56:冒険者パーティー『シガミー御一行様』、姫さんをたおした
ヴュパ♪
びーどろに映る仮面のなか。
瞳に刻まれた一直線。
魔法の神髄で描かれた曼荼羅が―――ィィィィィィィィイ――――
月影に染まっていく。
ぎちり――――――――シュッボゥ!
おれの両腕が炎につつまれ――る―――ぼぉぅおう!!
また天地逆さま。足下にゃ、空がひろがってる。
金剛力で跳ねまわりゃ、どっちでも関係ねえけどな。
とおくの方に、甲冑姿がみえる――ィイ!
――――――――しゅっがぁんっ!!!
正面からぶった切りをくらい、ぶった切られる両腕。
いけねえ、神速で印を結ぶ手はずだったんだが――これじゃ印を結べねぇぞぉ!
「痛っ――――ありゃ?」
痛くねえっ!?
一瞬、痛かったんだが――ぐるんぐるん!
切られたいきおいで、はじき戻される。
どすんっ――ごろごろごろろろっ!
地を転がるが、これも痛くねえ。
からだの柔らかさが、ぜんぶ吸収してくれる。
「(〝女神に加護〟スキルの発動を確認――奇跡的に可視光通信……乗っ取りに成功しました)」
女神に加護も、乗っ取る理屈も、まるでわからん。
ぼぉおぉうッ――――ふっしゅっ!
両腕の炎がかき消えた――――とおくの草地をふりかえる。
甲冑姿から――――もくもくもくもく!
白煙が、たち上った。
「おれぁ、まだ印をむすんでねえぞ?」
半径三丈をいっしゅんで焦土にかえる〝瀑布火炎の印〟を、むすんでやろうかと思ってたんだが……。
仮面がうろたえてる。燃えてくすぶってるし、ぶった切りも止んだ――すぽん♪
耳栓が引っこ抜かれ、風になびく草音がもどってきた。
「(女神に加護スキルの発動により、私の量子演算単位……頓知力が急激に増大したため、子細うまく事が運びました)」
九割方うまくいく……んじゃなかったのかよ!
〝五百乃大角に加護〟が……役にたつとはな。
両腕が燃えちまうのは、いつものことだ。
からだをふたつにされなかっただけで十分だし、包帯まいて二日も寝てりゃなおる。
ものは試しか……まだ慌てふためき、うろつく姫さんを正面にとらえる。
ぬうん――火炎系の中でも最弱の〝火群の印〟をむすんでやる。
「――滅せよ!」
――ぼがぁぁん!
甲冑姿の頭が爆ぜた!
「あっちゃちゃちゃちゃっ――――!」
わめき声でも、よくとおる声だ。
「えっ――――お嬢さま!?」
姫さんに気づいたリオレイニアが、一目散にすっとんでった。
そして鎮火したおれの両手が、また―――ぼぉぅおう!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ! あっつぅ、一体なんですの゛ぉ!?」
炎につつまれた姫さんが崩れおちた!
おれも燃えた両手を天にかかげて、うろたえる!
「みずのたま!」
ぱしゃりっ――っしゅぅぅぅぅ!
腕の炎を消したのは、小さな水流。
「シガミーわぁ、目をはなすとスグに爆発するんだからぁ!」
レイダが、やたらとなげえ杖を向ける。
「こんどは何したの? ぜんぶ白状なさぁい!」
§
「(女神に加護の話だが……姫さんは〝うまい飯〟にどう関わってんだ?)」
五百乃大角は、「あたしのおいしいごはんのためなら、シガミーは神さまだって倒せる手はずになってますから(キリッ)!」なんてぬかしてたろ?
まさか狐汁に、するわけじゃあるめえし。
「(シガミーの保全……命も、美食の調達に不可欠と判断されたようです)」
「(まあなあ、〝女神に加護〟がなかったら、首が飛んでただろうからなあ)」
おれは首筋をおさえる。
「ちょっと、シガミー! 聞いてるの?」
「へぇ、もちろんでさぁ」
気のない返事をしておく。
だまってると杖が、のびてくるからな。
「お嬢様はまったくもう! こんな小さい子に、そんなフル装備まで持ちだして、どういうおつもりなんですかぁっ!?」
うひぃ、あっちもおっかねえなー。
隣で半べそをかく姫さんも、もちろん正座だ。
狐の仮面がはずされ、首からさがってる。
やっぱり目鼻口に、穴が空いてねえ。
ぴしっ、ポォウ♪
びしびしびしっ、ポポポォウワ♪
「いった、いてたたっ!」
すす焦げた額や頬のあたりを、短ぇ杖でびっしばっしひっぱたかれてやがる。
たぶん、回復魔法なんだろうが、僧侶がつかう程の利き目はなさそうだ。




