551:央都猪蟹屋跡地、唯物ライフルをつくろうその1
「ソレなんだけどニャァ。シガミーとカラテェーと、ラプトル王女さまにノヴァド工房長。そしてイオノファラーさまとレイダ。そして迅雷とおにぎりも入れた計8人に、〝唯物ライフル〟作成に参加して欲しいニャァ♪」
おれたちを指さし指折り数える、大陸随一の魔導工学技士。
今居るのは、タターを計った建物と猪蟹屋の間。
長椅子と長机を置いて、休憩所を作った。
狭い路地だが、猪蟹屋の中よか快適だ。
横長だが全員が座れるし、風も吹き抜ける。
「もちろん我々も、お手伝いいたしますわ」
お猫さまを抱えた顧問秘書が、顧問技師へ寄り添う。
「――我輩の指示に従えば、立派な――深海作業――90%オフニャァ♪――」
お猫さまは何言ってるか、わからねぇが――
全部で11人か。
対魔王竈は相当狭くて、矢鱈と熱い。
「レイダはレイダ材がらみで、必要なのか?」
「そうだニャァ♪ 持ち手の土台になる部分を、レイダ材で補強して欲しいんだニャァ♪」
迅雷式隠れ蓑で覆った台車の上。
鎮座まします〝超特選アダマンタイト鉱石〟の、二股になった片側。
そこを猫手で、ぽぽんと叩く猫獣人の大人。
「補強? アダマンタイトはちょっとやそっとじゃ、傷一つつかんだろうが?」
ふぉん♪
『>レイダ材のモース硬度は5・9。アダマンタイトは硬度11、異常値を示しています。解析後に、修正を試みますか?』
わからん。けど解析は止めとけ。
いつ仕事が始まるか、わからんからな。
ふぉん♪
『シガミー>五百乃大角やぁい。なんか神々の知恵を寄越せやぁ』
ふぉん♪
『イオノ>良いわよぅ♪ 迅雷クンさー、その辺は適宜更新してOKよ。地球の環境を元に作られたけど、この世界はもうF.A.T.S.の影響下にありませんのでぇ』
ふぉん♪
『>了解しました、イオノファラー。サバイバルモードやエンドレスモードを想定した定理の修正を、定期的に行います』
ふぅーん?
「アダマンタイト本体と各種部品に大きな強度差が有ると、故障や暴発による怪我に繋がるにゃ♪ それとアダマンタイト表面を、レイダ材で覆っておけば、煤が付かなくなるニャァ♪」
火縄は弾込めまえに、煤を払うのが大変だからなぁ。
「あの蒼色の色鮮やかさは、素敵ですよね――ヴヴヴッ♪」
ゴガッ――ッキキィィン♪
この辺の、あふれた炎で焼かれた所は、レイダ材に変えてあるから――
耳栓で騒音だけを選んで消してなかったら、耳を劈かれていたところだ。
「迅雷が居りゃ、おれだって色を変えてやれるがぁー?」
レイダ材は、レイダが迅雷を魔法杖がわりに使って――
何とかいうのを、煤や炭に塗ることで出来上がる。
おれの小太刀には、鉄に灰を練り込んであるから――
その炭の成分に色を塗れば、立ち所に刀が蒼く塗り込められる。
そうすると切れ味は上がるが、折れやすくなっちまって――
レイダ材の刀剣はまだ、使い物になっていない。
ふぉん♪
『>〝カーボンナノテクタイト構造〟です。蒼くなるのは量子記述的に再配置された表面構造が、構造色を形成するからです』
それな。構造な。
それと似たようなことをしているんだが、おれのは蒼色だけじゃなくて大抵の色を塗れる。
「じゃぁやってみてニャァ♪」
戸口の杭に引っかけた鞄の中から、おにぎり大の石ころを取り出す顧問氏。
来い迅雷――くるん、ぱしん!
飛んできた迅雷を、ひっつかむ子供。
魔法杖を一振りすれば、世にも鮮やかな♪
夕日の色にでも――ほろろろっ、するんっ♪
「あれ? 変えるそばから、光りになって消えちまわぁ!?」
どーいうこった?
「もうシガミーは、下手くそだなぁ♪」
魔法杖をひったくられた。
「ひのたまぁ――ぼわぁん♪」
迅雷式隠れ蓑の上、置かれたアダマンタイトが――ごわぁと燻る。
「レイダ材にー、なぁれぇー♪」
ひとたび彼女が、一振りすれば――――ギラリィン♪
レイダの方がレイダ材に関しちゃ、うまく出来るのは確かだが――
おれの色付けも、レイダのレイダ材も、殆ど同じ物だろう?
