558:央都猪蟹屋跡地、ユーザー登録
「ではこのアダマンタイト試材2で、再計測を開始しますふ!」
興奮気味に試材2を天井から吊す、巻き角頭突き女。
「さぁ、二人とも。その格好のまま、そこに立って♪」
前掛けと頭の飾りを取った、給仕服姿の少女。
それを抱えた鬼族の娘は冒険者装備を外した、いつもの受付嬢の格好だった。
二人を促す、名も知らぬ学者方の口元が、盛大に綻んでやがる。
「うふふふ、これゴーレムの背骨にしたらぁ、どうかしららぁん?」
天井に吊られた、銅のような光沢も持つ白金の棒。
それを撫でる王女殿下の口元も、あられもない程に綻んでやがる。
「ばか言っちゃいけねぇぜ、ゴーレム姫さまよぉ?」
王女の向かい側から、同じく綻んでいた口元を引き締める筋骨隆々。
「こいつぁ、辺境伯名代――〝蒼焔の亡霊姫〟の魔法杖より長ぇんだぜ。もう一本、魔法杖か武具を作るに、決まっっとろうガァハハッハッ?」
むきーんと力を込め、ピクピクと腕や肩や胸の筋肉を動かしてみせる。
「らららららぁぁん!?」
カチャリと、万能工具を取り出す王女殿下。
「みゃにゃぎゃぁー♪」
おにぎりが近くの研究員の頭を、ぽきゅむと撫で返し――
「ひっひひひぃぃん?」
天ぷら号が、その尻尾を長銃の余りに巻き付かせ――
「あっ、ルコル居た! どこ行ってたニャ! ついさっき上級鑑定が一枚売れたニャ♪」
「本当コォン?」
烏天狗役の裏烏天狗のそばに集まる、喫茶店組。
「本当ニャ、ぼったくってやったニャ――ン?」
猫耳族はまえにも絞られたのに、懲りねぇなぁ。
案の定リオレイニアに首根っこを、捕まれてやがる。
わいわわい、がやががや♪
うるせぇが、やっと一段落だぜ。
「あらいけない、忘れてましたわ」
ルコルを後ろから羽交い締めにして、遊んでたご令嬢が――
何かを思い出した。
「何をでぇぃ?」
一応聞いてやるが、もう今日は店じまいだ。
ふぅぃー、今日は無人工房を使った夜仕事もなし。
ゆっくり寝るぞぉ――
「そろそろ母……辺境伯名代を探しに行かないと、いけないのでは無くて?」
いけねぇ――すっかり忘れてたぜ。
§
「では、使用者登録を済ませてくるから、待ってて欲しいニャ♪」
そう言って顧問秘書を連れ立って、外へ出て行ってしまう顧問氏。
ふぉん♪
『>あの方角には、魔導騎士団の訓練場や宿泊施設が有ります』
すると訓練場に立ってた女神像か、魔導騎士団詰め所にでも行ったんだろ。
「(おい、五百乃大角)」
ふぉん♪
『イオノ>なぁにょ?』
〝結う挫と虚来〟てなぁ、何だ?
ふぉん♪
『ヒント>ユーザー登録。使用者を特定し、各種の手続きを行うこと』
仕官のことか?
ふぉん♪
『>ぷぷぷぅー、ウケケケッ♪ そぉんなこともぉ知らないなんて、シガミーもまだまだねぇ♪』
良いから教えろやぁ。
「ねえ、お姫ちゃん。今のぉ、ユーザー登録って何わのょ?」
ずっと踏みつけてる高貴な頭に、尋ねる五百乃大角。
お前さまも、知らんのじゃないかぁ!
「ああ、あれは形式上の物ですわ。当家家宝である〝ルードホルドの魔法杖〟や〝朱狐装備一式〟も、それぞれ使用者登録済みでしてよ♪」
腰に巻いた真っ赤な魔法具を、ぽんと叩いてみせる。
「おれも、この金槌を登録させられたな」
ヴッ――ドゴズズゥゥン!
