605:大森林探索行、分散型と火遁とドリル・ア・ホール・パイルドライバー
「痛ってぇ!」
顔を押さえて、転がるおれ。
「まったく何を、しているのですか!?」
リオレイニアが駆け寄り――苦しむおれの額を、狙い澄まし――
ぺしぃーんと、ひっぱたいて来やがった!
「痛ってぇ――!!」
なんて事しやがるっ!?
「シガミーも女の子なのだから、自分の体を大事に扱って下さい。でないと――」
すっと持ち上げられる、平手。
「わ、わかったよ! けど早く写し取らねぇと――迅雷が寄越した地図が、消えちまうんだよ!」
「あら? ソレは大変?」
リオが拾い上げた黒板を見たが、何も写し取れてなかった!
「あぁ、消えちまったぜ!?」
あの一瞬じゃ、覚えられる訳もなく。
「大丈夫ですわ、シガミーさん♪ プププークスクス♪」
特撃型改に揺られる茅野姫が、強化服特撃型改を引き連れてやってきた。
「特撃型改の皆さま、こちらへお集まり下さい。ヴィヴィエラさんも、こちらへお越し下さい。私がお待ちです♪」
ぽきゅぽきゅぽきゅきゅむ♪
またぞろぞろと、喧しい奴らを引き連れやがって。
「えー、なぁにぃー? あっち、みんなが集まってるところに行って!」
ぽきゅぽきゅむ♪
ビビビーも特撃型改を操り、寄ってきた。
いまシシガニャンに乗ってるのは、この二人だけだ。
それぞれ8匹ずつの特撃型改を、背中に張り付かせていた。
ぽきゅぽきゅぽきゅきゅむ♪
ぽきゅぽきゅぽきゅきゅむ♪
ぎゅみゅぎゅぎゅみゅむゅ――――♪
出した数と合わねぇから何匹かは、どこかその辺に落として来たんだろうが――
星神は、ぽきゅぽきゅうるせぇ連中を――ほぼ全員、かき集めた。
すると――ヴュザザザッ♪
「あっ!? 又、出やがったぞ!」
又、さっきの地図が、映し出される。
「やはり、そうですわね。女神像ネットワーク接続に生じた不具合が、一部解消されています。クスクス♪」
ふぉん♪
『ホシガミー>イオノファラーさんが居る以上、通常なら機能が限定されることはあっても接続が切れることはありませんが』
ふぉん♪
『シガミー>現に切れちまってるじゃねーか?』
いや、さっきの偽の道、魔法具箱に閉じ込められたのが、原因かも知れん。
ふぉん♪
『ホシガミー>恐らくですが、その不具合を〝分散型シシガニャン〟によって、ごく一部だけ緩和出来るようです』
わからんが――此奴らがひしめき合ってりゃ、迅雷がこうして――
地図を寄こせるくらいには、動くって訳だな?
ふぉん♪
『ホシガミー>坊主驚異の理解力、というわけですわね?』
ふぉん♪
『シガミー>喧しいやい』
「クスクス。こちらでスクリーンショットを撮影しました。皆さまにも見ていただきましょう♪」
ヴォォォォオゥゥン♪
切り株の中の壁は――綺麗に削られていて――
地図を、はっきりと映し出した。
「ぎゃぁっ――――きゅ、宮廷魔導師!?」
外に映した地図に驚いた〝悪逆令嬢〟が、立ち上がった!
ボボボボッ!
指の間から、小さな爆煙を立ち上らせ――
「こらっ、村の中で攻撃魔法は禁止でぇーすぅよぉー!」
商会長が大申女を叩き込み、自分の股で挟んだ。
そして飛ぶ、絢爛豪華な体――――どっがぁぁぁん!
自分の尻を床に打ち付け、御簾路頭・厘手の頭を――壇上に突き刺した!
「ふにゃらぁ、ばたん♪」
倒に立つ彼女の姿は、立ち上る爆煙のようで――
「か、堅い木の壇上で――ぱ、パイルドライバー!?」
ニゲルが喚いて、蘇生薬を取り出した。
「あらロットリンデちゃんと同じふうに、この技を呼ぶ人には、初めてお会いしましたわ?」
商会長に興味を持たれたニゲルが、じりじりと距離を取る。
「いつものことだから、蘇生薬は要らないさね――ほら、お起き!」
ぺしんと尻を叩かれた、立ち上る爆煙が――
ぼごごごむんっ――――煙と化した。
「おれがやられた、火遁の術か!?」
煙は風に流れ――そっくり同じ姿形の。
倒の女が、パタリと倒れた。
「ふぅー、母さんの魔導アーツは……まるで衰えてないさね」
肩をすくめた女将さんが、ご令嬢の亡骸を小脇に担ぐ。
「いつものことだから、心配いらないよ」
ジューク村長が言うとおりに、女将さんに担がれた奴が――
「ふにゃぁー、い゛だい゛でーすーわぁー」
生きてやがったか、頭を押さえてやがる。
火遁の中には目くらましだけじゃなく、敵の城攻めに抗うような――
轟雷が使った、〝爆発を盾に使う、やり方〟がある。
「しゃっきりおし、吸血鬼が聞いて呆れるよ!」
また、ぺしんと尻を叩かれる。
「ぎゃに゛ゃぁー!」
うしろ頭を叩いたときの、おにぎりみたいな声を出して――
外に運ばれていく。
「この地図があれば迷子の、うちの子を探しに行けるよ!」
村長が、そんなことを言う。
「なるほど、迷子……事情は察しましたが。土地の人間でしたら、周辺の地理くらいは把握しているのでは?」
リオレイニアが、村長へ問う。
「この先の大森林は、ちょっと一筋縄ではいかないというか……地図を作れるような場所じゃないって言――場所ではないんじゃよ、ふぉっふぉっふぉぉ♪」
村長言葉を、忘れてたな。
「なるほど? けどシガミー、この地図は所々、抜けていますが?」
リオレイニアが、空白になっている部分を指さした。
「おれに聞かれても困るぜ。茅野姫、どーなってんだぜ?」
「それは分かりかねますが村長さんの仰った、〝地図作りが難しいこと〟と関係があるのでは?」
村長を見つめる、星神茅野姫。
「ハハハッハッ?」
何だぜ、急におっさんが笑いやがったぞ。
「こんどこそ、おれっちの出番かと、存じましたががが? むふぅん?」
おっさんの目の色が変わり――
群れる特撃型改に颯爽と、抱えられる。
「いざ行かん! 大森林などー、恐るるに足りませんぞぉー!」
駆けだしていく特撃型改――ぽっきゅぽっきゅぽきゅきゅむ♪
たぶん演算単位とやらが、切れたんだろう。
おっさんを抱えた特撃型改18番が――――ぽぎゅごろろろろっ♪
騒々しい音を立てて、盛大に素っ転んだ。




