６００：悪逆令嬢ロットリンデ、収納魔法破られる
「危ない――！ 気をつけてよ、ロットリンデ！ これ相当高価な置物だよ！」
若くもない衆が、女神御神体さまをキャッチ！
いや、それ絶対に壊れんし、取り憑いてる惡神を考えりゃ価値なんざ有るのかねぇのか、わからん。
ただ同じ形の置物を作るだけなら……ニゲルの安物の聖剣よか、安く作れるぜ。
「これっ！ 私が持っていたプレイヤーに、似ていますわぁっ♪」
即座に押される『►』。
「〽魔物と見れば、追いかけろ！
地割れに大雨、逃げかえろ！
ヴァリィアァントなにそれ、うまいのかぁ？
おれたちゃガムラン！
おれたちがガムランランララン！」
「一体なんですのこの……勇ましい曲はっ!?」
「何だろうね？」
困惑に顔を、歪ませる二人。
「冒険者ギルドガムラン支部の歌だぜ」
辺境伯からは禁止されてるが、ご令嬢が率先して広めてやがる――
超曰く付きの歌だ。
「〽大きな魔物は、取り囲め！
火山に毒沼、近寄らぬ！
ヴァリィヴァヴァーリ、バリバリリィィィッ？
おれたちゃガムラン！
おれたちがガムランランララン！」
「カ、カスですわね。一体どういうおつもりで、こんな曲を作られましたのかしら？」
「けど、命を粗末にしない、良い歌詞だよ？」
物議を醸してやがるぜ。
「あー、作った本人が、そう言ってやがったな」
姫さんは、アレはアレで一応……ガムランの町民を、大事に思ってるのだ。
「〽今日は朝から、出くわした！
森の主、山の主、空の主！
エマージェンンシィ、ヌシジェンシィー！
おれたちゃヴォッヘッヘェッ！
ウホウホホホォヴォヘェヘェェェェッ――――♪」
「うぐぷひっ――――!?」
くの字に折れ曲がる、若くもない衆・銃吼。
そうだろう、「ぼへへぇ」はねぇぜ。
「〽大きな魔物は、取り囲め！
火山に毒沼、近寄――ブッツ！」
もう一度、『►』を押して止める――同じく若くもない、ご令嬢・御簾路頭厘手。
使い方を知ってるようだな。
てぇなるとぉ、ニゲルと同じくらいの後の世から来たと考えておくか。
おれや妖弧ルリーロさまは、もっと古い戦国の生まれだ。
神々の世界……神々の船で五百乃大角が帰る世界は――一番とおい時代。
たぶん本当の、日の本の時間……現代――２２２２年とやらの日の本だ。
「とんでもないカス曲ですけれど、このプレイヤー自体は、とても気に入りましたわ♪」
リカルルの絵が描かれた詠唱魔法具を、嬉しそうに懐にしまうご令嬢。
「こらっ、また！」
若くもない衆は、本当に人間が良く出来てる。
ニゲル同様、報われてなさそうだが――
こうして高貴な身分の気の強い女に進言する、その男気には痛み入るぜ。
「いや、そいつぁ売り物だし高いもんじゃねぇし、いくらでもくれてやるでますわぜ」
前掛けを軽くつまみ、片足を引いて腰を落とした。
「良いでしょう、トゥナの紹介というのは、本当のようですし――我が国へ招待致しますわ♪ ジューク！」
パチリと指を鳴らす、ご令嬢・ミスロット。
「わかったよ。封鎖空間を開けるから、巻き込む風に気をつけてね」
ヴッ――パタパタガシャガシャ。
「うぎゃ――ぁ!?」
神々の色んな、とんでもねぇ魔法具に慣れたおれでも――
此には、度肝を抜かれた。
景色が板に描かれた、〝絵〟になり――
辺りが雪崩れ、折りたたまれていく。
「ぅわっ、狭ぇ！ 押しつぶされちまわぁ！」
ヴッ――すかっ!?
腰の日本刀を抜くより早いと、思ったんだが――
どこかに落としたのか、錫杖は出なかった！
ゴッファァ――――！
風に舞う、木の葉や木くず。
「迅雷迅雷五百乃大角ぁ――――ぁ!?」
ヴッ――この感覚は!?
収納魔法具に仕舞うとき、掌に伝わる感触。
そんなので、全身が覆われていく。
パタタタッ、パタタタタタン――――♪
「うわっひゃい！」
足下を見れば、おれの酒瓶くらいの大きさの箱が――
おれたちを避けて、転がり集まりガガガッガガッチャン♪
男性の手に収まった。
「まさかそれっ!? 収納魔法具かぁ!?」
しかも景色が、丸ごと入るような奴。
おにぎりが背負う収納魔法具箱も、辺り一面の土塊を格納出来るがぁ――
収納魔法の中に人っていうか生き物は、入れねぇ筈だろぉ！
どうなってやがる!?
今までおれが居た、偽の道てぇのわぁ――どうやらあの、収納魔法具箱だったらしいぜ!?
迅雷迅雷五百乃大角ぁ――今すぐ出てきて、おれにもわかるように説明しろやぁ！
チチチピッ――小鳥が鳴いた。
気づけば派手な作りの門構え、その真ん前に居た。
『おいでませ大森林観測村
ファンキー・フカフ村へようこそ』
なんて書いて有りやがる。
大森林観測村だぁ？
フカフ村とも、書いて有りやがるし！
そしてどっちにしろ、〝国〟じゃなくて〝村〟じゃねーか！
「ぬっっひょろぉぉぉぉぉぉぉおぉっぉっ!?」
「きゃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぅっ!?」
うるせぇ声に振り向けば――ぽきゅぽきゅむん♪
『１８』番と『１９』番の特撃型改に抱えられた、おっさんと神官女性が目を見開いてやがる。
なんで背を向けて、坂を上ってやがるんだぜ？
「（あーっ!? シガミーたち居たぁー!!!）」
うるせぇ。とおくから生意気な子供の声が、聞こえて来やがる。
おっさんたちの背後。
えらく長い坂道を上ってくる、シシガニャンたちの群れが見えた。
