55:冒険者パーティー『シガミー御一行様』、真言(マントラ)ハッカー
「ちょっとまて。そんなどえれえのを、ばかすか撃ちまくってたら、なんだっけ……MPがスグになくなるはずだ――――ぁ」
――ィィイィイィン――縦だ、きりもみで横っとび!
――ィィイィイィン――縦、また縦かよ、地面が割れまくりで、足場わるくなってきやがった!
「使われテいる魔法は、格納と展開のみです。高いMPを必要としマせん」
リオレイニアと似たことを、やってんだな……勝てる気がしねえ。
「格納と展開ってのは……収納魔法か!?」
錫杖と銀の指輪をみる。
「いいえ、からだの半分以上が液体である生物……魔物や魔王を切っているので収納魔法ではなく、転移魔法とかんがえられます」
「生物が液体? 転移……魔法――?」
――――ィィイィイィン――横!
ぬぅ、亀裂だらけで踏みばがねえ!
錫杖を突きたて――――ゴガギュゴゴッンガガギュッ!
あっぶねぇえなあぁっ!
投げすてた錫杖を――――ヴ♪
元にもどす――ぱしん!
「うっわ、みじけぇっ!?」
もう二割方くわれた。
「シガミーも体内の6割ガ水でス」
はぁ、なに言ってんだ?
よっはっとっひゃっ♪
――ィィイィイィイン!
軽業師……盗賊って言ったか?
スキルだか職業だかがなくても、徒手空拳で十分戦えそうだぜ?
「半分が水……なんの冗談だ!?」
そんな水袋が走ったり跳んだり、できるわけがねえだろが。
§
視界に写した対象を、視線上の光線で、ぶった切る。
「上半分を転移しタところで、転移先の座標を切りカえているようです。そノ後、下半分が転移されル過程デ――――」
半分だけ転移……収納をする?
そりゃ当然、ぶった切れるわな。
切られた錫杖を、しまって取り出すと〝直る〟の逆だ。
空中の景色が切られてんのは、そういうことか。
「なら切られた錫杖が、その場にのこるのは、どういうこった?」
「転移中ノ強制的な座標切りかエを行えば、魔法の術式に内包さレた安全機構が作動しマす」
「安全な機構? 効いてねえじゃねーかよ!」
小太刀も錫杖も、森の木も魔物も魔王も、全部ぶった切られてる。まったく安全じゃねえ!
「それヲ強制的に回避すルため、眼球に刻印がさレています」
ヴュゥゥー♪
ふたたび大写しになった瞳。
しっかりとおれを真ん中に、とらえている。
ヴュゥゥィィーー♪
大写しがとまらず、瞳の中の魔法の神髄がさらに、大写しになった。
「目に刻印!? 入れ墨か!?」
光線は一本線ではなく、複雑な、やたらと細けえ文様で埋め尽くされていた。
「はイ、この細かなフラクタル図形……曼荼羅は、私と同等のINTタレットか、SDKモジュールを用いて作図されテいます」
酢蛸、あのうまそうな名前のか。
五百乃大角め、奥の手とか言ってたくせに。
「曼荼羅……極楽浄土が描かれた瞳……そりゃ、月影も宿るってもんだぜ」
どうりで、怖えはずだ。
「はい。この刻印には、魔術特性だけでなく、強力な意思を体現するための覚悟が描画されています」
「これっぽっちもわからねえが、〝身を刻む覚悟〟って所だけは――わかった」
理屈こそ違えど、身体操作による術の行使。
〝言葉があって、体現する〟。
真言とおなじ発想。
「よし、わからねえが、わかった。勝算があんだろ、おしえろ!」
§
ドォンガドンガッガガッ♪
ドドンガッガグワララララッ♪
ピャーラァ、リラァー、ルラルリラー、リラァーーァ♪
お囃子は頼んでねえけど……なんかいいじゃねーの♪
五百乃大角の素っ頓狂な調べとちがって、いかしてらぁな♪
ふぉふぉふぉふぉぉぉん♪
『コントゥル領エリアボス
【リカルル・リ・コントゥル】
討伐クエスト開始 残り時間 00:04:59』
――――ごっわぁあぁあぁあぁあぁあぁん♪
たったったったっ、くる――くるっ、トトトトトォォン!
大きく旋回――軌道をかえる。
リオレイニアとレイダが居る、草原ほぼ中央。
アイツらをはさんで、姫さんまでの一直線。
「この錫杖は定めて当たる」
短くなっちまったが、投げるのに支障はねえ。
ブゥォォォォォォォォンッ――――!
いきおい余って前転。
そのまま跳ね起き、錫杖を追いかける!
ドォンガッタ、ドンドラガッタッタッタッ♪
「リオ!」
風のような早さで、突っこんでくる子供。
さすがに、おれがなにかと戦ってるのを察知したリオレイニアが、レイダをかばってる。
ふぉん♪
草地にあらわれる、手のかたち。
ふたりの前に、両手をつく。
「っきゃっ!」「シガミー!」
風の勢いのまま、地面をちからいっぱい突き放つ!
どんっ――――――――ながれる景色。
見上げるリオとレイダ。
ふたりと、目があった。。
「ふせてろ! すぐ終わる!」
――――ィィィィイイイィィィィィンッ!
おれの前をいく錫杖がかちりと、割られた。
棒の先端から鉄輪のある頭まで。
この一刀両断には隙がなかった。
だが、レイダたちを隠れ蓑にしてつくった、この瞬間なら。
つぎを視るのに瞬きが必要になる。
「(迅雷!)」
先手を取れるいまなら、迅雷からの内緒話もし放題だ。
「(ロンダートからのバク宙、お見事ですシガミー)」
「なんだ、わからんこと言うなこんな時に――――ほんとうにうまくいくんだろうな?」
「成功確率は9……割方うまくいきます――――それで、万が一の場合、私はレイダとリオレイニアの、どちらに従えばよろしいでしょうか?」
うるせー、迅雷が冗談を言いやがった……冗談だよな?
切られた刀は落としてきちまった。
落ちていく錫杖もまっぷたつだ。
もう何もねえ。
おれの両手は、空いている。
「(全方位、全法位)」
「(はい、シガミー)」
ジンライが細腕でおれの指先を切った。
流れる血。
迅雷が立てた作戦はこうだ。
姫さんが利き目を替えるのに合わせて、真言をつかう。
視界に入った物を切ってるんだから、その逆もあるだろう。
切る対象の姿を伝って、姫さんの、ぶった切りを乗っとる。
迅雷が言うには「(リカルルに記述された魔術特性に可視光通信を試みる)」だ、わからん。
すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ――――空中に円を描く。
それは回廊を形成し、真言を体現する。
「ON――――!」
ハッキング/ネットワークやシステムへの不法侵入。




