564:おとぎ話と龍撃戦、撤退そして1年A組のみんな
「4番から6番までっ、一斉射撃ららぁん!」
再び、ぬいぐるみをむしり取り、ぽいぽいぽぽいと投げ捨てる王女殿下!
「コォォォン――――♪」
そこへドガガガッガガッ、めきめきめきょきょきょっ!!
うねる木々に揺られ流れて来る、赤い方の四つ足。
「シガミー! やり過ぎって、どういうことかしらぁぁん?」
そう聞いてくる、ガムラン町の姫さん。
四つ足の獣のような、四つん這いの姿勢は――。
岩場に棲む、火を吐く獣のようにしか見えない。
ニゲルを助けるためとはいえ、ニゲルを脅かすような〝えげつない攻撃〟わぁ。
王女殿下は控えたほうが、〝ニゲルに逃げられなくて〟良いんじゃね。
という進言だったんだがぁ――
何でか辺境伯ご令嬢が、釣れちまったぜ。
その眼光が、揺らめく。
ィィィィィイィィィンッ――――ばっがぁぁあぁぁんっ!!
流れた一条の導火線は、狐火・仙花という――爆発する狐火だ。
視線で辺り一面を射貫かれ、吹き飛ぶ――巨木の蔓や根。
めきょバキ、めきょめきょバギギギッ!
だが大蛇の如き太枝は鎌首を持ち上げ、空の上へ逃げる。
赤い四つ足が狐面を突き出し、顎を揺らすと――ィィィン、ゥワッヴォヴォン♪
直進するはずの導火線が、ぶわりとたわんだ。
「――ココォォン」
ぼっごぉぉぉぅわぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――!!
赤い甲冑の機械の尾から、狐火が吹き出し――
ィィィィィィィィィィィィィンッ――――――――――――――――ガガッッゴォン、バララッラッァァァァァッ!
太枝が一斉に細切れになり、目のまえが開けた。
今のは狐火・月輪。
光の導火線が真円を描く――狐火版の真言みたいな技だ。
ふぉん♪
『>クローズドサーキット・レーザーです』
その呼び名は何だか、締まらねぇんだがなぁ。
まあ、どっちでも良いか。
真っ直ぐだろうが輪っかだろうが、アレに触ると死ぬことに変わりは無い。
「いや何でもねぇ、何でもねぇ。所でよ、奥方さまは大丈夫か? 探しに行かなくて?」
「ココォン♪ 殺して死ぬような器量と、お思いかしら?」
違ぇねぇ。まぁそうなんだが……酷ぇ。
「ヴュザザッ――こちら遊撃班オルタタラー。お姫ちゃんへ緊急連絡ぅ! 弾薬の装填、完了いたしましたぁー♪ ウッケケケケッ♪――」
素っ頓狂な声は、耳栓から聞こえて来た。
あれ!? 五百乃大角、おまえ何処行った!?
丸茸が、おれの顔の横から居なくなってやがるぜ!?
「じゃぁ、いつでも狙えるのね? 観測手イオノファラーさま?」
「ヴュザッ――もちろんでさぁ、本部長!――」
ふぉん♪
『シガミー>お前、今どこだぜ?』
何をしようとしてやがる?
観僧久修に本部長てなぁ、何だぜ?
ふぉん♪
『イオノ>こっちはギルド会館の、屋上わよ』
離れた所からオルコとタターが、巨木を狙うとは聞いてるが――
ふぉん♪
『ヒント>観測手/狙撃手に随行する標的観測の専門家。狙撃手の護衛も兼任し、射撃結果により修正案を提示したりもする』
坊主じゃぁねぇのか。
ふぉん♪
『>『コントゥル辺境伯名代ならびに、木龍の卵追跡本部』における、役職と思われます』
大講堂の入り口に、立てかけてたアレか。
「じゃあ、やっちゃってぇー♪」
そんな本部長の一声で――風が吹いた。
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!
無数の小さな穴が、巨木の蔓や太枝や根に穿たれた。
ドゴッゴォォォッガァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!
爆発し、粉微塵に吹き飛ぶ〝巨木・木龍〟。
おれたちは、炎に巻かれた。
「鉄鎧姿だ、ひとつも熱くねぇやぁ!」
だが、外部カメラが炎で埋め尽くされるのは、やべぇ。
「ららぁん!」「ですわね!」「あっちゃっちゃっちゃぁ――!?」
猪蟹屋標準装備のお陰でニゲルや、二人の姫さんたちも無事だ。
けど迅雷、給仕服の頭の上の奴。
アレの耐熱温度に問題がある、〝やること番付〟に入れとけ。
ふぉん♪
『>〝猪蟹屋制式ホワイトプリムの耐熱対爆仕様化〟を、TODOリストに入』
炎の渦がピタリと止まり?
次の瞬間――シュッゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!
耳を劈く轟音に、苛まれた!
「「「「ぎゃぁぁぁぁ!」――ですわ!」――ららぁん!」――うるっせぇぇぇっ――ニャァ♪」
シシガニャンの中で耳栓をしていても、まるで効きゃぁしねぇ!
「(なんだぜ、この威力わっ!?)」
それに一体何発、弾を込めたぁ!?
「(しかも一遍に此方に、届いてるじゃねーか!?)」
こんなとんでもねぇ数の弾を一度に撃てる程、銃身は付いちゃいねぇだろっ!?
「(おれたちわぁ、一体何を作ったんだぁ!?)」
普通の火縄じゃねぇにしても、こいつぁやり過ぎだぜ!
