520:ツツィア子爵領紀行、トリュフ橋への道
「ふぅーぃ。全員居るなぁー?」
ここはトリュフ橋最寄りの女神像。
央都の大女神像から、一瞬で飛んできた。
ガムラン町と比べたら、よっぽど近くだからな。
「「「「「「「「「ははーぃ」」」」」」」――わよ♪」――プークス♪」
気の抜けた返事が、返ってくる。
「にゃみゃぎゃー♪」
「ひっひひぃぃぃん?」
「全員無事、到着しまシた」
よし。
転移料金は大女神像の間まで見送りにきた、ご令嬢が出してくれたのでとても助かった。
〝人数割り〟と〝女神割り〟と〝星神割り〟とやらが利いたが、それでもそこそこの値段だったからなー。
「(シガミーと私とイオノファラー、そして茅野姫だけなら、格安で使う方法も無くはありませんが――)」
そーなの?
「(この大人数でわぁ無理よねぇん。神域惑星から飛ぶ分には、お金は掛からないけどっさぁー)
駄目なの?
「(残念ながら、段取りが悪かったですね。深夜でしたら、まず私が先行して転移扉を設置しておくことも可能でしたが、プークス?)」
そーいう事か、了解した。
猪蟹屋として使える金は無くは無いが、今は色々な支払い分が立て込んでいて――
右から左へ飛んで行っちまうからな。
「(こりゃぁ、星神さまを窘めてばかりも居られん。一度くれぇ、大商いでもしねぇとな)」
最悪は変異種を見つけるか、神々の世界の物を作って売るかしなきゃ、店が回らん。
ふぉん♪
『>シガミーというか天狗の個人資産としてなら、コントゥル領の年間予算の約10%もの額の収入の当てがあるのではありませんか?』
ふぉん♪
『シガミー>はぁ? そんなもんが有ったらとっくに使ってらぁ!?』
ふぉん♪
『マナ宝石【超特選】/
非常に希少かつ巨大な、活力の塊。
女神像を凌駕するほどの活力を、蓄えている。
価格/31500000パケタ』
飛び出したのは、小さな小窓。
何だよ、そいつの話か。
ぬか喜びを、させるんじゃねぇやい!
「(そいつぁ、もう使っちまっただろ。とても金なんか貰えねぇ」
そもそも、ギルドを壊した原因の半分はおれだし――
神域惑星との行き来をするのに、猪蟹屋が使ってるもんだし。
ふぉん♪
『>では、その他の在庫品の中から、何かレアアイテムを売却しますか?』
「(馬鹿野郎。ミノタウ素材の精算には、もうちょっと掛かりそうだし他に売れる物なんて残ってねぇだろが! 預かってる魔法具なんかは全部ガラクタだしよぉ)」
名代からの一式装備納品クエストの代金と成功報酬と――
装備修繕クエストの成功報酬わぁ――
央都猪蟹屋を買うのに、使っちまったし。
「ふぅぅぃ」
息を吐き女神像横の、くぼんだ通路を見つめる。
その行き止まりに転移陣が、うっすらと描かれていた。
基本的にこれは来る物で、行く用には出来てない。
行く用に出来ているのは――
央都の大女神像と、ガムラン町の超女神像と――
神域惑星の御神体像の三つだけだ。
それぞれに飛ぶための決まりや、細かな条件なんかもある。
転移陣で自由に行き来は、まだ出来そうも無い。
「じゃぁ、付いてきてくれー!」
おれは先陣を切って、歩き出す。
スッタスタタ♪
おれと迅雷。
根菜に茅野姫。
ドタタタタタッタ♪
子供に子供。
メイドに少年。
細い通路に数珠つなぎ。
カツカツ、コツコツ、カツカツカツ♪
顧問秘書に第四師団団長、そしてフッカ嬢。
ぽっきゅぽっきゅ、ぽっきゅらぽっきゅららっ♪
おにぎりと天ぷら号。
少し混んでた、ギルド支部の受付。
顧問秘書とサキラテ家ご令嬢の冒険者カードを見せたら――
口添えもなしで、そのまま関門を通り抜けられた。
「(人選に間違いは、無かったな)」
