598:悪逆令嬢ロットリンデ、ジューク・ジオサイト氏推参
「生意気ですわよ、ジュークのくせに。いいから早く、この小猿を制圧して!」
誰が小猿か。迅雷迅雷五百乃大角ぁ!
くそう! それでもさっき動いたって事わぁ又、何かの弾みで動きそうだがよぉー!
「やだよ。僕はもう閉鎖空間の中を、片付けるのにクタクタだよ」
地の底から聞こえていた男の声が、急にはっきりと聞こえた。
それはまるで地の底から、這い出してきたようで――
心底、薄気味悪かったが、こちとら身動き一つ出来ん。
「良いから、早くなさいっな!」
うるせぇ。
耳元で金切り声おぉー、上げるんじゃねぇーやぁーい。
おれを抱えたまま振り返る……たしか悪逆令嬢とか呼ばれてる、交渉相手。
「けどさ……僕はもう目が――」
そこに立っていたのは、そこそこ上等な冒険者装備に身を包んだ、帽子姿が、よく似合う男性。
どこから現れやがった!?
年の頃は20歳代くらい……ニゲルに毛が生えた程度。
若くはねぇが、そう歳でもねぇ。
そして、その瞳は閉じられていた。
「あなたまさか、眼を――!?」
男性を気遣う様に、駆け寄る悪逆嬢。
折角捕まえた小猿をいきなり、投げ捨てる位には慌ててやがるぜ。
「――開けるのが面倒だから、閉じてますわね!?」
「痛い痛い、やめてやめてぇー!?」
「どこまでぐうたらなんですのっ、貴方と来たらもうっ――」
何だぜ?
このやり取り。どこかで見覚えが――?
高貴な気の強ぇ女に、情けねぇ男が……尻に敷かれる様。
超マジで見覚えが……あらぁ。
「ほらお開けなさい! この高貴な私を拝顔する栄に浴しなさいませぇ――!!!!」
ぐぐぐぐぐっ!
さっきのあの怪力で目玉を、こじ開けられたら――
「ぐぅぅぅうっぉぅうわわわわぁぁぁぁっ――目が目がメガガァ――――!?」
崩れ落ちる、男性。
今の隙に逃げても良かったんだが、どうせ行き先は――この怪力で横柄な女性だ。
「大丈夫かぁ? これを使ってくれやぁ」
ヴッ――――おれは蘇生薬を、哀れな男性に差し出した。
§
「僕はじゃなかった……儂はジューク・ジオサイトじゃよ。この先にある、大森林観測村の村長だ……じゃよ、ふぉっふぉっふぉぉ♪」
なんで、言い直した?
お前さまがぁ、村長だとぉ!?
するとおれたちの交渉相手わぁ、この爺さんと言うには若い衆……そこまでは若くもない衆ってことか?
「おれぁ、じゃなかった。こほん……私わぁガムラン町にて商店おぉ、営む者で御座ぇますわぜ。この度わぁ、是非とも村の名産である、とんでもねぇ高級な茶葉をば――」
頑張ってしゃらあしゃらと、話を切り出した。
やろうと思えば、〝リオレイニアならこう言うだろう〟って考えて申真似をすりゃぁ――
出かける前に一通りの礼儀作法を、叩き込まれてきたからなぁ。
「――高級な茶葉だってぇ? それって値段が高い、お茶だよね~? こんな田舎に、そんな高級品なんてあるわけな――ないじゃろうてぇ、ふぉっふぉっふぉ――げっほけほっ!」
話を食い気味に、遮られた。
「私も先ほど、そう言いましたのよ? ほら小猿、さっきの女神粘土をお渡しなさいな!」
がしりっ――ありゃ?
今度は正面から来られたのに、逃げる暇も無く――腕を、つかまれたぞ!?
今の動きは何だぜ!?
真っ直ぐ此方に、ただ歩いて来ただけなのに、その影を終えなかったぞ!?
「迅雷迅雷五百乃大角ぁ――たぁすぅーけぇーろぉーやぁぁぁぁー!」
おれは又、とっ捕まった。




