596:悪逆令嬢ロットリンデ、根菜に執着する
ひゅぼっごがががっががががががっ、ぼぼがががががががががががぁん♪
こりゃぁ、あれか。
ミノタウ……声に出すのも憚られる忌事になっちまったぜ、縁起の悪ぃー!
ミ……ミノ太郎と戦ったときや、リオレイニアの中身を再現した、笑う魔法具を捉えたときのような――
(多重ロックオンです、シガミー)
そうだそれだ。外れても外れても、しつこく追って来やがる。
迅雷は腰の革ベルトに差してある。
ふぉん♪
『シガミー>迅雷迅雷! 五百乃大角!』
五百乃大角同様に、返事がねぇ。
(以後、ミノタウロースを〝ミノ太郎〟と、呼称しますか?)
それでも、こんな声が聞こえるのは、そんな気がしてるだけで――
本当に念話が聞こえている、訳じゃない。
根菜さまを落とさねぇように、仕舞っておきてぇんだが――
迅雷の収納魔法具は、今はつかえん。
おれの収納魔法具には、あんまり此奴さまを入れたくねぇんだよな。
迅雷以外の収納魔法に仕舞っておくと――あの野郎は、何処かに消えちまいそうでなぁ!
ぼっがぁぁぁん!
あっぶねっ――横っ飛びに避ける。
四方八方から飛んでくる、大筒のような大爆発!
どったん!
茂みの向こうに、落ちた。
ひゅぼぼぼぼごごごごごごおぉ、ごごぉん、ぼぼぼぼごごごごごぉぉぉぉぉぅん!
偽の山道の横、霞の先。
横道へ逸れると、元いた山道|(の反対側)に戻るのは、人や物だけで――
あの高等魔術は、追ってこなかった。
裏へ回った、おれの目のまえ。
霞にぶち当たり――ぼごごぉん、ぐらぐらららっ!?
辺りを揺らす、色とりどりの大爆煙。
お陰で助かったが――並の冒険者なら、とっくに丸焦げだぞ。
くるりとこちらを振り返る、ご令嬢。
いや、年齢は――
おれが前世で厄介になってた飯処、香味庵の女将くらいか。
当時おれぁ、四十路の宿無しで――
向こうは、三十路くれぇじゃなかったか?
そんな歳にみえる、短くなった鉄棒を持った女が――
「お寄越しなさい! 言い値で買ってえ、あーげますかるぁぁ――――♪」
ぼっごっわぁぁっ――――仕方ねぇ、おれは五百乃大角を放り投げた。
ズザザァッ――草履の足で地をつかむ――ズダダダッ!
果敢に飛び込むが――捨て身じゃねぇぞぉ。
落ちてた錫杖を、ひっつかむ!
上下倒に、蜻蛉を切った!
「ッチィイィィェェェェェェェェェェェェェイィイイィィッ!」
シュッカァァァァァンッ――――ごごぼごわわわぁぁぁぁっ!
目に見える爆煙は、指の間×両手。
猪蟹屋装備を着てるから、一度や二度直撃を食らっても、大事には至らん。
のだが、一つでも切り損ねたら、その一つが弾け――次の爆発に取り付かれる。
グゥングググゥン――燕返し四連撃。
修行も試し打ちもなしに、出来るもんじゃぁねぇだろうガァ――――ボゴッガァァァァァァアァンッ♪
ほらみろ、最後の一つを逃した!
くそう足に、一発食らっちまったが――ザァッ!
二鼠足袋が殊の外、頑丈で事なきを得た。
「ばかやろう! 此奴だけは売れん。此奴は、この御神体を無くしたら、そう長くは生きちゃいられねぇ!」
目線を大穴の方へ。
足はフカフ村が、ある方へ。
錫杖の鞘を跳ね上げ、根菜さまを弾く。
スゥゥウゥゥッ――チャキン、ガキン♪
錫杖を収める。
「はぁ!? 小猿は今、この私を謀りましたわねっ!? お人形ちゃんが、生きてるはずが無いじゃ有りませんのっ! もう許しませんよっ!?」
遠くなる、御簾路頭・厘手の綺麗な声。
うしろ手に根菜を、つかみ取り――――
おれは脱兎の如く、逃げ出す。
フカフ村とやらへ。
この先の道にも大穴があったら、迅雷が居ない今、間違いなくお陀仏だ。
だが、さっき一瞬だけ上から見た、巨大な大渓谷に続いているなら――
縦に道が出来る。
(その心は?)
鉄下駄が使えりゃ、あの大申・御簾路頭相手でも活路が、見いだせるだろぉがぁ!。




