531:旧パラベラム冒険者専用訓練ダンジョン、ネコチャンとモソモソ家
「なんて言ってやがるんだぜ?」
「概要しかわかりマせんが――龍脈結晶石、二回目、見ル、コの長さ――と言ってイると思わレます」
「龍脈結晶石? アダマンタイトのことか?」
おれも宝箱に、よじ上る。
ギルドの長机よりは低いから、片足が床に付く。
「猫共用語ニは存在しナい非常に原初的ナ単語が、倒置法デ話されていマす。古代猫共用語ナのか、そレとも別の猫種にヨるローカルな言語なのかノ判断は付きかネます」
まったく次から次へと、新しい話が湧いて出てきやがる。
ふぉん♪
『イオノ>それはそうでしょ。だってこの世界はフルダイブVRMMO、つまりRPGだもん♪』
梅干し大まで新しい話を、言い出すなってんだ!
あれっ、懐を探るも御神体が居ねぇ――まさか無くした?
「君ぃ――かーわーいーいーねぇー♪」
居た。
決闘死なんて呼ばれてるわりには、服を着てやたらとかわいいその姿。
猫足の下敷きになってやがった。
「でぇーへーへーへーへーへーぇ♪」
どうした、その猫なで声。
周りの大人たちまで、目を糸のように細くしてやがるし。
ふぉん♪
『>人が〝猫に類する形状〟に魅了される傾向は有りますが、精神作用による物ではありません』
ふぅん。なら良いが――
「にゃにゃぁーん♪」
二本足で(御神体の上に立つ)猫と――
「にゃみゃぎゃにゃぁーん♪」
うちの化け猫は、普通に話をしてやがるぞ。
強化服の言葉を決めたのは、五百乃大角だったな。
「(おい、五百乃大角。おにぎりの言葉を、猫語にしたのはなんでだぁ?)」
画面の中の小さな御神体を、じっと見つめてやる。
ふぉん♪
『イオノ>汎用造形エディタの埋め込み言語設定に、〝日本語〟も〝トッカータ大陸共用語〟も無かったんだからしょうがないでーへーへーへー♪』
無かったのならやむなしか。
こうして役に立ってるようだしな。
「「ずるいっ! ネコチャーン♪」」
「みゃにゃぎゃぁー♪」「ふっぎゃぁぁっ!?」
アダマンタイトの上に座り込み、魔術師姿の猫を撫でくりまわす――
レイダとビビビーとおにぎり。
「ネコチャーン……」
第四師団長も床に立てた魔法杖に乗り、手をのばす。
揉みくちゃにされた御神体が、ぎゃふんと転がり落ちたから――すぽん♪
収納魔法に仕舞ってやる。
「それで、このお猫さまわぁ、一体どこで拾ってきたんでぇい?」
長椅子でくつろいでたモソモソご夫妻に、訊いてみた。
§
「話はこの子が幼少の砌にまで、遡りますが――」
そんな言葉で始まった、モソモソ家の苦難――
すなわちフォチャカ嬢の、超虚弱体質。
露店で買った呪いのアイテムによるものとは知らぬ、終わりのない苦悩。
ふぉん♪
『真蒼のローブ【吸血の呪い】
防御力60。魔術師向けの一体型防具。
追加効果/DEF+着用時間×0.001%
条件効果/【火炎縛】ローブが吸った血を使い、
無差別に火炎系魔法を放つ』
迅雷が画面に出してくれたのは、件の呪いのアイテムの鑑定結果だ。記録してあったらしい。
血の気が多い奴でも無けりゃ、こんなのを着てた日にゃ――
「まて。上級鑑定すりゃ一発で、〝呪いのアイテム〟だってわかるんじゃね?」
買った本人ならいざ知らず、娘の大事だぜ。
「「「買ったときの五倍もの大金を、出す余裕はありません。もったいない!」――です!」――ひょろぉー!」
声を揃えるモソモソ家。
「「鑑定するくらいなら、教会で解呪の魔法をかけてもらう」という人は多いですね」
顧問秘書が困り顔で、説明してくれた。
やっぱりそうなのか。安物に鑑定代を払うことはどうやら、相当憚られるらしいぜ?
「どのみち、この辺は田舎ですし上級鑑定を使える者が、居りませんでして――ぉほほほ♪」
話が長くなりそうだったから机を並べて――ドンドンガドン!
