593:大森林境界、破戒僧シガミー(メイド?)VS悪逆令嬢ロットリンデ(吸血鬼?)
裾の長い細身のドレス。
それがまくれ上がる程に、開かれていく――
綺麗な女の太股。
カァンと踏まれた平石が、バガンと割れ――
ぼががんと、弾け飛ぶ。
まさかその尖った靴の、棒の支えわぁ――
魔法杖じゃ、ねぇだろうなぁ!?
素手のミスロット・リンデが、さらに歩を進めると――
ばっがぁぁぁぁん、ぼぼごごぉぉぉぉんっ♪
地を這う爆発が強まり――垂直に突き刺さっていた、鉄棒が吹き飛ぶ!
「お行儀が悪ぃぜ? 大森林の領主さ――ま――よ――ぉ――!」
弾け飛ぶ地面の小石や木くずが、空中に止まった。
くるんくるん――くる――る――ん――――ぱ――し――りっ!
落ちてきた魔法杖を、後ろ手に受け取る様も――ぴたり。
ミスロット・リンデの動きが止まった。
こりゃ念話の何だっけか……たしか〝思考加速〟とか言う奴――
かと思ったが、迅雷が現を抜かして止まってる以上、そうじゃねぇ。
悪鬼羅刹と呼ばれた、おれが日の本で培った――いつもの奴だ。
言ってみりゃ、生への執着そのもの。
仏道に帰依した身じゃ――皆目、面目のねぇ話で。
背後から突き込まれた切っ先を避けたり、一里向こうの山に生える木の、葉が揺れるのが見えたり。
甲冑を着た雑兵相手に生き抜いた、僧兵のなれの果て。
その技は、何度か作り替えられたらしい、今の童の体にも息づいている。
ぼっ――――!
突き込まれる鉄棒がぁ、おれの口を狙ってやがるぜ!
「ッチィイェェェェェェェェェェェェェェイッ――――――――――――――――!!!」
斬る。斬らんと、こっちが中から弾けちまわぁ。
あの重い鉄棒は、おれの居合いより――剣速が速ぇ!
ザッギィィィィィィィィ――――――――――――!
散る火花に、目を眇める。
ヴォゥ――♪
『HP/■■■■■■■■■□4936/5009
MP/■■47/48』
閉じた目に映る、この世界の理。
緑色の棒と紫色の棒は、迅雷が見せる画面とは別に、映し出されている。
緑色の数字が、減ってやがるぜ。
あの馬鹿力で、こうも押し込まれちゃ――
斬られてなくても、疲れが溜まる。
対外的にはLV46のおれが、この体力を持っていたらおかしい。
魔力の少なさも人並み外れていて、一般的な冒険者の埒外に居る。
もっとも此方は本当に、まるで上がらないままLV100になっちまったんだから、仕方が無い。
それでも、追加で取ったスキルのおかげで、ほんの少し増えてくれたのはありがたい。
HP・MPの内訳は人から見られることが無いから、冒険者カードみたいに偽装しなくて良いから助かった。
そして画面の中。
おれの体の様子を知らせてくる――
伸び縮みする棒や、蠢く波形。
表示されるのは、迅雷が居なくても使える部分だけで――
見た目は相当、寂しくなった。
迅雷も五百乃大角も、まるで返事をしやがらねぇ。
神域惑星のときは返事が無くても、仕事はしてくれたんだがな。
ふぉん♪
『シガミー>迅雷、小太刀を出せるか?』
返事はねぇーし、小太刀も出ねぇ。
このとんでもねぇ爆発する高等魔術と、オルコやノヴァド張りの怪力。
まだ今のところ、そこまで体力は削られちゃいねぇが――
でかいのを一発もらえば、常人の倍の体力があろうと――
どうなるか、わからん。
ザッギィ――火花は、まだ散ってる。
この間延びした刹那の中。
この自前でも金剛力なみの力が使えるようになった、この体で。
力一杯、押し返してるってのに――
突き込まれた刺刺が、まるで引き離せん。
自分の体と同じ長さの直刀を抜くには、一息に刀を投げ飛ばす必要がある。
刺刺の杖先は押し込まれる一方で、もう鼻先だ。
そうなると鞘を持つ腰を捻り、逸らしながら体を引き――
さらに踏み込んで――打ち込むしかねぇ!
こんな芸当は敵が轟雷や、手足を倍加した鬼娘並みの――
怪力だから、出来ることだ。
斬るのに要る剣速は、向こうの怪力で補ってもらう。
ザギギィ――おれはもう一度、目を眇め――――
ギュヴヴヴヴッ――――――『滅モー』
急に画面の一部が、復活したが――!
ばかまて、〝滅モード〟は出すな!
流石に交渉相手を二つに、しちまうわけにはいかん!
仏門に入る前に習った剣で、一度だけ出来た――飛ぶ鳥を斬る太刀筋。
そいつはこの来世で使うと、一町向こうの岩壁を横薙ぎにする。
そのときは、強化服2号を着ていたが――
ひ弱な星神が、おれの体を操るために、星神力で強化した――
今のこの体じゃ、同じ事が――出来ちまうだろう。
糸紡ぎに没頭したら、体が勝手に動いたことがあった。
切れが良すぎるせいか、現を抜かすと勝手に動き回る体。
座禅を組んで経を読むのも、控えてたが――『滅モ』『滅』『_』
よし、危ねぇ技の印が――消えたぜ!
ギッギィィィンッ――――あ、いけねぇや!
どっちにしろ――腰を回して、引きながら――
ガッギュヂィィィィィィンッ!!
本気で、斬っちまった!
刺刺の付いた魔法杖の先が、クルクルと回る。
落ちていく女の腕。
「悪ぃ、つい斬り返しちまったぜ!」
やべぇ、蘇生薬は!?
さっき全部、ばら撒いちまったか!?
直刀を収め、腰のベルトを探りつつ――振り返る。
「驚きましたわ。ちょっと脅かすだけの、つもりでしたのに♪」
とても腕を落とされた奴が、出して良い声じゃねぇ。
おれだって腕を斬られたら、叫び声すら上げられず――
喚き、のたうち回るだろうさ。
目の前に落ちていた、女の影がねぇ――何処行きやがった!?
地に落ちたるは、刺刺の短い鉄棒と細い腕。
間違いなく、おれの剣は女の魔法杖と、女の腕を切った!
細い腕が、ぶるりと震え――ぼごわぁっ!
腕形の爆煙が、風に流された!
ちっ、してやられたぜ!
切り結ぶ最中に、敵から目を離すなんざ……初陣以来か。
「この私に、回復薬を使わせるなんて――――クピクピリ♪」
その声に、顔を上げた。
短くなった魔法杖を、垂直に立て――
その上に、片足立ち。
薬瓶を二本、咥えたご令嬢が――どごわっああああああああ――――――――!
両の掌から、ばかのように、どでかい噴煙を立ち上らせていく!
それは――それはそれは、色とりどりで――




