60:シガミー(元破戒僧)御一行様、備えあれば女神なし
最初にしたのは、収納魔法具を開発……作ることだった。
食材を保管しておくための魔法具が、すぐにでも必要だったのだ。
「それは〝不可能〟……できないことでは、ありませんか?」
「ウチのお父さんも、収納魔法で〝生もの〟はしまえないって言ってた!」
食材には〝水〟もありゃ、〝魚〟〝肉〟〝野菜〟もある。
「(はい、生物の6割以上は水です。食材においても、その比率はおなじです。むしろ、ほぼ水と言っても過言ではありません)」
「おれもそう聞いてる。じゃあ、どーすんだ?」
ほんとどーすんだよ?
「オリハるコンとジンライ鋼がアれば、すぐに作れマす」
できないはずのことが――事もなげに解決された。
オリハルコンは、保管されてた未使用の避雷針を購入。
ジンライ鋼は工房長に頼んだら、「捨てる程ある」といわれて十本もらってきた。
どっちも一本ずつあれば、500個くらい作れるらしい。
そういや、おれの指輪も小せえしな。
目尻が、チカチカひかる。
ふぉん♪
『Limited_ItemBox(SpecificStorage)
>アイテムを一件、作成しました』
わからんが、ほんとうに完成したみてぇだ。
できた物は、手のひらにのる程度の四角い板。
銀の板――冒険者カードより分厚くて長さがある。
ふぉふぉふぉん♪
『事象ライブラリ精査終了
>転移魔法の一部解析終了しています
>格納技術の最適化が進みました
>液体の格納が可能になりました』
わからん。
「(対リカルル戦におけるハッキング……乗っ取りにより収得した転移魔法の一部を流用しました)」
わからねえなりに納得するなら――姫さんとの死闘のさなかに、迅雷が考えるための〝材料〟がそろった兼ねあいか……?
死んだら元も子もなかったが……勝利しとくもんだなあ。
§
完成した厚長鉄板には、水や油が――
「は、はいりました、はいりましたわぁー♪」
枚数を重ねりゃ当たり前だが――
「お魚もお肉もお野菜も、ぜーんぶはいったよっ♪」
水と油で二枚。
魚や肉、そして野菜の三枚。
「こっちも、ぜんぶはいったぜ!」
目の前にあった調味料ひとそろえが、甘ぇのと辛ぇので二枚。
食器や調理器具、念のための机に椅子で二枚。
九枚の鉄板に予備として、もう一枚。
全部かさねると、鉄の塊みてえになった。
「ぜんぜん重くないよ♪」
レイダに袈裟懸けして、持ってみてもらった。
皮の太紐に釘打ちしてとりつけたから、運びやすくなったとおもう。
シガミー邸を区切って作った、でけえ机だけを置いた部屋。
その机一杯につんだ飯の支度一式が、これひとつに収まったことになる。
できないはずのことは――事もなげに達成された。
「よーし。これで本題に入れる」
§
「まず、五百乃大角っているだろ? あいつは下っ腹が出ている」
「なにそれ、シガミーおもしろーい。あはは♪」
レイダがまったく本気にしねえ。
「シガミー、それは幼子には酷かと」
おれも幼子だがな。
「とにかく、ヤツにうまいものを食わせ……供えねえと世界が滅びかねねえ」
「シガミー、それも幼子には酷かと」
たび重なるリオレイニアの深刻な様子。
冗談を言ってるのではないと気づいた幼子から、表情が消えた。
いけねえ、脅かしすぎたか。
「でもな、悪い奴じゃねえんだ。日の本……おれがもといた所にも神さんはウジャウジャいたんだが、なかにはタチの悪いのも一杯いてな。そういうのから見たらよっぽど話がわかるぞ!」
「逆に、〝食べ物に関してだけは、ぜったいに話が通じそうも、ありませんでしたけれど――ふぅ」
額に手をあて、うなだれるリオ。
「まって! リオレイニアさんはイオノファラーさまに、会ったことがあるの?」
そっか、まずはそっからじゃねーか。
「はい、たぶん。記憶があやふやなのと、あまりにも神物像が強烈だったので、どこまでが本当かは不確かなのですが」
安心しろ、ぜんぶ本当のことだ。
「そう、まさにここで、リオは五百乃大角にあってる」
「はい、お寿司をご所望なされました」
「えぇえぇぇえー、ならわたしもあいたい!」
いまあれだけ口を酸っぱくして言い聞かせたのに、子供ってやつぁ――
「め、滅多なことを言うんじゃねぇ」
「そうです、うかつなことを口走っては、いけません」
「なんでー?」
「五百乃大角が出るからに、決まって――」
声に出しちまったじゃねえぇーかぁーっ!!!
周囲をうかがい身がまえる、リオとおれ――――ん? いねえか?
「――どうやら、いないみたいですね?」
「――そうだな、あぶねえ所だったぜ」
「やつが出ねえうちに――――迅雷、例の策ってヤツだ。おれたちは何を売りゃ良いんだ?」
「レイダがからダに巻いた収納魔法具を、お売りクださい」