ヴヴッ――カチャカチャカチャガチャカシャン♪
お茶の用意をした。
おっさんの野次……合いの手を交えたフッカ母の話は、そこそこ面白くて。
地下扉の間は、和やかな空気に包まれていく。
そしてそれは、意外な言葉を聞いたところで――
ぶち壊しになった。
「ちょっとっ、聞き捨てならないわよぉう!?」
怒り心頭の丸茸。
手にしていた一抱えはある小さな焼き菓子を、パリンと割った。
「落ち着いてくださいませ、イオノファラーさま――プークスクスクス♪」
菓子が盛られた皿の上。
かぱりと大きな蓋をしてしまう、茅野姫。
「――――、――!!!」
御神体の声がくぐもった。
怒りはそうそう冷めやらないようで、すっぽこ――こぉん♪
てちり!
「――ぉわ伝説のぉお茸さまおぉー、生煮えで食べてぇ――お腹おぉー壊ぁしたぁーぁあぁあぁあぁあああん!?」
うるせえ。
おれは頭の上に落ちてきた、丸茸さまを恭しく――
がしりとひっつかんで、懐に仕舞った。
§
やはりフッカ父の話を本人から詳しく、聞かないといけなくなり――
ぱしんぱしん♪
背後で魔法杖を構えるフッカ母。
そうして脱線しないよう監視してもらいつつ聞いた、詳しい経緯は――
次のようなことだった。
まずおっさんが、「妙に疲れる」と悩む娘のため。
いつもの露店で茸を、大奮発して買ったらしい。
それが今から二年前。
ふぉふぉふぉん♪
『モルト・トリュフリュ【木陰の宝石】
ちいさな茸。鍋に入れるととてもおいしく、
あまりのおいしさに天啓を授かるとか授からないとか。
追加効果>適切な調理をすれば、食後一時的にMPが減らなくなり、
INT、AGR、LUKのいずれかが恒久的に上昇する。
ただし調理には熟達の料理人による、最高の仕事が必須。
失敗した料理を食した場合、HP最大値が大幅に減少する。』
例の魔王城で採れた茸は、二つあった。
天啓ってあるから確かに、こっちだな。
ふぉん♪
『>はい。〝幸運値の上昇〟が見込めるなら、フォチャカの体力への効果が見込めます。ただし失敗時の〝HP最大値が減少〟という効果は、かなり危険です』
大幅にってのは、いただけねぇやな。
「木陰の宝石なんて珍しい茸を買ってくるものだから、慌てて調理法を探しに書庫へ――」
その茸は五百乃大角が自慢してたうちの、片方と間違いなく同じ名だった。
そんな珍しい食材が、大奮発程度で買えたのは――
茸の大生産地であるトリュフ橋間近の、この町(略)ならではのことらしい。
「――行っている隙に、下ゆで中の茸を丸かじりされてしまったと?」
なんとも言いがたい顔の顧問秘書が、念を押した。
「もんぉーっ、ヴァッカじゃないのぉ――!!」
だから、言ってやるなってんだぜ。
おれは丸茸さまを、両手でしかと握りしめる。
「うっひょろぉー、だってさぁー! あんな茸一個ぽっちじゃさぁー、せいぜい旨みのエキスを取るだけっしょーぅ? だったらっ、ただ捨てちゃうくらいならっ、食・べ・て・あ・げ・る・の・がぁー人の道ってものでっしょぉぉぉぅ?」
熱弁を振るうフッカ父、モソモソ家家長。
スッパァァァァァァァァァンッ――――――――♪
振り下ろされる魔法杖、張り扇。
「ぅあなたっ! 茸の町の住人ならっ、アレひとつで王侯貴族の晩餐会が二度は開かれると、噂されてることくらいは知ってるでしょっ!」
白煙を放つ魔法杖と、おっさんの尻。
「えぇえぇー? し、知らないんだよぉぉんだぁっ、びぃんよよよぉん♪」
なぜそこで折れた髭を伸ばして、面白い顔をして見せる必要がある!?
スッパスッパパパパパパパパパッァァァァァァァァァンッ――――――――ぼぼわわっ♪
魔法杖の追加攻撃が炸裂したのか――おっさんの尻がちょっと燃えた。




