534:猫の魔物はケットーシィ、デェーンデデェンデェンデェーン♪
「「あっ! シガミーばっかりずるいっ!」」
子供らが群がってきた。
生意気レイダ、ビビビーお嬢さま、火龍少年ゲイル、第四師団長ミラカルカ。
一斉に外套姿の猫を撫でようと、手が伸びてきやがる。
「邪魔だっぜ、おまえらぁ!」
タタン――ストォン!
おれはお猫さまを抱えて、長持へ飛び乗った。
アダマンタイト鉱石の太さは、丸茸の頭くらい。
長さは……1・5シガミーだったか?
実際かなり長いな。鬼娘の大剣くらいは、あるんじゃないか。
ふぉん♪
『>あれ? これフォーマット出来るんだけど?』
画面の中にも居る丸茸御神体さまが、お宝を指さした。
封大禍苞苴ぉ……封じた大禍に苞苴……土産をくれてやるだとぉ?
子細わからんがぁ、随分とお優しいことだな?
迅雷、説明しろ。
ふぉん♪
『>F.A.T.S.、つまり神々の船の理でアダマンタイトを清めると、AOSがインストール可能になるということです』
ヴォヴォヴォゥン♪
AOSてのわぁ、猪蟹屋が総力をあげて探してる……酢蛸のことか?
ふぉん♪
『>ほぼ、そう考えていただいて、差し支え有りません』
「やい、お猫さまよ」
おれはアダマンタイトに頬ずりする猫を、ひょいと持ち上げた。
「ふにゃぁー?」
外套の背中に垂れた頭巾の所を、つかんで持ち上げたら。
もの凄く気の抜けた面で、睨まれた。
「ニゲルみてぇな面してねぇで、仕事の話を進めるとしようぜ?」
ふぉん♪
『イオノ>量子フォーマットとD言語規格のセッティングには、時間かかっちゃうけどね』
よし、わからんがわかった。
なら、このアダマンタイト鉱石だけは、何としても――
猪蟹屋がもらう。
状況としちゃぁ、おれと迅雷とおっさんと冒険者さまのぉ、四人で山分けって所だろうが。
「にゃにゃにゃにゃやーん!」
お猫さまが、ジタバタと暴れ出すが――
猫の手足はまるで、おれに届かなかった。
おれたちの状況を把握した上で、『どんな炎系の攻撃にも対抗出来る装備が作れる』と言わしめる装備にも興味は湧くが――
使い道に悩むのわぁ、手に入れてからだぜ。
さてさて、まずはおっさんにお伺いを立て――
「デェーンデデェンデェンデェーン♪」
例えるならボス戦まえの、嫌な予感を――
音楽にしたような。
みんなが注目する、視線の先。
長椅子に佇む五百乃大角が――薄桜色の板を取り出した。
「あらん? お姫ちゃんからの着信わよ?」
プッ――♪
「はい、もしもしぃ。斧原でぇーす♪」
お前それ、本当の名だろう?
「――もしもしって、なんですの?――」
軽やかで横柄な艶やかさ。
凜とした声が板から漏れ、こっちまで聞こえてくる。
五百乃大角が〝お姫ちゃん〟と呼ぶのはもっぱら奴だ。
そう、伝説の聖剣が抜けなくて、腹いせに家宝の宝剣を全部使って――ぶち折ったという曰く付きの――
コントゥル辺境伯家ご令嬢。
冒険者ギルドガムラン支部受付嬢、又の名を〝聖剣切り〟。
ガムラン最凶にして魔物境界線代表、リカルル・リ・コントゥル。
「もしもしって言ったら、亀じゃなくって――どーしたのぉー? こっちわぁ、とっても面白……じゃなくってー、大変なことになってるわよぉーう?」
この通話はスマホなる板を、介して行われている。
神々の世界の通信機。
遠方と会話をするための魔法具。
この世界にも発掘魔法具として伝わっているが――
それは、おれの二の腕の長さもある、太めの長箱だ。
それと同じ機能が、あの薄板にも出来ている。
ニゲルが日の本から持ち込んだスマホとやらを、スキルと無人工房で複製した。
だから仕組みは完全にはわからんままだが、便利なのだけは良くわかっている。
ニゲルのは元から青で、リカルルのを赤に変えて、五百乃大角のは……今日は薄桜色。
おれには迅雷が居るから、要らねぇ物だが――
みんなが持ってると、おれも一枚欲しくならんでもねぇな。
「――それはコッチのセリフですわっ! すぐ戻るというお話では、なかったのかしらぁ? イオノファラーさ・ま・あ?――」
ありゃ? 確かに話を聞いて、すぐ戻る手はずだったが――
何を怒ってやがる?
