557:央都猪蟹屋跡地、長銃の名とオルコトリアとタター
「こいつはこいつで、武器になりそうだぜ?」
つるんとした丸棒を工房長が恐る恐る、つかみ上げた。
長銃の長穴の形。
それはレイダ材で染められておらず、アダマンタイト色の――長棒だった。
〝長いこと〟が、アダマンタイトの〝価値〟を決める。
それはつまり金銭的に、素材的に、学術的に、SSSRである――
超特選アダマンタイト鉱石が、もう一つ出現したことに他ならない。
どやどやどやどや、がやがやがやがやや♪
猪蟹屋予定地が安全になったと知るや、押し寄せた学者方たち。
先陣を切る頭突き女が走ってきた所までは、見えたんだが――
「ぐはぁ――!?」
工房長の断末魔を残し、去って行く学者方たち。
あとには何も残らず、おれは無常を感じた。
§
「蒼い長銃オルタタネネイターSPニャッ♪」
上機嫌な顧問氏。
早速、タター測定所で学者方たちの玩具にされる、〝蒼い長銃オルタタネネイターSP〟とやら。
「長ぇぜ!」「クカカッ――♪」
おれは手甲を付け手先を隠し、迅雷にはもう一度、烏天狗役に戻ってもらった。
「えっ、それがこのロングレンジライフルのぉ、お名前ぇー!? ダサくね?」
ごった返す測定所の中じゃ一番安全と判断したのか、丸茸御神体が辺境伯令嬢の頭の上に乗ってる。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ダサい?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」――ござる?」
ござるじゃねぇよ。
一人だけ、聞き間違ってるのが居るが――
ダサいってなぁ、何だぜ?
ふぉん♪
『ヒント>ダサい。洗練されていない様を表す俗語』
「格好が悪ぃってことで、合ってるかぁ?」
「そうわよ。だっさっ!」
よくわからんが、あまり言ってやるな。
「みゃにゃぁ――!?」
顧問氏が渋い面をして両耳を、ぺたりと伏せちまっただろ。
折角の上機嫌に水を差すこともねぇだろ。
「ふぅ、そもそも名付けようたって、好きに付けられるもんでもねぇだろうが」
どれどれ、上級鑑定♪
おれはレイダが顔をしかめるほどの悪い顔をして、台座に置かれた長銃を見た。
チーン♪
ここには上級鑑定出来る奴が何人も居るから、そこかしこで鐘の音が鳴る。
うん、うるせぇ。
ふぉふぉふぉぉん♪
『魔銃オルタネーター【物理】
魔法攻撃力830(+∞)。全属性使用可能なライフル型魔法杖(新造アーティファクト)。
追加効果/STR-50/VIT-20/INT+180
追加スキル/【主観ロックオン】発射された弾体は、
スコープで捉えた物を必ず穿つ。
装備条件/メイド服、ネネルド村出身』
長銃の上級鑑定結果が、表示された。
「ほうほう、なるほど?」
わからん。見たことがない数字も、書いてあるしよ。
しかし、相当字面が似てるのは――ふぉん♪
『>はい。流石は研究者たちを、束ねているだけのことはあります』
おれは鑑定結果を黒板に貼り付けて、「皆にも見せてや」ろうとしたら――
「にゃやーっ!?」って顔の、猫耳族の娘と目が合った。
ニャミカだ。
彼女は烏天狗の友人で、貴族であるルコル少年が経営する喫茶店の従業員だ。
手に持つのは、〝上級鑑定箱〟。
薄板に上級鑑定結果を書き出せる、便利な道具だ。
また金儲けを、目論んでやがったな。
1枚1キーヌだったか?
蛸串程度なら、払ってやっても良いが。
ふぉん♪
『>その後、上級鑑定箱に使用する板が十枚で30パケタすることが発覚しましたので、恐らく現在は1枚で数パケタ要求されると思われます』
ぐ、地味に高ぇなぁ。だが出番がなさそうな気配に――
口元をわなわなと震わせ、耳を垂らしてやがる。
「そっちの方が、いつでも見られて良さそうだ。やってくれ、金はおれが出す」
涙目になられちゃ、仕方ねぇ。
「わかったミャ♪ 一枚10パケタミャ、ぼったくりじゃないニャ?」
ぼったくりだろうが……まあ良いが。
しばらくルコルやニャミカの、相手をしてやれなかったからな。
――チーン!
