547:央都猪蟹屋跡地、芋煮会と審議会
「おいしっ♪ シガミーさん。これお幾らで、お店に出しますの♪ プークス?」
顔を上げたら、おれと殆ど変わらない面が、旨そうに煮物を食ってた。
「何だよ、茅野姫さま。向こうで蛸串を、売ってたんじゃなかったのか?」
結局用事ってのは、屋台の仕込みだったか。
「用意した300本は、完売してしまいましたわ♪」
すげぇ良い面しやがって。
「300本って言ったって1本1キーヌなら、全部で3パケタにしかならんだろ」
鍋や竈を出して置くと、また行列ができるから――すぽこん♪
調理道具を全部、仕舞った。
「もうあれよねん。茅野姫ちゃんのは、本当に趣味わよ♪」
おかわりの小皿を差し出す、丸茸御神体。
これくらいの茸を、一緒に煮ても良かったかもな。
菜箸で里芋と蛸を、ひょいひょいと小皿に入れてやる。
ぱくぱく、もっぎゅもっぎゅ――「お・い・し・い♪」
「そうかい」
そう言われりゃ、気分は悪くな――あ。
フッカのご実家の茸飯の霊刺秘……あの鍋の準備も、しとかんとなぁ。
央都じゃ今度こそ、休みの日くらいは気を緩めて、のんびりするはずだったのに――
ただの一日すら、休めてねぇ。
「それでー、アダマンタイトの使い道はー、決まったのか?」
皆の空いた小皿にも、ぽいぽいぽいと芋蛸を投げ込んでいく。
「――議論は済んだニャ♪――」
体の大きさを考えたら、お猫さまはもう止めといた方が良いな。
「けど今、この宝箱の中身は、シガミーが権利を持ってるニャー♪」
椅子代わりに動かした宝箱を、コンと叩く顧問技師氏。
「権利者は姫さん……リカルルさまに、なったんじゃねーのか?」
小皿を差し出すリカルルさまに、最後の芋と蛸を入れてやりつつ聞いた。
「ジャイアントゴーレムを討伐したのはシガミーなのでしょう……もぐもぐ、ごくん♪ なら――カーン!」
隣の宝箱を靴で蹴る、ご令嬢。
「お嬢さま、はしたないですよ?」
やたらと格好の良い給仕が、ご令嬢を窘める。
「もっとも次があったら、私の獲物ですわよ?」
次というのは、ジャイアントゴーレムのことだ。
「なら、そのときは私も混ぜてよ。最近、体が鈍っちゃってさ……もぐもぐもぎゅ」
鬼の娘が話に混ざるが、リカルルは一瞥も投げない。
獲物を分けてやるつもりは、ねぇようだ。
「ふぅ、どっちにしろ、あの大火を何とかしなきゃ落ち着かん。任せるよ」
王家の政の絡みも、あるしよ。
猪蟹屋一味としては、五百乃大角に旨い飯を。
それ以外のことは、全部が御負けだ。
「そうわね。出来たアダマンタイト装備を扱う人間に、害が及ばないなら――何の問題も無いよわぁん♪」
まだ食い足りなそうな丸茸が、こっちを見てるが――
駄目だ、この最後の小鉢は、蜂女……リオレイニアの分だぜ。
「リ……ルガさん。これ味を、見ておいてくれ。日の本の飯としちゃ、良くある味だからよ」
コトリ、カチャ♪。
小鉢と箸を、長机に置いた。
「でわ、満場一致で当家メイド・タター専用に、魔法杖を一本作ることに決定いたしましたわ!」
パチパチと手を叩く、ご令嬢。
パチ、パチ、バチバチ、ゥワァァアァア――――♪
運用審議会だけでなく、遠巻きにしていた連中も一斉に拍手して――
大歓声が沸き起こった。
「えっ、やだ怖い! そんな、おっかない魔法杖は要りませんよーだ!」
両手で×をする、少女メイド。
「ニャッフフ、ウフフッ♪ 良いのかニャァ――そんなことを言って?」
顧問技師が含みのある言い方をし、何かの計算結果らしき物を――
自分の秘書に、手渡した。
「な、何ですか? ……こそこそ」
タターは近くに居た、レイダを盾にした。
「そうですね……簡単に説明するなら、その魔法杖を身につける特典として――魔除けの効果があり、幸運が訪れます」
難しいことを、優しく説明したからか――
ふぉん♪
『シガミー>随分と、ふんわりした御利益じゃね?』
ふぉん♪
『イオノ>怪しい開運グッズ、みたいわね』
「幸運……? 別に要らない」
言い切れるってこたぁ今、不幸を感じてないってことだ。
「もう一つの特典――テンプーラゴウの尻尾に、引っかからなくなると言ってもかニャァ?」
随分と、勿体付けた割には――
「何だよ随分、しょぼくれた特典だぜ! タター、無理しなくても良いぞ。気が進まねぇなら、王女さまに変わってもらえ――」
そもそも今回のことは、王家の問題でもある。
それなら王女さま自らが、矢面に立つのも道理だ。
「やっ、やる! 私やるます! 尻尾に引っかからなくなるんなら、どんなことでも我慢しますっ!」
そ、そこまで嫌だったのか。
「ひっひひひぃぃぃん?」
子馬が、とおくで鳴いた。
§
「では、ケットーシィさまによる第一回タターちゃん計測会を始めます」
モコモコ巻き毛に巻き角の、学者方。
見た目は朗らかな頭突き女が、壁の牡丹を押した。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴゴゴォン――――!!
天井が開き、上から降りてきたのは――
黄緑色の子馬、天ぷら号だった。
「何だぜ、お前かよ! おにぎりはどこ行った?」
「ひひひひひぃぃん?」
子馬が首を向けた先。
学者方みたいな、白い服を羽織り――
群れに混じる、黄緑色のでかい頭。
「みぎゃぁにゃふん♪」
顔に貼り付けた眼鏡を、くいと持ち上げた。
「おい、巫山戯てんだろ? ちゃんとやれやぁ!」
極所作業用汎用強化服一号自律型個体名おにぎりには、目玉は付いてねぇだろ!?




