604:ファンキー・フカフ村、角の種類とパイロットランプ
「なぁ、鬼族の中には、こんな角が生えた奴も居るのか?」
横に座る、鬼族の娘を見る。
「二つ角は居るけど、こんな風に二股になった奴は居ない。二股になるのは、魔物だけよ」
ふぅん。じゃぁこの探している娘は、魔物なのか?
「魔物? ちょっと怖いですね」
そう、にが笑いを浮かべた少女の髪を、手櫛で梳いてやる鬼の娘。
遊撃班を組んで以来、随分と打ち解けたなー。
「人型の魔物? それってもはや……魔王なのでは?」
リオレイニアが訝しむ。
「(魔神の再来が、何か言ってるぜ)」
魔王に連なるような、強い人型の魔物。
その最たるものが魔王だが、すでに討伐されている。
だから結局の所、生活魔法や高等魔術を使いこなす――
彼女を表す言葉として、〝魔神〟と言う言葉は……定着しつつある。
(リオレイニアは美の女神イオノファラーの、生まれ変わりと噂されています)
おれの頭の中の迅雷が、何か言ってる。
これは本当に声が、聞こえているわけでは無い。
あまりにも絶えず一緒に居たから、そう言う声が勝手に頭をよぎっただけだ。
「おいリオさんよ……ひそひそ……おれぁ女神像がある、レイド村まで戻りてぇーんだが?」
「そうだね。迅雷も話さなくなっちゃったし――あっ! 迅雷に、ご飯はあげてみた?」
生意気な子供レイダが後ろから、抱きついてきた。
「神力棒を繋いではみたが、変わりねぇ。やっぱり女神像に繋いでやるまでは、直りそうもねぇよ」
「ソレは困りましたね――あの、コッヘル夫人。フカフ村に女神像は――」
そうだな。ギルド支部が無くても、女神像くらいあるかもしれん。
「「女神像? そんな立派な物が、こんな人里離れた最果ての田舎村に有るわけないさね♪」――ないですよぉー♪」
新旧二人のコッヘル母娘が、首を横に振った。
やっぱり見た目は、それほど変わらんな。
そして〝コッヘル夫人〟てのは、商家であるコッヘル家に生まれた女性のことを――
そう呼んでいるのか……少しややこしい。
「そこ、まだ歓迎会は、終わっていませんでしてよ?」
大申の女……いや、ミスロット毒花さんが、眦をつり上げる。
「そう言われてもよぉ、此方にも都合ってもんがあらぁな。それに女神像がありゃミスロットさまがご執心の五百乃大角を、踊らせることだって出来るぞ?」
「ミスロット?」
名を呼ばれた御簾路頭が、目を瞬いてやがる。
ふぉん♪
『ヒント>ロット/工場生産された同一製品の、一定数量ごとのまとまりのこと。生産単位』
「あっ、〝案内〟が出やがった?」
ぽっぎゅぎゅむむむん♪
暑苦しいと思ったら、おにぎりや特撃型改が犇めいてやがる。
「邪魔だぜ、お前らぁ!」
ふぉん♪
『ヒント>ミス¹/誤り。間違えること。
ミス²/独身女性のこと。ひいては女性全般を示す敬称』
やっぱり、また出たぞ?
解析指南はおれのスキルだから、迅雷なしでも使えるが――
案内は迅雷が居ねぇと、動かねぇんじゃぁ?
勝手に直りやがったか!?
「あっ!? いま、迅雷さまが、お光りになられましたわっ!」
まえに座る大食らいの童が、そんなことを言う。
おれは後ろ頭から簪代わりの、棒を引っこ抜いた。
お? 本当だ。
独鈷所の横の所に、小さな灯りが灯ってやがるぜ。
これが付いてるって事は、迅雷が息をしてるって事だ。
「迅雷迅雷――」
迅雷迅雷!
ふぉん♪
『シガミー>迅雷迅雷!』
フッ――「あぁ、消えちまった!」
けど――ヴォゥゥゥウン♪
ヒュパパパパパパパパパパパッ――――♪
画面に現れたのは――「地図か!?」
ヴュザザッ――「なんか、消えかかってるぞ!?」
「リオレイニア――黒板持ってるか!?」
前掛けから黒板を取り出す、美の権化にして、シガミー御一行様の紅一点。
消える前に黒板に、写し取らんとっ!
ニゲルや五百乃大角がやってた、やり方は黒筆を使っていたが――
手元に黒筆は無く――ヴュザザッ!
「あぁ、消えちまうぜ!」
慌てたおれは黒板を、手前の顔にぶち当てた!




