602:ファンキー・フカフ村へようこそ
「へへいへぇーい♪ ようこそおいで下さいーましたっ♪」
うをわぁ!? 頭がおにぎり並にでかい娘がぁ、料理を運んできた。
「ちょーしわぁ、どーぅかぁーい♪」
やっぱりモサモサした大きな頭の青年が、縦だか横だかわからないほどの――
分厚い肉を運んできた。
ジュジュジュジュゥー♪
鉄板が木皿に乗せてあって、旨そうな音を奏でてやがるぜ。
「きゃはぁー♪」
いつもなら真っ先に奇声を上げるのは、五百乃大角だが――
今日はその役を、ビステッカに譲っている。
「「いゃふぅー、ひゃひゃぁーい♪」」
ぱしんと手を打ち合わせ、手を繋いで去って行くファンキー・フカフ村の若い衆たち。
腰を振り、頭をふらふらと。
「えぇい、しゃっきりと歩かんかぁ――!」――と渇を入れてやりてぇ。
風に吹かれてモッサモサ揺れてるから、あの頭わぁ……チリチリになった髪の毛かぁ!?
村に火事に見舞われた……様子はねぇーか。
おまえらぁ、おれたちを持てなすまえに、頭から水でも被った方がよくね?
(大森林の気候に合わせた機能性を、追求したファッション……一種の歌舞伎者と、お考え下さい)
なるほどなぁ。
§
「コッヘル商会会長のティーナ・コッヘルよー。よろしくねぇー♪」
むっちりとした体に包み込まれ、身動きが取れなくなった。
「これはこれは商会長さま♪ 紹介が遅れましたわ。そちらは我が猪蟹屋の当主、シガミー・ガムランですわ、クスクス♪」
そんな声におれは解放され、今度は茅野姫がガシリと抱きすくめられた。
ふぉん♪
『ホシガミー>あら、身動き出来ない? シガミーさん。たすけてー!』
おれでさえ身動きが、取れなくなったからな。
ふぉん♪
『シガミー>星神さまじゃ、死んでも抜け出せん。諦めろ』
「ふぅい。そっちはおれの、まぁ……縁者みたいなもんだ、名は茅野姫だぜ」
藻掻くことすら出来ない、星神さまを紹介してやる。
「私はリオレイニア・サキラテです!」
「私はレイダ・クェーサーだよ!」
「我々は初等魔導学院1年A組教師と、教え子たちです――一同さんはい、こんにちわ♪」
「「「「「「「「「「「「「こんにちわー♪」」」」」」」」」」」」」
抱きしめられてはたまらんとでも思ったのか、すかさず一気に名乗りを上げる連中。
「はい、こんにちわぁ♪ あらぁ、珍しいお客さまも居るわねぇ?」
避難して、鬼の娘の頭にしがみ付いていた――
お猫さまに向けられる、商会長の優しげなまなざし。
「にゃんにゃんみゃー♪」
「「我輩はロォグ、ニャァ」って言ってるぜ……わよ」
猫の精霊にして、魔法具作りの魔物。
猫の中の猫とかいう言葉をもじって、ロォグと名付けた。
「あたしは、オルコトリアだ」
ガムラン町支部を何度も壊した乱暴者だが、根は常識人なギルド支部受付嬢だ。
血を四肢に集め筋力を倍加し、正に〝鬼の金剛力〟を使う鬼族の娘。
今日は彼女も猪蟹屋の猫耳付きメイド制服を、着込んでいる。
「はぁーい♪ ローグニャーちゃんに、オルコニャーちゃんね。よろしくーぅ♪」
ざっとおれたちの頭数を数えた商会長は、厨房らしき建物を振り返り――
背負っていた鉄鍋を取り出して、ガァンと打ち鳴らした!
うるせぇ!
「あなたたちぃ、サボってたらぁ承知しませんよぉ――?」
外見からは想像できないほどの速さで、駆けていく商会長。
長く編み込んだ髪が揺れ――ガンガンガガガガガァン♪
うーるーせーぇー!