ガムランから来た連中には、収納魔法具を渡してある。
「私も、この万能工具を登録していますららぁん」
ヴッ――カチャッ♪
央都の人間にも、龍討伐参加予定者には渡してある。
さっそく皆、使ってくれてるようだ。
「我は、この〝ギルド椅子原器〟を登録……する必要は無いと、追い返されたコォン、ぐすん!」
鞄から例のギルド椅子を出そうとして、やっぱり引っ込めるルコル少年。
「こらっ、工房長! うちのルコルを虐めるんじゃ有りませんわよ!」
本気で怒っているわけではない、彼女なりのいつもの冗談だ。
ただ姫さんは縁者で有る狐耳少年を、とてもかわいがっているのだ。
「なるほどねぇん。レア魔法具の中でも装備や、装備を作るための装備に関しては、きちんと管理されてるようわねぇ」
ふぉん♪
『イオノ>迅雷クーン。女神像に<未登録>の<アーティファクト>を、検索して!』
ふぉん♪
『>該当は三件。ルコラコルの〝ギルド椅子原器〟と、他二件の<リンク途絶につき、詳細不明>デバイスが存在しています』
ふうーん。たしかリンク途絶てのは、お前なら直せるんだよな?
ふぉん♪
『>おにぎりに10連撃チョップを食らわせる強者は、この地に存在しません。おそらくはAOSの再インストールもしくはアップデートのみで、修復されると思われます』
ふむ、こんな急ぎでも無けりゃ、その発掘魔法具を探してから巨木に挑みたかったぜ。
「あぁーおれぁ、相棒に何もしとらんが……?」
ガリガリとうしろ頭を掻くと、ペチリと蜂女に刺された。
「シガミーとジンライについては、イオノファラーさまの関係者と言うことで免除されていますね――ヴヴッ♪」
免除?
ふぉん♪
『>依怙贔屓と考えて、良いと思われます』
「うむぅ? 何か心地が悪ぃが……良しとするか」
おれは空いたテーブルに、手持ちの装備を並べていく。
妖弧ルリーロさまが、どこまですっ飛んでったのか知らんが――
あのごつい山菜を追っかけるなら、準備は万端にしておきてぇ。
それとも轟雷で出陣するべきか?
「そんなことを言ったら、シガミーにカラテェーにテェーング殿。あなたたちヒーノモトー出身者が作った物は、ほとんど全てがアーティファクト級ですわ!」
語気を強める、辺境伯ご令嬢。
「いちいち登録などしていたら、専門の登録官が必要になる――という側面も有るのですよ――ふぅぅぅう-」
ルガ蜂のも忘れて、大きな息を吐くルガ……リオレイニア。
なんかいつもすまん。たぶん、おれたちが知らない苦労をさせてそうだぜ。
「でハ私ハ、身ヲ粉にシて働きマしょう。ネえ、シガミー?」
おれの後ろ頭から、声がした。
それくらいの芸当は、神々の御業を以てすれば、訳も無い。
「そうだな――むっぎゅ♪」
突然、何かに頭の上にのし掛かられた。
丸茸さまにしちゃ、ずしりと重くて大きなソレは――
「――飛んでいった〝ルードホルドの魔法杖〟は、発掘魔法具としては最高峰ニャ♪――」
お猫さまだ。
お猫さまが、おれの頭を蹴り――結構遠くの台座に飛び乗った!
凄ぇ飛ぶなぁ、猫わぁ。
「――そしてそれに並ぶ――スキットル――フリー効果音――カップ麺自販機ニャァ♪――」
また途中からわからんが、言ってることはわからいでか。
完成した超長ぇ長銃に跨がる顔つきは、とても勇ましく――
「みゃがや(略)――♪」
ダミ声に振り向けば――ぱたん♪
『「〝ルードホルドの魔法杖〟に並ぶものが有るのは、誇って良いニャァ♪」ってもの♪』
「にゃふうっふっふ♪ よくぞ言ったニャァ、先達さま!」
「お待たせいたしました。魔銃オルタネーターの使用者登録が完了いたしました」
魔導騎士団と学者方を束ねる顧問技師と、その秘書が戻ってきた。




