569:龍撃の終結、かりゅうのねどこ全壊
「居た! あんな所で、伸びていますわね――♪」
スラァァリッ――まてまて豪奢な細剣を、抜くんじゃねぇやぁ。
「ニゲル、姫さんを押さえといてくれ!」
コントゥル家に縁が無くて、あの戦闘狂を押さえ込める人間なんてのは――
「(さっき轟雷を貸してやったし――)」
正直、ニゲルくらいしか知らん。
ふぉん♪
『>はい。対価代わりに、仕事をしてもらいましょう』
「わかったよっ、シガミー! 僕はこの手を、一生離さないよ!?」
そういう台詞は二人きりの時にでも、言ってやれや。
「ちょっ、この千載一遇のチャンスに――お離しなさいなっ!」
振りほどこうとする手を、もう片方の手でつかむ青年。
二人の視線が、交錯する。
「あら良い雰囲気?」と色めき立つ周囲に反して――
「ふんす」と鼻であしらう、リオレイニア。
「ニゲルゥ――――――ぼごわぁ!」
がっちりと組み合った両手を、ぎりぎりと持ち上げていく――
見てくれだけは見目麗しい、伯爵ご令嬢。
「なんだい、リカルルさまぁ――――!!」
組み合い押し合う二人の周囲を、狐火がゆらゆらと漂う。
「「ふんっ!!!!!!」」
ゴゴゴォォン!
あまりの膂力に、地を凹ませる二人。
「はい、解散解散。皆、持ち場に戻りなさい」とリオレイニアに蹴散らされるまでも無く、華やいだ空気など漂う前に霧散した。
火山は中腹から上を殆ど崩してしまい、今まで見渡せなかった、裾野の向こう側が見えている。
ずっと遠くに魔王城。
おにぎりが山頂を吹き飛ばした、険しい山岳地帯。
そして方向としては逆、レイド村方向に大きな森が広がっていた。
あんな所にも森があったのか。
相当遠いが、いつか薬草や食材を探しに行っても良いかもしれない。
迅雷、あの森、記録しておけるか?
ふぉん♪
『>了解しました。女神像ネットワーク未敷設エリアのため後日、回収する必要がありますがドローンによる先行測量を行いますか? Y/N』
そうだな……迅雷や神々どもに負担が掛からんなら、『Y』。
ふぉん♪
『>では魔王城や神木跡を定期周回させていたリソースを、回しましょう』
§
さてルリーロさまは――「何をしてやがるんだぜ?」
岩の地面に倒れたまま、身動き出来ずに居るぞ?
「し、シガミーちゃぁーん。たすけてー」
相当に弱ってやがるぜ。
姫さんじゃ無くても、これは少し面白ぇ。
「流石の眷属さまでも、あの木龍相手じゃ堪えたかぁ?」
周りには何もねぇ。
〝ルードホルドの魔法杖〟と、おれがやった白鞘の日本刀が転がってるだけだ。
離れた所に、リオレイニアが空けた大穴が空いてる。
ダンジョン地下二階の、大きな空洞だった所らしいな。
おれたちが火龍ゲートルブに挑み――
おれが〝狂獣ミノタウロース〟と果たし合った……らしい場所だ。
「違うんですよぉー。この場所ぉに足を踏み入れた途端ぅ、なぁんかぁ、ふにゃぁーってなってへにゃぁーってなっちゃうのぉー……よぉー?」
首を持ち上げることすら出来ず、倒れたまま話す奥方さま。
そういや、なんか……息苦しい気がしねぇでもねぇな。
「んぅ、まてよこの暗い岩色。ひょっとして魔法が使えなくなる場所かっ!?」
おれは「ひかりのたま」を出してみたが、殆ど灯らずに消えちまった。
しゃぁねぇなぁ――と奥方さまを、持ち上げたら――
ちょろちょろ、うろちょろろろろっ♪
「うっひゃわぁぁぁぁっ!?」
魂消た。
ルリーロの下から、わらわらと這い出したのは、なんと――
青白い……子狐?
でもねぇか、なんせ此奴らは――青白く燃える炎で、出来てやがる。
「迅雷、何だぜこりゃぁ?」
あやうく肝を、潰すところだった。
「類推ノ域ヲ出ませンが、こノ魔法不可領域ト膨大な魔力量のせメぎ合いにヨり生成されたト思わレます」
子狐火が散り散りになって、離れていくと――「ぅきゅこぉん♪」
ルリーロが、か細く鳴いた。
おれが伸びたお狐さまを背負い、振り返ると――
「(〽大きな角持つミノタウロースにー、あーぁーぁーぁあー気をつけてぇえぇー♪)」
なんか聞こえてきた。この声は子供らか。
ふぉん♪
『シガミー>やめろ、喚ぶんじゃねぇ!』
おう――がり――
「(縁起でもねぇだろが!)」
「〽ウホウホホホォヴォヘェヘェェェェッ――――♪」
負けじと声を張るのは工房長の、野太い吟声。
やめろや、うるせぇ。
§
最大魔力量を増大させる効果がある、魔法不可領域。
猪蟹屋三号店予定地は、学者方たちの楽園となり――
散見される、小さな子狐火。
人魂が、かわいいと評判になり――
「ププププッ、ププークススススッ♪」
守銭奴茅野姫の温床にもなるのは、まだ先の話である。




