583:大森林観測所への道、ユークリッド山道
「ちょっくら、おれが上から見てくらぁ――!」
ヴッ――錫杖を取り出し。
スッタァァァン――――!?
おれは上へ跳んだ。
ヒュォォオォォォオォッ――――♪
とおくを鳥が飛んでいて、風が心地よい。
来た山道の振り返れば、レイド村がちゃんとある。
そして道には、誰も居ねぇ。
ぐるぐるぐるるんっと錫杖を振り回し、向きを変える。
「何だとっ!?」
道先に有るはずの、険しい大森林がなくて――
ソコには巨大な地割れと、ソコから沸き立つ――
溶けた岩。
大河のように曲がりくねる、長大な大渓谷が――
何処までも続いていた。
「おい、この先にはフカフ村が、あるはずじゃなかったのかぁ?」
飛び上がった勢いが尽き、おれは落ちていく。
「ソの筈でスが、全方位スキャン開始しマす」
グゥン――――迅雷が対空する。
おれは錫杖を捨て、迅雷が回収。
ぱしぱしんと、両手で浮かぶ棒をつかんだ。
モソモソ村からガムラン町近くの火山ダンジョンまで出来ちまった、大渓谷みたいじゃねぇか?
ヴヴヴヴヴゥゥン――――ゆっくりと落ちていく、おれたち。
空中に浮いた迅雷は、重い物を運ぶことが苦手だ。
機械腕が地に付いてさえいるなら、工房長の鉄塊だろうが持ち上げられるが。
下に居る二人に、声を掛けようと、下を見た。
「なっ!?」
どういうことだっ!?
足の下に地面があるぞ――スタンッ♪
おれは靴底で、地面を踏んだ。
「迅雷!」
どういうこった迅雷?
「スキャン終了。各種データハ現在位置ニ異方性が無いことを示しテおり、ユークリッド空間内におケる連続性が保たれているコとを示唆シていマす」
わからん、どーいう?
「狐ヤ狸に化かサれている訳でハ無イ、ト言うこトです」
じゃぁ――「おおぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉーーーーーーーーーーいぃいぃっ!!」
大声で叫んで見るも――返事がねぇ。誰も居ねぇじゃねぇーか。
おっさんも神官女性も女将さんも、子供たちやリオも居なくなっちまったぜ?
あと、おにぎり騎馬一式や五百乃大角。お猫さまに星神に担任教師――とニゲルまで。
すっぽ――こぉぉん♪
てちり。
「何してんのよ、あんたわぁ?」
てちてちてちてちてちてちてちてちり!
まるで痛くはねぇが、うぜぇ!
おれは頭を振り、落ちてきた根菜さまを、ひっつかむ。
「おまえ、どっから湧いた?」
ふぉん♪
『イオノ>どっからって、すぐソコからよ? ばかわの?』
うるせえ。
小さな手が、レイド村の方向を指さした。
ふぉん♪
『シガミー>おれには誰も居ねぇ道にしかみえんぞ? おっさんや神官ともはぐれたし』
ふぉん♪
『>私も同様です。現在の外界状況にエラーは発生していません。盗賊の一人が「偽の道」と発言していたことと関係があるのでは?』
「あれっ!? どー言うことぉー? ちょっと女将さんに聞いてく――あれ?」
すっぽ――こぉーん♪
また頭の上から落ちてくる、根菜兼御神体さま。
「どーしたぁ?」
丸い顔を、良ーく拝む。
「ホシガミちゃんの頭に、飛び移れないわよ!?」
丸い顔が『(゜⊿゜)』と、驚いてやがる。
ヴヴヴッと震える根菜が――
『(>ロ<;)』『(ノД`)』『(º﹃º《》)』
浮かぶ球を三つ取り出した。
ヴォヴォ、ヴォヴォ、ヴォヴヴォォォッゥン♪
一本道の前と後ろ、それと空高くへ飛ばす。
「――ちょっと迅雷、どー言うことわのっ!?」
三つの球どもは、とうとう帰ってこなかった。




