そのへんのすり合わせは済んでいますし、シガミーさんと同じですので。くーすくす♪)」
おれと同じだとぉ?
なら隠し事は、日の本勢が全員、〝死んだ後で、この世界に連れてこられた〟ってことくらいだ。
「(はい、そうなります。日の本……日本は、この惑星の何処かに存在し――そこからの迷い人と言うことで、押し通す手はずですわ)」
それ、聞いてねぇんだがな。又忘れやがったなぁ、迅雷め。
ふぉん♪
『ホシガミー>私がどこから来たのかは、分かりかねます。シガミーさんの体で目覚める前のことは、何も覚えていませんので』
ふぉん♪
『リオレイニア>ではイオノファラーさまが戻られたら、聞いてみるとしましょう』
「(それなら良いな。彼奴は矢鱈と、弁だけは立つからな)」
ふぉん♪
『ホシガミー>兎に角、イオノファラーさま縁の神と思ってくださいませ。ご存じの通りに、この体はシガミーさんの数年後の姿ですので、イオノファラー様とシガミーさんお二人の縁者と言うことに相違ありません』
「(この星の三途の川と、ミノタウ……ミノ太郎のこたぁ、ちゃんと黙っとけよ?)」
「(はい。心得ておりますわ、くすくすくす?)」
ふぉん♪
『リオレイニア>差し出がましいことを、お聴きしてしまい申し訳有りませんでした』
組んだ手を鼻に押し当てる、メイドの中のメイド。
ふぉん♪
『ホシガミー>いえいえ、お気になさらず。ちなみに調理師の職を勧めてくれたのは、オルコトリアさんですわ♪』
星神の目が2匹の特撃型改へ、向けられた。
16番と19番に左右から抱えられた鬼娘は、満更でもないらしく――
顔を緩ませていた。
あの体格じゃ、誰かに抱えられることなんて、滅多に無かっただろうからなぁ。
「きゃぁっ!?」
声のした方を見れば、少女メイド・タターが手にした長銃を木の枝にぶつけていた。
「おいおい大丈夫か? 収納魔法具に仕舞っとけば良くね?」
言ってやる。折角作ってやったんだし、使ってくれや。
「はぁい、そうなんですけれど、さっきまでおにぎりちゃんと……テンプーラゴウが、近くに居たので――」
「あー、長銃を持ってないと、また尻尾に噛みつかれるからかぁ」
「はい。じゃぁ、おにぎりさんたちは先に行っちゃったので、仕舞っておきますね」
ヴルル――すぽぉん♪
長物を取り出すときに危なくねぇーように、〝手袋〟に収納魔法具を仕込んである。
長銃を持つ両手の位置を、取り出すための鍵にしたのだ。
「五百乃大角も一緒に居た方が、丸を込めるのに便利な――――あ!?」
根菜なしで、どうやって弾を撃つんだぜ?
「どうしたんですか?」
長銃を仕舞い、身軽になった少女メイド――皆メイド服を着てるから、もはや〝ただのタター〟だ。
「そういや〝長銃〟の丸は、どーするんだぜ?」
五百乃大角も迅雷も、いまは使えねぇーぞ?
「それなら、私どもが担当致しますわ、プークス?」
茅野姫の給仕服の懐から、ひょこりと顔を出したのは――
「そうだ。我々が――我輩の尻尾――制御用ICチップ――サフランソース――ニャァ♪」
猫の精霊にして、魔法具の魔物――ロォグだ。
「わからんが、任せて良いんだな?」
「はいどうぞ、よしなに?」
すっと差し出されたのは――紙ぺら一枚。
『長銃オルタネーター専用 丸込め価格|(税抜き)
一撃必殺アダマンタイト弾 100パケタ
一撃必中ジンライ鋼弾 3パケタ
一撃必穿ミノタ****徹甲弾 36パケタ
戦略級選択的接触除草弾ユグドラゴン 時価』
「かっ、金取るのかよぉっ!? しかも高ぇ――――!」
巨木を枯らした丸に関しちゃぁ、値段が書いてねぇと来たぜ!
「シガミー、置いていかれますよ」
ふぉん♪
『リオレイニア>この先はミギアーフ氏を筆頭に、一列縦隊で進んでいくようです』
ふぉん♪
『ホシガミー>これなら分散コンピューティングによる、演算帯域も確保出来ます』
わからんが、間が空くと……列が千切れちまうってことかぁ?
おれは慌てて「やい11番やい、遅れるな!」と、号令を掛けた。