ふぉん♪
『>はい。基本組成は99%同じ構造色ですので』
ほろろろっ、するんっ♪
「あれっ!? なんでっ!?」
やっぱり、光の苔みたいのが剥がれ落ちて、消えちまう。
「ふはははっ、レイダにも出来ねぇじゃんか♪」
壊れたとでも思ったのか、魔法杖を上下左右に振り回す子供。
「ニャフフゥ、そうだろう? アダマンタイトの表面に煤を付けるためには、相当高い温度で燻さないとならないことは実験済みニャァ♪」
パチリと指を鳴らす、猫の獣人族。
「「「「「「「「「「「………………?」」」」」」」」」」」
何だぜ? 皆も首を傾げている。
「アダマンタイトの表面に煤を付けるためにはニャァ、相当高い温度で燻さないとならないことは実験済みなのニャァ――♪」
ふたたびパチリと指を鳴らす、猫の獣人族。
「「「「「「「「「「………………?」」」」」」」」」――!」
首を傾けていた内の一人が――
ピカピカで丸い、アダマンタイト鉱石を――
下敷きにしていた迅雷式隠れ蓑で、包んだ。
「工房長さん。この鉱石を対魔王結界の強力な炎で、燻して来てもらえませんか?」
そう言ってノヴァドへ手渡す、顧問秘書。
その額に汗が、滲んでいる。
彼女はリオレイニア並みに出来る女だが、鍛冶場の熱さには弱いようだった。
§
「こんなもんで良いのかぁ?」
ごどん――ふわさ。
ぶすぶすと、焦げた匂いを発するのは――
まるで黒磁器の丸徳利のようになった――
希少な鉱石。
「レイダ材にー、なぁれぇー♪」
ふたたび彼女が、一振りすれば――――ギラリィン♪
「「「「「「「「「おおぉぉぉぉ――――!?」」」」」」」」――出来たっ♪」
今度は零れ落ちずに、鮮やかな蒼色のままだった。
「レイダには魔法銃が完成したらレイダ材で、全体を塗って貰うにゃぁ♪」
まるで巨大な宝石のように、光り輝くアダマンタイト。
「じゃぁ、完成までレイダには外で待っててもらう。あんな場所にずっといたら熱さで伸びちまうからなー♪」
おれは背を伸ばし――わしわしわしっ♪
生意気な子供の頭を撫でて、レイダ材の専門家を労ってやった。
「わかったでぇーござる♪」
何だぜその、得意げな顔わぁ?
ことレイダ材に関しちゃレイダの方が――迅雷を上手く扱えてる。
ふぉん♪
『>ユニークスキル〝報酬二倍〟の恩恵も、効果的に作用していると思われます』
流石はレイダ材の、レイダさまだぜ。
元から一角の者になる助けになればと思って、〝レイダ材〟と名付けたのだ。
レイダ材は下手したら猪蟹屋を乗っ取られかねねぇ程、大きな売り物になるかもしれねぇ。
そうしたら、おれぁ――五百乃大角の飯当番に専念出来るな。
「ござる? ござる!?」
「ござのい、ござのい?」
「我は熱さには強い故、手伝えることがあるなら手を貸すぞ?」
おれたちが猪蟹屋の外に出たのを、かぎ付けた子供たちが寄ってきた。
§
『「じゃぁ、加工と組み立ての行程に入るんだもの♪」だもの♪』
ぱたんと首に提げた、木の板。
ソレを見た面々が、各々の持ち場へ散っていく。
さぁ、本番だ。どうする?
迅雷と烏天狗とおれぁ、二人までしか用意出来んぞ。
ふぉん♪
『イオノ>そうわね。伝説の職人スキルが使えないと話にならないから、烏天狗は決定として、シガミーも居ないと怪しまれかねないでしょぉ?』
画面の中の梅干しみたいな大きさのアイコンさま。
ゴロゴロと転がりながら、一行表示を寄越した。
「じゃぁ、シガミー。烏天狗を探してきて。今の時間ならもう、城壁の洞窟に帰って来てると思うから♪」
おい。おれと迅雷は、どーするんだぁ?
張りぼての独鈷杵を、迅雷だと謀っても良いが。
仕事が仕事だけに、迅雷がまるで動かなかったら――
一発で感づかれちまうだろ。
ふぉん♪
『イオノ>ご安心ください。その迅雷役、あたくしさまが一人二役を、見事演じて見せましょう♪』
ならもう、お任せだ。しっかりと迅雷してくれ。
「じゃぁ、ちょっと行ってくる!」
強化服は脱いじまった。
だから帰ってきたら、もう一度着ねぇとなぁ。
迅雷、お前は烏天狗役を務めてくれ。
おれはシガミーと、烏天狗の伝説の職人を担当するぞ。
ふぉん♪
『>了解しました。城壁付近の人の居ない所で、裏烏天狗と入れ替わります』
おう。おれは張りぼての独鈷杵を、うしろ頭に刺して戻って来るからなっ。