長銃を箱越しに見つめ――かしゃん♪
飛びでた板を、スポンと引っこぬき――シュゴッ♪
鑑定結果が、板に焼きついた。
「毎度ありがとうニャーァ♪」
手渡された板には、ちゃんと鑑定結果が書かれていたが――
『魔銃オルタネーター【物理】
魔法攻撃力830(+∞)。全属性使用可能なライフル型魔法杖(新■■ーティファクト)。
追加効果/STR-50/VIT-20/INT+180
追加スキル/【主観ロックオン】発射された弾体は、
スコープで捉■■物を必ず穿つ。
装備条件/メイド服、ネネル■村出身』
いくつか文字が潰れているのは、何かが古いから仕方ないらしい。
肝要な所には掛かってないから、問題ねーだろ。
すっと突き出される、両の掌。
迅雷、金を払ってや……っていうか、烏天狗役をしてるんだったな。
「ちいと待てやぁ――ごそごそ」
おれは腕輪から――ヴッ♪
ゴチャガチャ、ガチャリン♪
金を払ってやった。
§
「天という意味の〝オル〟――」
「アダマンタイト祖型適合者の測定対象……タター嬢――」
「ネネルド村の名も冠した――」
「ソレを全部繋げた――」
「魔銃オル……タター?」
薄板に学者方たちが群がる。
「オル太郎ちゃんとタターちゃんを、足したみたいな語感わね♪」
丸茸のそんな言葉を聞いた姫さんが、丸茸を頭の上に乗せたまま――
どこかへ掛けだした。
§
「ふふふ、ご提案ですわ♪」
姫さんが連れてきたのは、鬼の娘だった。
「もー何なのよ。折角、騎士団の連中に剣の手ほどきを受けてたのに――」
文句を言いつつも鬼娘は同じ受付嬢であり、同じ冒険者パーティーでもある同僚の手を振りほどこうとはしない。
鬼娘は基本的に優しい。
やや大柄で、その膂力を持て余し気味ではあるが――
「オル太郎」とか「鬼太郎」とか、呼ばれた程度じゃ怒らない。
ゴーブリンと一緒にされたら即、キレてたけど。
そういや彼奴、強い敵が出なくてレベルを上げられないとか、言ってなかったか?
〝手ほどき〟ってまさか、魔導騎士団の連中で――
レベル上げしてねぇだろうな。
「ひゃっ、お嬢さまっ!?――ニャァ♪」
群れる学者方に割って入り、大きな猫の魔物風を「ちょっと、うちの子をお借りするわよ」と借り受け――
連れてこられた猫の魔物風2号、ピンク色。
その背中の金具をつかんで――ジッジジジジジィーーーーーーッ!
と引き下ろすと、すぽんと少女が飛び出してきた!
「どうぞ、お受け取りなさいな!」
使用人を同僚へ手渡す、伯爵令嬢。
まるで手荷物のように、小脇に抱えられるタター。
「さすがにそれは、乙女がされる扱いでは無いと思いますが――ヴヴヴヴヴッ?」
その蜂真似も、乙女がするようなこっちゃねーがな。
「ならこれでどう? お嬢ちゃん♪」
少女を軽々と、両手で抱き上げる鬼族の娘。
「「「「「「「「きゃぁあぁぁぁぁぁぁぁ♪ お姫様抱っこ!?」」」」」」」」
やかましい。ここタター測定所の学者方は、さっきまで男子禁制だったからか女ばかりだ。
そして鬼の娘は、とんでもなく面が良い。
顔の良い男エクレアと並んでも、オルコの方がモテるくらいには。
「あら、それ良いんじゃんか? 鬼太郎ちゃんが抱えて走ってくれるなら、機動力も防御力も補えるしさ♪」
満足げな、丸茸御神体。
ソレを頭に乗せる、ご令嬢もご満悦だぜ。
「ではあなたたち、二人でチームを組みなさいな♪」
片や〝聖剣切りの閃光〟の隊員。
片や、家に仕える使用人。
二人へ対する指揮権は、ご令嬢が持っている。




