59:シガミー(元破戒僧)御一行様、起業のすすめ
あさからリオとレイダと一緒に作った寿司が、ぜんぶで100個はあったはず……本当にここの連中は、よく食うな。
じゃあ、そろそろお開きにするか。
木箱にたちあがる。
「きょうは来てくれて、ありがたかったぜ。おれぁ下っ腹……じゃなかった、五百乃大角の下っ端だからな。神さんにうまいもんを食わせて……供えてやりてえと思ってる」
え、なんの話だろ? イオノファラー様のご加護でここにたどりついたってのは、まえに聞いたけど。
わからねぇが、パーティー結成の決意表明じゃねーのか?
「ひとことで言うと〝なんかうまいもんはねえか〟ってはなしだ。女将んとこの料理よりうまけりゃ文句はねえ」
「なんだって、聞き捨てならないよシガミー?」
わはははは。
女将が受けてるな。
「ああ、だから、そんなうまいもんを見つけたら、おれかリオレイニアにおしえてくれ――お頼みもうすでござる!」
わはははは。わかったぜー!
ござる?
わかったでござる?
ござるでござる?
つい大和言葉がでちまった。
けどやりきったぜ、上出来だ。
ふう、木箱にすわる――――カラン♪
おれの首には朱色の紐を通された、木の板……じゃなくて〝銀の板〟がさがってる。
レベルは7から、ひといき飛びに20になった。
なんでも魔王を倒した姫さんを、さらに倒した褒美って事らしい。
しかも討伐せずに、手なずけた事に対する棒茄子てぇのがおまけでついて、こんなLV20になっちまった。
木の板が割れて、中からコレが出てきたときは驚ぇたが、そういうもんらしい。
リオレイニアが見せてくれた金の板は、たしかにもう一回り小さかったから、銀板が割れると次に出てくんのは金の板だ。
そこまでいきゃぁ、なんの気兼ねもなく、リオレイニアを仲間と呼べる。
ヴッ♪
「(シガミー、リカルルが来ました。神力台に仮面を置いています)」
きたか、挨拶くらいしとかねえとな。
「よう、姫さん」
「さっそく、使わせていただいてるわよ」
神力台の、ご利用には金がかからねえ。
かってに充電して、かまわねえ仕組みだ。
おれと姫さんの対峙。
すぐそばで、みまもるリオとレイダ。
ふたりの為にも、かっこ悪いところは見せらんねえ。
チチチッ――――ピーッ♪
ほどなく終わる、賄屋礼巣充電。
「じゃあシガミー。リオレイニアのことは、たのんだからね?」
かぱり。仮面をつける姫さん。
これは、もう一戦やろうってわけじゃねえ。
甲冑も着てねえし、きょうは帯剣すらしてねえ。
つまり、照れ隠しみてぇなもんだ。
「おう、まかせとけ。ぜったいしあわせにしてやるつもりだ!」
――――ビクリ!?
肩をふるわせ、シガミー邸へ逃げてったリオを――レイダが追いかける。
なにやってんだ、あいつらは?
「(わかりかねますが、おそらくは生活魔法の師として、弟子の成長が嬉しかったのではないでしょうか)」
そっか、期待に添えるよう、がんばらねえとな!
「じゃあ、がんばって稼がないとね……具体的には、一日1パケタ半はくだらないわよ?」
「はぁ? なんで!?」
おれの生活費の十倍だ。
「私のもとで働いていたときの給金が25パケタ。定期的に魔物を狩ったときの報酬がざっと230パケタ。それとお父様からのボーナスが50パケタくらい。合計で年間480パケタ――日割りにすれば1パケタと6ヘククになりますもの♪」
計算はええな――あの仮面の機能と思われます。
「(まずいぜ迅雷! そこはまるで考えてなかったぜ!?)」
やべえ。姫さんは――やる気だったみてえだ。
「(そうですね、リオレイニアは99%要求はしないでしょうが、彼女の人生の一端を預かる身としては、リカルル以上の待遇で迎えるべきですし、彼女にはソレだけの価値があります)」
「(同感だぜ。五百乃大角も、リオを気に入って「ぜったい逃がすな」って厳命してたしな)」
けど、一日1・6パケタ。それにおれと迅雷が生きていけるだけのぶんを足すと、とんでもねえ金額になる。
「それでね、シガミー? どうしてもっていうのなら、このわたぁくしがぁ『シガミー御一行様』の一員になって、もろもろ工面して差しあげてもよろし――――」
「いいエ、その必要はアりません。私、迅雷に2,3の当てがゴざいますので」
「ほんとか迅雷!?」
「はイ、シガミー。避雷針の保全業務に対して月ニ8パケタの収入を確約さレております。それを元手に商会を立ちアげようと思いマす」
「え、ちょっと? わ、私が入って差しあ――――ぐひぇ!」
あわてる姫さんの首根っこをつかんだのは、腕を倍の太さにした鬼娘。
姫さんとならんで、看板受付嬢と名高い。麗人、オルコトリアだ。
「アンタが抜けられるわけないでしょーが! 『聖剣切りの閃光』だって、三ヶ月にいちどの魔物境界線の保全業務があるんですからね?」
リオレイニアが抜けた穴には、オルコトリアがしぶしぶ志願してくれた。
どうも、以前から姫さんの横暴……もといわがまま……じゃなくて傍若無人な振る舞いに手を焼いていたメンバーから誘いがあったらしい。
ひょいひょい、がしり。
「――むぎゅへ!」
持ち運びやすく持ちかえられる、領主の娘。
手なずけるってのは、ああいうのを言うもんだよなあ。
おれは銀の板を、懐にしまい込む。
「――じゃ、じゃあ、その商会の店舗は私のもち物件から、ご用意させていただきますわぁ~! リ、リオレイニアのこれまでの献身に対するせめてもの謝礼です。こ、これなら文句ないでしょぉうぅ!?」
リオレイニアとの接点を、なにかしら保ちたいという、往生際の悪さ。
これは日の本では、みたことのないものだ。
「はい、リカルルさま――――ですが、私はリカルル様のことも心配……もとい大心配ですので、これまで通り、お屋敷住まいをお許しいただけたらと思っていたのですが――――?」
「あらん、そうでしたの? 私はてっきり――――」
はい、話はそこまで。アンタは、まだ仕事のこってるでしょ。
「じゃ、あたしがさみしいからシガミーは時々、女将さんのとこに食べに来なさいね」
じゃそういうことでと、鬼娘がズシンズシンと、去っていく。
「あれ、レーニア……じゃなかったリオレイニア。こほん……いま大心配っておっしゃいま――――ズシンズシンズシシン!
力強い足取りは、かなり早くて、姫さんの声は、スグに聞こえなくなった。