外で項垂れていたミスロットと盗賊たちが、背筋を伸ばして厨房へ戻った。
「こらっトゥナ! あなたは今日わぁ、お客さんなんだからぁ、厨房に立つんじゃぁありませぇーん!」
逆に追い出されたのは、女将さんだった。
「そう言ってもさぁ、母さんも、もう決して若くないんだか――――!?」
うふふふふぅ――――鉄鍋を菜切り庖丁に持ち替えた商会長が、微笑みをたたえた。
「まさかの母上だとは……えらく若くね?」
おれはリオに耳打ちした。
「そうですね。気のせいか女将さんより、若々しく見受けられます」
ガムラン町にも化け物じみた若作りが居るから、そこまで驚きはしなかったがな。
女将さんの縁者(母上)による飯の支度は、とても手際が良く――
無人工房並に大量の飯が、飛び出してきた。
最後には配膳が追いつかず、おれたちも総出で手伝った。
出したテーブルは、20卓にも及び――
椅子代わりの小さな切り株も、100個近く並べた。
「ばたり」「ばたり」「ですわ」「そうわね」「ばたり」「あっしもさぁ」
ミスロットと盗賊が倒れ、厨房から転び出たころ――
「これで全員分、揃ったわぁね?」
宴の準備が整った。
§
「じゃぁ、こほん♪ みなさんようこそ――かんぱーい♪」
若くもない衆、ジュークの素っ気ない号令。
「「「「「「「「かんぱーい♪」」」」」」」」
「「「「「かぱーい♪」」」」」
「きゃぁ♪ すごい、ご馳走♡」
「おれっちの舌を満足させられると、お思いかね? ふふぅん♪」
「みゃにゃぎゃぁー♪」
「ひひひぃーん?」
おれたちが杯を掲げると――
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うえぇーーーーーーーーーーい♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ガガゴォン!
全員が杯を、打ち鳴らした。
「ぷはぁ――なんだこの、冷えた善哉みたいなのわぁ?」
超旨ぇ♪
「そ、それは先ほどの、ソッ草ですわよ」
青い顔のミスロットさんが丸太を転がし、寄ってきた。
「へぇー。こりゃますます商談を、成功させなくちゃな♪」
ごん――すとん♪
隣に座られた。
彼女が持つ杯には、村で作ってるらしい――ぬるい酒が並々と、注がれている。
「へっへぇーい♪」
それにしてもだ。
歓迎されてるのはわかるがぁ、モサモサ頭の若い衆がぁ――
「君っさぁー、最っ近さぁー、どぉなのぉ?」
超うるせぇ。
「ぅにゅわわっひょへぇーぃ♪」
あと、おっさんは黙っとけ。
切り株みたいな大きな建物から響く――ズムズムムズムズム♪
お囃子にも超絶に、イラッとさせられる!
(イオノファラーなら、喜びそうですが)
だな。この騒々しさは彼奴の歌声にも、通じる物があるから――
此処の住人とは超、気が合いそうだ。
おれは、白金の棒を取り出すが――
迅雷はウンともスンとも言わず、浮かびもしねぇ。
やはりこの声は、おれがそう考えただけのことだ。
「そんなことより、小猿っ♪ この子は、いつ動き出しますの?」
ご令嬢、いやミスロット・リンデさまが――
テーブルに置かれた女神御神体を、指さした。
「わくわくわくわく♪」
年甲斐も無く、お燥ぎになってやがるぜ。
テーブルの上。女神御神体を乗せた、女神像の台座。
此奴をギルド支部出張所や、女神像の転移先として、使えるようにするには――
「あー、どーすりゃ良いんだぜ? お猫さまよ?」
テーブルの上を四つ足で歩く、ロォグにも尋ねてみた。
おれが轟雷で飛んで、レイド村に行ってくりゃ済む話なんだが。
「女神像との繋がりが死んでるニャァ♪ 息を吹き返させないと使――オフィスビル――枝豆――グラボ二枚差し――ニャッ♪」
息を吹き返させるって言ってもよぉ?
「そりゃ無理だぜ。この村にはギルド支部なんて、影も形もねぇだろうが?」
イオノフ教教会にも似たものはあるらしいが、どっちにしろ教会なんざねぇ。
神官さまが「未開の地に、教会はありません!」って言ってたから、ねぇーのは確かだ。
「よくわからないけど、残念だったね。このおばさ……お姉さんがケチって、フカフ村にはギルド支部が出来なかったんだよ」
とおい目をする、若くもないジューク氏。
「うるさいですわよ、ジュークのくせに!」
小さな樽のような、大きな杯を――ばこん!
ジュークの頭に乗せる、ご令嬢。
杯はパカーンと割れ、ぬるい酒を頭から被る、ジューク氏。
「ひっ、ひどいよー、ロットリンデェ――――!?」
あははっはあははっは、ケタケタケタタタッ――――♪
心の底から楽しそうな、あの顔。
それは正に、ニゲルを負かしたときの、某ご令嬢そのもので。
あー、本当に此奴らわぁ――
「まるで……10数年後のお嬢さまと、ニゲルの様に思えてきました」
リオレイニアも同じことを、考えていたらしく――
額を押さえて目を、静かに閉じた。




