６０１：悪逆令嬢ロットリンデ、商会長にしかられる
「こぉら、ロットリンデちゃん！ １０年ぶりのビッグウェーブ……もとい、お客さまになんてことをしてるのかしらぁ？」
やや恰幅が良いが、女将さんみたいな体つき。
「っぎゃっ――宮廷魔導師!?」
踵が高い靴を脱ぎ捨て一目散に、逃げ出す悪逆令嬢。
「ロットリンデー！ どうせあとで商会長から〝魔導固め〟を食らうことになるんだから、いま捕まっておいた方が得だよー」
例の偽の道の箱を持つ、銃吼氏が――チャリン♪
金貨を一枚、箱に空いた細穴に落とした。
「それ、自販機みたいだね♪」
ニゲルが目を、輝かせた。
日本刀や根菜や詠唱魔法具を見たときの、悪逆令嬢のようだ。
パタパタパタパタタタッ――――♪
開かれ板ぺらになった箱に追いつかれた、ご令嬢が――「ぎゃふぅん！」
断末魔を上げ、姿を消した。
「まさか……人を格納出来る、収納魔法具――!?」
わなわなと口元を震わせる、星神茅野姫。
その手に――ヴッ♪
計算魔法具が、取り出された。
迅雷の収納魔法とは別の、自前の収納魔法を持つ彼女は――
気立ては良いが、守銭奴なのが……玉に瑕だった。
片手で抱えたお猫さまに、手渡される計算魔法具。
パチパチポチペチリと――火を噴く得物。
そういや、あのケットーシィも、強突張りだったぜ。
パタパタパタパタパタタム、カシャガチャン♪
一直線に伸びていた魔法具箱が、閉じられた。
――と思ったら即座に一辺だけ、蓋が開く――カヒュゥーイ♪
「にゃわっ!?」
展開された悪逆令嬢が、銃吼氏の……目のまえにストンと、落ちてきた。
ふぉん♪
『シガミー＞そうだぜ茅野姫。迅雷と根菜が、壊れちまったみてえなんだが？』
ふぉん♪
『ホシガミー＞壊れると言うことはあり得ません。神力切れでは？』
神力棒を、腰のベルトに刺し――チッ♪
迅雷に繋いでみる――ブツン♪
ふぉん♪
『シガミー＞繋いだが、うんともすんとも言いやがらねえ』
確かに本当に壊れたっていうなら――この辺り一帯、吹っ飛んでねぇとおかしい。
ふぉん♪
『ホシガミー＞電池切れでないのでしたら、女神像ＯＳを更新すれば宜しいかと』
女神像の背中の箱で、直るんだな？
ふぉん♪
『シガミー＞あの箱型の収納魔法具箱に入ったのが、悪かったのかもしれんな』
五百乃大角も懐から取り出してみたが――そもそも此奴に、神力棒を刺す穴は空いてねぇ。
「ロットリンデちゃぁん――つーかーまーえーたぁー♡」
女将さんのような、絢爛豪華な体格の女性。
商会長と呼ばれた女は……間違いなく女将さんの縁者だ。
「ひゃぎゃっ――!?」
腰にがっちりと、しがみ付かれ――
必死に藻掻く、、御簾路頭厘手。
あの大申紛いの怪力でも、振りほどけねぇのか。
たぶん女将さんの、姉妹なんだろうが――世も末だぜ。
組み付いたまま背後に回り込み――――ブゥオッ！
持ち上げられるご令嬢――「にゃわやー!?」
腰を反らし――――ドゴォォォォッゥン！
ご令嬢の体が、地面に突き刺さった。
あーあー、大股を開いて何てぇ格好だぜ。
あれよりかは、まだウチの神さんの方が、慎みがあらぁな。
「「「「「あっ、イオノファラーさまだ♪」」」」」
生徒や教師の何人かが、シシガニャンから飛び降りた。
白目を剥いた根菜を、掲げて見せたら――
イオノフ教信徒どもが膝を突き、組んだ手を鼻に押し当てた。
