54:冒険者パーティー『シガミー御一行様』、ぶった切るしくみ
「装備用小型空間ストレージを開発……収納魔法具をツくりました」
ふぉん♪
『>運搬中
>2秒後に両手首にお届けします』
あたまの後ろから、首肩腕ときて肘手首。
なんかきたぞ。
気配をかわしながら、両手を見る。
カシャカシャ――キュキュィ。
手首から伸びた細腕が、ひかる物を差しだした。
それは子供の指に、ちょうどはまりそうな小さな銀輪。
中指に装着――して――くだ――さ――――ごぉぉぉぉぉっぉぉっ!
「なんだってぇ――風でよく聞こえねえ!」
だっだっだだっだっだ、ずだだだだだだっだっ!
―――ィィイッ――ィィイッ――ィィイッ――ィィイィィィィィンッ!
姫さんの切る気配が、止まらなくなった。
それを避けつづけるおれは、まるで台風だ。
簪が震え、耳にさわる感触――すぽん♪
外の音が聞こえなくなった。
『Canal-type_NoiseCanceller
>アイテムを一件、作成しました』
わからん。
「カナル型ノイズキャンセラー……声だけが聞こえる耳栓でス。これで風音に邪魔されずに話がでキます」
耳がふさがれてんのに、迅雷の声がはっきり聞こえる。
これはあたまん中に響く、いつもの内緒話でもねえ。
「指にそノ指輪を付けテください」
指を曲げたら――ギュッ――細腕が勝手に指にはめた。
ぎゅぎゅ、ぱ。
握ったかんじ、小太刀や錫杖の邪魔にはならねえが。
「こいつぁ何につかう?」
「武器をひトつ格納できまス」
うん? まあつかえるっちゃつかえるか。
いざってときに迅雷だのみ、ばっかりだとやべえかもしんねえしな。
「最大容量は1シガミーと少量ですが、私の〝壊れた物をなおして取りだす機能〟がつかえます」
兵牢弩、いちシガミー、わからんが――
「――さっき細切れにされた錫杖が、これでもなおんのか?」
「はい、可能でス。リカルル・リ・コントゥル攻略に必要になりマすので、回収に向かってくダさい」
§
「じゃ、さっきの続きだ――そもさん」
だっだっ、ずだだだだっ――――ィィイィンィイィン!
「説破です、シガみー」
「姫さんの〝見えねえ切っ先〟は――どこに隠してんだ?」
「電磁メタマテリアルにヨる、可視光改竄でス」
「ぅぬん?」
常世の……神仏の世界のもんは、まずわからん。
「――隠れ蓑で、手元をかクしていると、お考えくダさい」
わかった。
〝構え〟が見えねえしくみはわかった。
わからねえことは、わからなくていい。
つかい方を知るのに、いちおうの理屈だけは聞いとく。
「いやまて、なら……姿まるごと隠したほうが、よかねえか?」
「攻撃対象を〝光学的〟にトらえないと、攻撃ができないよウです」
「ぬぬん?」
「〝魔眼持ち〟と、お考えくダさい」
わかった。
リオレイニアの〝仮面〟と似た狐の面。
あれにも〝外が見える〟機能がついてんだろう。
仮面の〝魔眼〟で〝見て〟、〝見た場所〟を、〝ぶった切ってる〟わけだ。
隠れ蓑のちからで、姫さんの姿は、レイダたちには見えてねえ。
けど、標的のおれと迅雷には、甲冑姿を晒さねえといけねえ。
とりあえずわかった。
ピッ♪
音がした所を見たら、レイダたちをあらわす縁取りが近づいてきてる。
「どうする、これ以上、時間はかけられねえ。いったん森ん中にでもにげるか、金剛力がありゃ――――」
「行動予測によレば森に入っタ場合、96%の確率でレイダとリオレイニアが、私たチを追従しまス。とてモ危険です」
「だめか。錫杖ひろうぞ」
「〝灯りの魔法の〝灯り〟ヲ指輪に使ってくだサい」
カカカカカッシュ――がここん♪
はしり抜けざま、右手で地面を薙ぐ。
ヴ♪
かすかな震え――ぱしん!
よし、切られた刀なんかを、おれひとりでも、もとに戻せるようになった。
これでいくら切られても平気だ――――くるくるくる、すげえ軽ぃ。
「リカルルの攻撃にヨり切断面が消失すルため、ジンライ鋼の質量――目方が目張りしテいます」
なおさら、いそがねえと。
「そういや、さっきから、右上でひかってんのはなんだ?」
丸かったのが欠けて、しぼんですり減ってた。
青く輝いてたのが、血の色をおびてきてる。
「私のバッテリーメーター……残りの神力です」
「どれだけ持つ」
「全力稼働で2分。節約すレば10分弱」
切っても切られても、十分でけりがつく。
§
――――ィィィッィィィイイイィィィィイイィィィィン!
どんっどん研ぎ澄まされてくな――――狙いがここまで正確になると、避けるのは簡単で――――
「――――っとぉわったたたあっ!」
縦だ!
水平になぎ払うだけだった、ぶった切り。
それが縦にきた。
いままでは余波をくらって凹んでた地面が――――ズァァァァァァバキバキ、ゴバァァァァァァァァァァァァァッ!!!
地を割る衝撃が一直線にせまる!
からだをくるりとまわし、紙一重で避ける。
あぶねえ、もし上に跳んでたら、お陀仏だった。
ヴュパパ♪
姫さんの甲冑姿がビードロに、大きく映しだされる。
姫さんのからだが、真横にひん曲がってた。
仁王立ちのまま、腰を〝く〟の字にしてる。
〝魔眼で見たまま〟、横に切ってるわけだ。
「はははっ――くるしくねえのか?」
甲冑ががんじがらめなのは、来世でも変わらねえだろ。
むこうも焦れて、なりふり構わなくなってきてる。
「で、あの〝ぃぃぃぃーん〟ってやつを貫くのは、どうすりゃいい?」
「はイ、〝ィィィィーン〟は可視光通信によル魔術行使デ――」
わからん、説明。
びーどろに映る甲冑姿。
ヴュ♪
その狐面が枠で切りとられて、大写しになった。
ヴュパ♪
面のしたの顔があらわになる。
「面のなかも見れんのか?」
「こレは記録映像かラ類推しタ合成……絵でス」
絵か、わかった。
ヴュゥゥー♪
艶やかな瞳が、大写しになった。
姫さんの瞳には、草原をはしる小猿が映りこんで――――こりゃおれか!
――――ィィィィィッィイイィィインッ!
映る景色をぶった切るように、ひかりの筋が水平に走る。
魔法の神髄……魔法をつかうのに必要な、ひかりの輪。あれと同じ光だ。
「瞳の中ノ光線で、対象物に線をヒく。その距離が一定以上をこエると発動すル高位の魔術デす」
ストレージ/倉庫。PCの記憶装置。
ノイズキャンセラー/周囲の騒音とは逆位相の音波を出し、無効化するしくみ。
1シガミー/破戒僧猪蟹が来世で受肉した姿、その一個分を表す単位。
電磁メタマテリアル/負の屈折率を持つ人造構造体。波長を操り透過や遮蔽が可能になるとされている。
魔眼/邪眼。見ることで呪う視線や魔術。
可視光通信/可視光線帯域を利用した無線通信。




