579:大森林観測所への道、ひとまずレイド村へ
「これはこれは、ようこそおいで下さったのう、へへははぁー!」
レイド村の転移陣へと飛ぶと――
レイド村村長が、出迎えてくれた。
ふぉん♪
『人物DB/ナッツバー
レイド村村長』
そうだ、そんな名だった。
「みゃにゃぎゃにゃぁー♪」
かしずくナッツバーの頭に、そっと根菜さまを乗せる――強化服自律型一号。
「こら、失礼だろう、おにぎり……御使いさまぁ」
おにぎりに付き従う青年が、そっと村長の頭の上から――根菜さまを回収する。。
「滅相も無いわよっ、従者さまぁ♪ お構いなくぅ?」
ニゲルがおにぎりを御使いと呼び、根菜がニゲルを従者と呼ぶのには訳がある。
そんな下手な芝居を打つのは――
「これはこれは、お久しぶりで御座います。女神さまと御使いさまと、その従者の剣士さま♪」
ナッツバー村長の傍らに片膝を突き、組んだ手をむぎゅりと鼻に押し当てる。
ふぉん♪
『人物DB/ナーフ・アリゲッタ
イオノフ教神官にして、レイド村神官長代理
現在サステイン村の教会より出向中』
敬虔なイオノフ教神官女性である彼女――
汝阿符在下駄が、居るからだった。
§
ヴァタタタタ、ヴゥォォン♪
〝泥音〟とかいう飛ぶ板を飛ばす。
「高く飛ばすなよ? また撃ち落とされちまわぁ」
「了解デす」
ブォォォォォ――――ゥン♪
飛ぶ板は秋空を漂う勝ち虫のように、おれたちを見下ろしている。
「――ニゲルさまぁ、ららぁぁん♪――」
ちなみにニゲルの新しい服は、王女殿下から大絶賛された。
「――ちょっと、おにぎりが御使いさまって、どういうことですの?――」
こっちの映像は飛ばした飛ぶ板越しに、ちゃんと届いているようだ。
安心したがカナル型イヤホン越しに喚くな、うるせぇ。
姫さんたちは、大講堂に残っている。
険しい山道を歩かせるわけにはいかんし、万が一のとき、王様や魔導騎士団へ渡りを付けてもらえるからだ。
「それが……ひそひそ……いろいろと有りまして。村長たちの勘違いを訂正するのが……ひそひそ……面倒だったのです」
おにぎりがイオノファラーの御使いさまとかいう話は、レイド村復興作業に先行した一部の奴らしか知らない。
しかし随分と正直だな、リオレイニア。
「「――なるほど?」――ららぁぁん?――」
「ギャッ!? ビステッカ!? なんでこんな辺鄙な、超絶田舎村にっ!?」
出迎えてくれた神官女性の目が、見開かれた。
「ナーフちゃん!? なんでこんな辺鄙な、超絶田舎村に!?」
五百乃大角とそこそこの大食らい勝負をくり広げる、いつも巻き毛がわさわさしてる子供。
そいつが神官女性を、指さした。
ふぉん♪
『人物DB>初等魔導学院1年A組
ビステッカ・アリゲッタ』
弥笥体迦在下駄……ビステッカアリゲタ――ビステッカだったな。
ふぉん♪
『シガミー>〝アリゲッタ〟てのはどこの、お貴族さまだったか?』
ふぉん♪
『リオレイニア>失礼致します。ガムラン町とは央都を挟んで反対側の、大陸最端の辺境伯です』
おれが作った新しい眼鏡は、一行文字を見るだけじゃなくて――
向こうから参加することも出来る。
ふぉん♪
『ルガーサイト改【金剛相】
防御力310。魔術的特性の構成質量をキャンセルする。
装備した者の眼光を抑制すると同時に、
魔術構文の概算化による詠唱時間短縮。
追加機能/使用者の好みに形状変化可能』
すっぽ――こぉん♪
ふぉん♪
『イオノ>それってガムラン町みたいわの?』
「そんなにぃ、むさ苦しい感じにわぁー、見えないけどぉん?」
根菜がおれの頭じゃ無く、リオレイニアの頭の上に降臨した。
次から次へと、余計な手練……根菜技を身につけやがる。
ふぉん♪
『>私かシガミーが同席する場合、〝ルガーサイト改〟の装着者に着陸出来ます』
うーん。ほかにはおにぎりや茅野姫の頭の上にも、飛べたっけか。
「(間違ってもリオに迷惑を、掛けるんじゃねぇぞ?)」
ふぉん♪
『イオノ>わかっています。蜂女ちゃんは〝シガミー御一行様〟の紅一点。優しくしてあげますわよ♪』
こうしてリオに内緒の一行表示も使えるから、この世界や日の本の話も出来――紅一点?
