567:おとぎ話と龍撃戦、ジャイロマスターフルサポートと魔法の弾丸
「(ばかねっ、カメラアイに頼ってどうするの!)」
もう鉄鎧の体は、撃ち抜かれた。
「(心の目で物を見るのが、僧兵猪蟹の真骨頂じゃなかったわの!?)」
強化服の夏毛に、食い込む悪い顔。
ふぉん♪
『>そんな便利機能もスキルもあるかぁ!』
即死回避、防具修復、強運行使、女神像機能呼出、システム猶予、生存確率上昇、滞空LV2、体幹、ジャイロマスター呼出、体感強化、落下術、脳波補正、滅モード――あった。
今の状況で使えるスキルが、これだけ有りやがる。
ふぉん♪
『イオノ>その弾丸は弾道予測された、<未来の在処>よ。本物は、まだソコわよっ!』
吹っ飛んだはずの迅雷(大筒)が、まだ浮いてる。
そしてその更に、少し向こうには――『ヽ(`曲´)ノ』
ぶにゅりと、悪い顔から迫り出す矢羽根。
此奴ぁ――さっき見た。
おれは、止めていた息を少し吸う。
悪い顔は捻り込んだ動きを――
見せる筈だっ!
「(どうせ間に合わん! 何か溜めるのを、強制終了! そして――広がれっ!)」
ヴォモパッァッ!
大筒いや、単なる筒と化した迅雷の中を――シュゴォォゴォォゴォォゴォォゴォォゴォォォォォオオオオオンッ!
そいつは迅雷を弾くことなく、潜り抜けた。
ふぉん♪
『>弾丸の回避に成』
――功といっても迅雷は、弾丸に追いついた〝尾を引く雲〟に巻かれて――
ギギィィン――どこかへ向かって、吹っ飛んでいく。
直撃され、へし折られるよりゃ大増しだが――
見る間におれに、侵入する――『(`曲´)』。
念話の思考加速が、まだ続いてる?
これは、いくさ場でよく見た、〝周りが遅くなる奴〟かもしれん。
ふぉん♪
『シガミー>今度こそ、叩っ斬ってやらぁ!』
いまさら太刀じゃ、届かん!
胸部装甲板中央に、鱗のような鎧板を尖らせる。
一瞬でも弾丸を押し止められたら、めっけもんだ。
バッシャッ――――鉄鎧の首周りに付けられた、短刀。
それを勢いを付けて、飛ばした。
ギャッギィィンッ!
ようし、目の前で火花が散る!
パキィィン!
短刀の刃が、砕けた。
胸部装甲板の裏には、強化服の眉間がある。
ゆっくりと、近づいてくる――『(`曲´)』
短刀は、もう一本有――バッシャッ♪
「だかるぁ――何回、同じことおぉー、言わせんのさっ!」
スッパシィィィィンッ――――おれの眉間に、突き刺さったのは。
タターが放った弾丸じゃなくて、御神体が手にした紙製の張り扇だった。
あの張り扇を食らう度、『(`曲´)』が居なくなる。
どうも要領を得んなぁ?
心の目で見ろと言われても、今のおれぁ――
轟雷の演算単位が使えるだけの、鉄鎧姿でしかねぇ。
むぅ? 演算単位ぃ?
そりゃ迅雷や、おにぎりの本質だ。
そして、おれの本質は――当然おれでしかねぇ。
じゃぁ、この弾丸を避けるのに二人分の頓知を使ったら、避けられるか?
けどな避けたら、砦周辺が草も生えん荒れ地になっちまう。
ふぉん♪
『>ローンチを確認。シガミーさようなら』
又さっきの、一行文字。
草が生えなくなっても、ただ死ぬよか――
無辺倍増しか。
「(解析指南! 助けろやぁ――――)」
ふぉん♪
『解析指南>姿勢制御ライブラリ/ジャイロマスターをフルサポートいたしますか? Y/N』
解析指南が直接、何かを尋ねてきたのは初めてだ。
頼みの綱の神さんは、おれの顔を叩くばかりだし――
もう神頼みしか道がねぇ――Y。
おれは体を、捻る。
それは、何てことのない動き。
背中の大筒を吹かすどころか、切りやがるし。
夜会の踊りの練習とやらで、まえにリオレイニアが手本に舞った――
手足を伸ばして、くるりと回る。
それを天地逆しまに。
もうどっちが上で、どっちが下かわからん。
チッ――掠る弾丸。
遅れてきた風雲の直撃を食らい、轟雷は吹っ飛んだ!
§
空だ――ぐるん――お次は地面か?
景色が回って、丸茸が顔にぶち当たる。
空――砦――雲――おにぎりに――丸茸。
少し遠くに巨木・木龍――また空で――天ぷら号で――崩れる迅雷。
「死んでねぇ!?――ニャァ♪」
やい迅雷、生きてるか!?
あと五百乃大角は、収納魔法に入っとけ!
丸茸が跳ね回って、顔が痛ぇだろうがっ!!
上空へ吹き飛ばされた轟雷が――――シュゴゴォォォォォォォォォォッ!
背中の大筒を吹かし、滞空すると。
『▲▲▲』
『▼▼▼』
『►►►』
『◄◄◄』
ピピピピ――――ッ!
無数の『ヽ(`曲´)ノ』と、動体検知たち。
そいつらが燕のように、辺りを飛び回ってやがる。
ふぉん♪
『>復旧まで26秒。今しばらくお待ちください』
よし相棒! よくも生きてたな♪
その26秒で、勝敗が決した。
燕どもが、太枝に芽吹いた全ての若芽に突き刺さり――
見る間に、萎れて塵と化した。
おれの大事な薬草たちも、塵と化すのだろうが――
ここは潔く、諦めるとする。
超絶、名残惜しいが、命あっての物種だっ!
ちきしょうめぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっ!