§
さて外に出た。
わいわいわいわい、がやがやがやがやがや♪
それなりに活気がある町並み。
ここから先は轟雷で、一息に飛んで……行ける感じじゃねーな。
秘書さんや師団長の制服のおかげか、余所者扱いこそされねぇが。
「みゃにゃぎゃにゃぁーお♪」
おにぎりが動くと、町人や冒険者たちが――
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うぎゃっ!? 猫の魔物ぉっ――!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
寄せては引く、波のようだぜ――
「「面白い♪」――ね♪」――わねん♪」
「プークス♪」
言ってる場合じゃ無いだろ、お前らぁ。
総勢8名と2匹と一個と一本。
頭数としちゃ12。
子供も多いから、どうしても目立つ。
「このままここに居るとサキラテ家ご令嬢ヴィヴィーちゃんへ、御目通りをしたい人であふれかえる危険があります」
秘書さんが、そう脅かすまでもなく――
すっげー見られてるな。
ひとまず、ここを離れるぞ。
「とりあえず馬車を出して、天ぷら号に引いてもらおう」
「ひひひひひひっひひぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ?」
あーもー、わかった。
はしゃぐな、危ねぇ。
ヴッ――――ドズゥン、ギッチャ♪
ギルド支部の裏手で、馬車を出した。
カチャカチャカチャララッ――――!
馬車から伸ばした、大小様々な機械腕。
その端を鞍に、繋いでやる。
ぽっきゅらぽきゅらららっ――――♪
「爪音は間抜けだが、並みの馬よか早ぇぜ!」
御者も無しに走る馬車も、目立つから――
おれが馬車のまえに座った。
ぽっきゅらぽきゅらららっ――――♪
よーし、町を出るぞぉー。
馬車の窓から秘書さんが、身を乗り出すと――
町の衛兵が門の両端に、避けてくれた。
ヴォォゥン♪
地図によれば、まっすぐ道が続いている。
ぽっきゅらぽきゅらららっ――――♪
程なくして、分かれ道があり――
片方が『トリュフ橋』、反対側は『モップ渓谷』。
「とまれー!」
ぎゅぎぎぎいぃぃぃいいいい♪
モップ渓谷側から来た、一台の馬車と出くわした。
パッカラパッカラパッカラッ――――ヒヒィィィン♪
そうそう、蹄の音と嘶きってのは、こうじゃねーとなぁ。
トリュフ橋までの道は、硬い岩場が続いている。
そして相当、開けているから――
併走しても、ぶつかることはない。
おれたちの横を馬に引かれた馬車が……追い抜いていく。
「ひひひひひぃぃぃぃぃぃんっ?」
ぽっきゅらら、ぽぽきゅらららら♪
「おい、がんばれ天ぷら号?」
おれが御者をしちゃ居るが、でかい子馬には――
おにぎりが乗ってるもんだから、前はほとんど見えん。
「ひひひいぃぃぃぃん?」
太短い首を一生懸命にひねり、つぶらな瞳で見つめてくる。
どうした? そこまで振り向かんでも――
おれの全天球レンズの目玉なら、真後ろも見渡せるだろう?
ぽっきゅらぽっきゅらぽぽきゅきゅららら♪
ぽっきゅらぽっきゅらぽぽきゅきゅららら♪
「この丈夫に作った馬車が、重いんじゃないの?」
座席の床を踵で、ゴツゴツ蹴る子供。
「普通の馬車よりは、軽いはずだがなぁ――どうなってる迅雷?」
「天プら号ノマナ活性率が、著しく低下してイます」
「それって、どーいうことだぜ!?」
「燃料切れ……空腹なのかモ、知れマせん」
なんだと!?
「……なんか、お腹空かなぁい?」
そういやぁ、そろそろ昼飯時ではあるな。
けど央都で子馬にも根菜にも、饅頭を食わせたばかりだぞ?