辺りを埋め尽くしていた炎が完全に吹き飛ばされ、全員が顔を上げると――
メキョメキョメキョゴゴゴッパァァ!
メキメキメキッ!
燻る火から若芽が生え――樹木が茂っていく!
燃える端から芽が出て太枝が伸び、更に芽吹き――
メキバギャゴゴン、バキバキバキバキョッ!!
太枝が塒を巻いた!
「あら、これ駄目な奴ですわね?」
轟く風音。
木々が生え茂り、何処までも伸びていく。
その姿はまるで、急激に湧き上がった雨雲のようで。
おれたちは巨木・木龍の影から、一目散に逃げ出した。
§
「それでおめおめと、砦まで後退してきたわけですね?」
ふぅと、ため息を吐かれた。
這々の体で逃げてきたおれたちを、砦の上から睨めつける蜂。
「そーは言うが、アレを見てみろやぁ!」
おれは、おれたちを追ってくる――
もはや木だか山だか、わからない――
巨木・木龍を、指さしてやった。
太枝が大量に絡みつき、動く山のようになったソレを見た蜂女が――
大きな杖にぶら下がり、ヴヴヴヴーゥンと飛び降りてきた。
「わたしも、戦のい!」
第四師団長の童も一緒に。
§
「つるぎとかせつるぎとかせつるぎとかせっ!」
ヴァチヴァチチィィ――――――――ゴゴゴゴオッ、ドゴボォンゴゴボーン!
太さが5オルコトリアはあろうかという、太枝の打ちおろしを防ぐ――蜂のお化け。
太枝先端に生っていた卵のような果実が、ものすごい勢いで空の彼方へと吹っ飛んでいった。
「ルガレイニアー! お前さんも、大概にしといてくれやぁ!!!――ニャァ♪」
〝ひかりのたての尖った奴〟を、そうぽんぽん出すんじゃねぇやい!
あまりとおくに果実を吹っ飛ばされると、回収するのに一苦労するだろーが!
「ですがー、もうこれしか防ぐ手立てが、ありません!!」
ヴァチヴァチチィィ――――――――ドッゴゴゴゴゴォォン、ガラガラグワララッ、ドゴボォンゴゴボーン!
防ぎきれなかった太枝は砦の城壁を打ち壊し、既に侵入を許している。
砦の中に陣取ったおれたちは、蜂の魔物と黒い騎士を守りの要として――
なんでか事務仕事に追われていた。
おれは轟雷を脱ぎ強化服で、細かな細枝を蹴散らしながら――
第四師団長がいる奥の部屋と中庭を、往復している。
「今また2個も、飛んで行きやがったっ! 占ってくれ!」
そう言って広い部屋に駆け込むと、工房長が金槌を振り下ろしてる。
ボゴッ、メキョキョキョ!
持ち上がり掛けた床石を――ガゴォン♪
叩いて均しているのだ。
「〝大陸間弾道木龍卵〟の14番と15番をー、追跡開始しーたのぃ! はぁはぁ」
魔導騎士団第四師団長が、すっ飛んでいった果実の未来を――占い始める。
その場の全てを記録し、未来を占う――何たらとかいうスキルを、使ってもらっているのだ。
それは魔法杖をまるで――独楽のように回すというもの。
ぐわららららんっ――チリィーン♪
鐘の音が鳴ると童は、必死に何かを唱えながら――
広げた地図の一点に『×』を、書き込むのだ。
「ええと――」
ビビビーが彼女を手伝い、飛んでいった果実の行き着く先を書きとめる。
「あと誰が、残ってるの――?」
レイダがメモ書きとメモ書きと、地図を見合わせ、そうつぶやく。
壁床天井は蒼く、ギラリとした光沢を放っている。
おれたちの〝建国の龍撃の戦い〟を「どうしても見たい」という、一年A組の生徒と担任を――
超女神像がある冒険者ギルドガムラン支部の最上階へ、招待した。
ひとまず展望台から見物しててもらう、手はずだったのだが――
おれは戸口から、頭を出す――ゴォォッ!
上を見れば今にも落ちてきそうな巨木に、圧倒される。
押しつぶされようとしている塔の天辺にしがみ付く――
黄緑色の猫の魔物風を見た。
奴の背中からは、鉄の棒と導線が伸びている。
「ヴュザッ――私ビステッカガ、残ってイますわ――」
五百乃大角と大飯ぐらい勝負を、繰り広げた奴か。
白目を剥いた丸茸御神体が、気取った子供の声で返事をした。
「ビステッカさん。14番がポートフ鉱山手前の街道沿い……えっと、道が三つに分かれてる所の――」
「ヴュザザッ――そこならぁ、たしか――レンゲネム町の女神像が近い!――」
今度は飄々とした男性の声で、返事をする五百乃大角(白目)。
「レンゲネム町に、落ちる予定でーす」
「ヴュザヴュ――はい、承りましたわ♪ 落下予定時刻は?――」
「2時間後です!」
生徒と教師と丸茸(白目)、あとおにぎりが総力を挙げて――
飛んでいった木龍の卵の、〝封印作業〟を行っている。
巨木・木龍の卵が誰も知らないところで土に埋もれてたら、相当厄介なことになるからだ。
猪蟹屋の御神体(白目)みたいに〝木龍の卵〟を茹でたり、奥方さまみたいに火に焼べたりする奴が――
現れないとは限らないから――急がなきゃならねぇ。