「ぎゃっひっ――――し、シガミーさんへ今ぁ、代わりますのでぇ♪」
そう言って御神体より大きな薄板を、「へぃ、パースっ!」と投げて寄越す丸茸。
「あっぶねーぇ!」
つい受け取っちまったぜ!
「みゃにゃん♪」
猫に逃げられたぞ。
「――ちょっと、聞いていらっしゃいますの!?――」
うへぇ――!
最初こそ見てくれの華やかさと、筋の通ったまっすぐな心根に――「こいつぁみどころが有る」なんて思ったし――
戦闘狂の悪い癖さえ出なけりゃ――中々、良い女になるんじゃねぇかなんて――へへっ♪
なんて――思っていたときもありました。
最初っから飛びつかれて、次には……首を飛ばされそうになったし――
この声に、あまり良い印象はねぇ。
「どーしたぁ? こっちわぁ、どでけぇ土塊のゴーレムやら、本物の猫やら、ひょろ長ぇアダマンタイトやらで大変なんだぜ?」
おっさんの面白ぇ面と精神作用系スキルの不気味さとか、あと主しか居ねぇ妙なダンジョンとか、やたらと長ぇ町の名前だとか――
話してぇことが、山ほどあるぜ。
「はぁ? こちらのほうが大事で――ちょっとソレ全部、聞き捨てなりませんでしてよっ!?」
お嬢さまー、避難して下さいませ――ヴヴヴヴヴヴッ♪
薄板から、蜂女の声も聞こえてくる。
ブツン――プーップーップーッ♪
通話が切れちまった。
「おい、切れちまったぞ?」
おれは薄板を仕舞う――すぽん♪
折角だから貰っとく。
央都で何か起きてるとしても、心配する程のことではない。
魔王という生物を倒した冒険者パーティー、〝聖剣切りの閃光〟の殆どと――
勇者のなりそこない(揚げ物)に、木さじ食堂の女将(人類最高レベル帯)までが、央都に詰めてる。
おれでも、あの布陣は崩せん!
しかし、何なんだってんだよわぜ!
「おい、茅野姫さまよ!」
面白そうな所に首を突っ込もうとして、うろうろさまよう金糸の髪の少女を呼びつけた。
「何でしょう、プークス♪」
嬉しそうに、計算魔法具を出すな。
「央都と此処を、今すぐ繋げるか?」
計算魔法具を取り上げつつ、尋ねる。
「今すぐというわけには――神域惑星の御神体像に付いた転移陣の扉は、ネネルド村と央都の大講堂の二カ所へ繋がっております。これ以上、繋ぐには、どちらか一つを閉じなければなりません、うふふ?」
順路的にはネネルド村のを閉じて、此処と繋ぐしかないな。
「そうするしかねぇよなぁ。よし、やってくれ!」
「では、絶対に動かない壁に設えられた〝要らない扉〟を一つ、お貸し下さいませ?」
と手のひらを向けられたので――
おれは家主であるフッカ父に、手のひらを向けた。
「むふぅむ? 動かない壁? 詳しいことわはーん、わっかりかねまっすがっはーんぁ――この町に動かない壁など、御座いませんが? ソレが何か?」
おっさんの言うことは、尤もだった。
この町は地下ダンジョンの主の大きさによって、地面が翻筋斗打つ仕様だからなー。