ふぉん♪
『ヒント>紅一点/読み:こういってん。庭園の緑の中に一輪の赤い花が咲いている様子。ひいては多数の中で異彩を放つこと。男性の中に女性が一人居ること』
中級冒険者パーティー『シガミー御一行様』の構成は――
おれとレイダと茅野姫。あとは根菜と迅雷と、リオレイニアだけだ。
あいつは平たい体つきをしていて、岩壁姫なんて異名も有ったりしたが――
他は子供かりで〝女性〟にゃ、程とおい奴ばっかりだぜ――納得しかねぇ。
こうして日々、神々の言葉や、この惑星ヒースのトッカータ大陸共用語なんかを覚えてきた。
話すこととまるで別のことを考えるのは、仏道以前に人として褒められたことじゃねぇんだが。
中々どうして、知恵も増えるし、何より――魔物や化け物とやり合うときの、修行になってる。
「大陸最端の断崖の向こうには……ひそひそ……海があるため外敵の心配はありません」
魔法杖じゃぁ、塩の水の上を飛べねぇんだったな。
理由はミャッドにも、わからんらしいが。
「じゃぁ、冒険者たちしか居ないガムラン町とは、違うのぉねぇん?」
てちてちてち、ぺちり♪
まるで痛くねぇだろうが、頭を叩いてやるなよ。
「はい。大陸全土を支える、一大穀倉地域です」
つまり、のどかな田舎ってことだな。
ふぉん♪
『イオノ>それで何がおいしいの、その土地わぁ?』
ふぉん♪
『リオレイニア>そうですね、全体的に優しくて甘い料理が』
食いもんの話に、なっちまったな。
悪いが根菜さまの食い道楽は、食う前に話を聞く所から始まりやがるから――
すこし相手をしてやってくれやぁ。
「やい、お前ら。そう田舎田舎と捲し立てるんじゃねぇやい! 田舎村の田舎村長が、泣いちゃったじゃんか!」
崩れ落ちる、ナッツバー村長へ手を差し伸べる。
「よ、よよよよ、良いのじゃぁ。がさつな料理番さまぁ~!」
ぷるぷると、しわしわの手を差し出すご老体――いやまてぃ!
「誰がぁ、がさつだってんだぜ!」
差し出されたてを、ぺちりと叩いてやった!
「「こら! どこからどう見てもシガミーは、がさつです」」
くそう。パーティーメンバーから、言い切られたぜ。
そう、おれたちは早速、大森林観測村最寄りの〝レイド村〟までやってきたのだ。
なんでか、子供たちまで引き連れて。
§
「フカフ村なら、この先の寂れた険しい道を、三週間程進むと見えてきますじゃ」
立ち直った村長が、獣道を指し示す。
3週間の道行きか……結構な行軍だぜ?
ふぉん♪
『>我々なら推定、3日から5日で踏破出来ます』
ふぉん♪
『リオレイニア>イオノファラーさまの転移扉が使えるので事実上、兵站の心配は要りません。時間的にも冬の学期が始まる二ヶ月半までの、猶予が有りますし』
受けたクエストには、完了期日の指定は無かった。
それとは別に学院の、勉強の都合があるだけだ。
しかし、前にも言ったが。
本当この五百乃大角一式が、日の本に有ったら――
ふぉん♪
『>はい。概算ですが約1年ほどで、〝天下太平〟出来ます』
前は14年とか言ってなかったか!?
