53:冒険者パーティー『シガミー御一行様』、VS姫さん開始
――――――――ィィィィィィィィィィィィィィィィィィイイイィィィィイイイィィィィン!!
うおりゃっ――――ごろごろろっ、すたん、すたたーん!
ときどき来る、でけえのを、ちゃんと避けりゃ、なんとかなりそうだぜ。
ふぉふぉん♪
『最優先項目:〝不可視の剣尖〟解析終了まで――解析項目に修正あり。
>5時間25分(5分の短縮)
>5時間20分』
ふぉん♪
文字がかわる。
『おお急ぎ:〝見えない切先〟説破まで――問いかけに手直しあり。
>二刻半三百息(四十息はやくなりました)
>二刻半刻二百六十息』
逆にわかりづれえ、『時間』でかまわねえ――ふぉん♪
『おお急ぎ:〝見えない切先〟説破まで
>5時間20分』
ギリギリでかわせば『5分』、頓知がはやくなんのか。
迅雷の〝考え〟には、〝材料〟が要るってのはわかってる。
それは〝よく見て〟、〝よく聞く〟ことだ。
なら――背負った小太刀を、腰までまわす。
こうすっと、袈裟懸けにした紐をほどかずに、刀が抜ける。
――――ィィィィィィィィン!
おれは跳びのきざまに、居合を放つ。
ゴギッン――――小太刀の先が、くるくるまわる。
抜いた刀身が、目のまえで切れた。
これは、そうそうあるこっちゃねえ。
体ごと切られねえと、見れねえ光景だ。
からだが勝手に、うしろに跳ぶ。
というより、考えるよりさきに跳んでた。
むしろ跳んでなかったら――おれの鼻先を〝切れる気配〟がとおりすぎていく。
(どずずぅん!)
また遠くで、森の木が倒れた。
ものは試しと、やってはみたが――ふぉふぉん♪
『おお急ぎ:〝見えない切先〟説破まで――問いかけに手直しあり。
>5時間20分(15分はやくなりました)
>5時間5分』
刀を交えれば、たとえ刀を切られたとしても『15分』時間が稼げる。
うーん、割にあわねえ。
ごろがり起きた勢いのまま、跳ぶ。
――――ィィィィィィンッ!
――――ィィィィィィンッ!
――――ィィィィィィンッ!
だっ、だっ、だだっ――――ぼこ、ぼこ、ぼこぼこり!
狐耳の縁取りに、うごきはねえ。
おれの金剛力の、はやさについて来れねえのか?
それならそれで、位置どりが要になるだろ。
どういうつもりだ?
「錫杖出るか?」
試しに作っておいた、ジンライ鋼製の錫杖。
小太刀よか重いから、使うのはまだ先だと思ってたが――
ヴッルン!
目のまえにあらわれた、鈍くひかる棒。
あたまに鉄輪がついてて、良く鳴るから、〝試す〟のにちょうど良い。
迅雷の説破までは、迅雷で受けるわけにはいかねえ。
迅雷は、どうしたって要るもんだ。半分にされたら、生きてけねえ。
「この錫杖は定めて当たる、一撃必――――!」
ゴギィン――錫杖の先が落ちた。
――――ィィンッ、ィィィンッ、ィィィンッ!!!
感じる気配より先に――切られた!
ゴギャギャギャギャリィン!
わわっ――錫杖がどんどん短くなる――おしだす寸前だった腕をひきもどし、地面に倒れこむ。
ずざぁぁぁぁぁぁあぁっ――――ごどんごどんごごどどごどがららっ!
落ちるジンライ鋼。
半分どころか、十二等分された。
「くそっ、どうすんだ! もう投げるもんがねえぞ!」
どうせあたりゃしねえが、なにも武器がねえのは辛え!
ふぉふぉん♪
『おお急ぎ:〝見えない切先〟説破まで――問いかけに大幅な手直しあり。
>5時間20分(1時間45分はやくなりました)
>3時間35分』
「へ?」
ごろごろごろ、地面をころがりながら、『3時間35分』て文字をよく見る。
見まちがいじゃねえ、一気に時間をかせげた。
ヴヴッルン!
もういちど、あらわれる錫杖。
こいつは、地面に落ちた細切れの錫杖を迅雷があつめて、もう一回取りだしたもんだ。
ぱしん!
あれ、かるい?
くるくるくる――――ぴたり♪
「なんか短かくなってねえか?」
目のまえの景色が――――ずれる。
――――ィィィィィンッ!
姫さんのぶった切りの速度が――あがってる!?
あっぶねぇぇぇぇっ!
真っ二つになった錫杖が消え――ヴヴッルン!
ぱしん、くるくるくる――――ぴたり♪
「まじで短けえじゃねぇかよ!」
目のまえの景色が――――ずれる。
ブゥォォォォンッ――――!!!
こんどは錫杖を、〝ずれた景色に〟思いっきり叩きつける!
何の手応えもねえ――――ィィィィンッ!
うっわっとっひゃっ!?
〝切る気配〟を放ってから次の〝気配〟がくるまでのあいだが、なくなった。
――――ィィィィィィイィィン!
よこっとびに一回転。
――――ィィィィィィイィィン!
錫杖を突きたて、たかく跳ぶ。
――――ィィィィィィイィィン!
ゴゴッガギュッ!
切られた錫杖を投げすて、地をころがる。
――――ィィィィィィイィィン!
トトトォォン――――逆立ちのまま走る。
とおくに居るレイダたちが、逆さまだ。
この金剛力があると、手も足も関係なく、いっぽんの力で数メートルうごける。
まるで軽業師だ。
食いつめたときゃ、レイダに猿回しでもやらせるか。
もちろん、おれが猿をやる。
ふふぉん♪
『>希少現象を連続的に観測。
>強化学習による事象ライブラリの再構築が完了しました』
わからん。
ふぉふぉん♪
『おお急ぎ:〝見えない切先〟説破まで――問いかけに重大な手直しあり。
>3時間35分(3時間35分はやくなりました)
>解析終了
>対話型インターフェース復帰しました』
よくわからん。終わったって書いてあるが――――
「(話せまs――――――――――――ィィィィィィィィッィィィィィィィィイイイイイイイインンンンッ!!!
草地に伏せたが、気配が低い!
四つ足で跳びあがる!
ちっ、狙いまで細かくなってきやがった。
どうせ邪魔されんなら、やっぱり内緒話はなしだ!
とんぼを切り、全力で駆けだす。
「そもさん――――!」
「説破デす、シガミー。ですがソのまえに――」
ふぉん♪
『Equipment_Box(Minimum_Storage)
>アイテムを一件、作成しました』
わからん。
強化学習/周囲の環境下において、報酬が最大になるよう行動することで、予測精度を高められる機械的な学習方法。
そもさん/疑問を投げかける言葉。禅問答で修行者が答えを問うときに使う。
説破/説き伏せること。論破。禅問答で師が修行者を説き伏せるときに使う。