ふぉん♪
『>長長距離狙撃と強化服技術の向上と、私のタレットスキル解放による評価を更新しましたので』
タターは勘定に入れるなよ。
ふぉん♪
『>でしたら約6年ほどかと』
5年を縮める兵力は侮れんが、冗談でも子供を巻き込むな。
ふぉん♪
『>レイダは良いのですか?』
それも考えんといかんのだが、一先ず保留だ。
日の本に戻る方法もねぇし、やるつもりもねぇ天下太平だったが――
レイダを何処まで冒険者として扱うかは、一朝一夕には決められん。
やること一覧に入れといてくれやぁ――
「いやまて、フカフ村? おれたちが行くのは、大森林観測村だろ?」
おれやリオレイニアの目に、表示されているのは、レイド村周辺地図。
「大森林観測村国じゃないのぉ?」
生意気な子供が、余計なことを言う。
「はははっ、フカフ村の先にまず観測所があるんさね。観測村の名前は――何だかって言うのに変えられたっぽいんだけど、ど忘れしちまったたさね♪」
ふぅん。地図を目で先へ動かすと――
女将さんが言ったとおりに、フカフ村と観測所とやらのアイコンが見えた。
「おやこれはっ――まさかっ!? 神罰の商会長さまではござらぬか!」
「いやぁ懐かしいな。隣町のじいさまぁ! まだ生きてたかぁ、あははははっ♪」
ぺっちんぺっちんと、村長の頭をひっぱたく仏罰の商会長。
「知り合いだったのか?」
「まぁね。フカフ村から物を売りに、しょっちゅう来てたし。なんせ人里に出るには必ず、レイド村を通るしか無いからねぇ」
そりゃ、顔なじみにもなるか。
がやがやがやぎゃぎゃ、わいわいわいわっきゃっきゃっきゃっ♪
うるせぇ。おれたちの背後で五月蠅くしてるのは――
おれは振り返り、〝一クラス分の級友たち〟を見た。
がらららん、ぐわららん♪
うるせぇ。何本もの魔法杖が、ぶち当たる音。
「はーい、みなさーん。山道は険しく魔物も出るそうですのでー、特別講師の先生の言うことを良ーく良く聞いて、楽しいクエストにしましょーう!」
線の細い担任教師が――特別講師へ丸投げする。
ふぉん♪
『人物DB>ヤーベルト・トング
初等魔導学院1年A組担任教師』
こんな大所帯で子供たちを一クラス分も引き連れて、険しい山道を行くのは――
相当骨が折れるから、気持ちは超わかるがぁ。
「はいはぁい、はいはぁいぃーん♪ みなさん、おれっちに注目ーしてっ? ねーぇ?」
出たぜ、奇天烈千万。フッカの父親。凄腕の地図屋。
おっさんが素面になるのわぁ元魔導騎士団総大将ルリ-ロさまの、前だけと来てやがる。
「「「「「「「「「「「「「「「はいははーい♪」」」」」」」」」」」」」」」
子供受けは、矢鱈と良いな。
ひゅひゅひゅひゅんっ――――カチャララララッ♪
おっさんが手にしてるのは、小さな槍の束と大量の細縄。
舞い上がる小槍と細縄。
すぽすぽすぽすぽこぉん――大きな腕輪に全部が、仕舞われていく様わぁ――
おれの大道芸よか、手際が良かった。
「「「「「「「「「「「「「「「わわーい♪」」」」」」」」」」」」」」」
受けも良いときてらぁ。
少し悔しいぜ、どーする迅雷!?
ふぉん♪
『>日々精進するしか有りません。せいぜい我々の芸の肥やしにさせて貰いましょう』
おう、面白ぇ技を見せたら記録しとけや!
おっさんのあの道具のせいで、ずっと働きづめだったんだし、文句も言われんだろう。
あとで見返して芸を、盗んでやるぜ――フフフヘヒッ♪
ふぉん♪
『>そうですね。ミギアーフ・モソモソ氏の要求した装備は、規格外の精度を要求されましたし。それくらいの恩恵を受けても、良いと思われます』
ふぉん♪
『>そうだぜ。アレと比べたらこっちは、よっぽど簡単だったぜ』
よっこらせっと――――――――――――ヴヴヴヴヴヴウッ♪
ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこむん♪
ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこむん♪
ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこむん♪
ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこむん♪
ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこん、ぽきゅぽこむん♪
それは一クラス分の、シシガニャン特撃型改。
出しただけで超絶に、喧しかった。
勝ち虫/蜻蛉のこと。前にしか進まない不退転の動きから、いくさ事に験の良い虫とされた。




