517:龍撃準備開始、ガムラン系女子たち
「彼女たちがぁ、〝深遠の囁き〟の三人よぉー♪」
派手めなドレスに身をつつんだ淑女が、声も高らかに紹介する。
片手を入り口へ向かって差し出した淑女の頭や指先には、治療の跡が見て取れた。
どたたたたっ。壇上へ上がる三人。
「「「し、深遠の囁き――推参!」」」
向かって右から、フッカ、外套、短剣屋。
フッカが魔法杖を、ひょいと投げた。
何をするのかと見ていたら、指の上に載せ釣合を取った。
真ん中のは外套を広げ、裏地に無数に吊された薬瓶から七色の煙を立ちのぼらせ……た?
なんだぜこりゃ、大道芸かぁ?
収納魔法具のような短剣屋は短刀を持ち、その上に刃を逆さにしたショートソードを乗せた。
あれはどれだけ修行をしても、出来ねぇ奴には一生出来ねぇ凄技だ。
「大道芸じゃねーかっ!」
馬鹿野郎め、おれも血が騒いじまうだろうが!
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おおおおぉおぉぉぉー♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
あぁあぁあっ!? しかも受けてやがるだとぉ!?
学者方にわぁ男衆が多いからぁ仕方がねぇが、それにしてもだ。
ふぉん♪
『シガミー>おい迅雷』
ふぉん♪
『>なんでしょうか、シガミー?』
ふぉん♪
『シガミー>やっぱり客はリオレイニアやリカルルくらいの歳の女が、好きみてぇだな』
ふぉん♪
『>その傾向はあるようですが、シガミーの大道芸が負けた証左にはなりません』
ぐぬぬぅ。それでもやっぱり客は、子供じゃなくて若い女を見に来てるっ。
あの三人に見向きもしねぇのは、この中じゃニゲル位のもんだぜ。
なんせまだ演習場で轟雷と、戯れているからな。
「パーティーリーダーのチャタンパよっ♪」
ぼっふわぁぁん、七色の煙が天へ昇り――ぼっがぁぁんっ♪
七色に大爆発した。大講堂が、ざわついていく。
「ちょっと、今の爆発力!?」
「ああ、見過ごせない――」
「噴煙の組成を変えれば――」
「10倍は威力を高められる!」
「美の女神イオノファラーも――推参!」
ヴォヴォヴォヴォヴォォォォォォゥン――――♪
ざわついた大講堂を、ひとまわりする浮かぶ球。
うるせぇ、一体何してやがる!?
手元に居る根菜の方をつかむ。
『(Θ_<)』
ヴォォォォゥン、ヴッ、カシャカチャ――浮かぶ球が白い剣を取りだし、短剣女に斬りかかる!
「リュカテークよっ♪ はぁっ!」
スパスパスパスパパパッ――輪切りにされていく剣。
「ありゃ剣じゃねぇ、大根だぜ!」
おれがそう言うと、小さな笑いが起きた。
「そしてっ、フォチャカッ♪」
がさがさがさささっ――ぽすん♪
輪切りになった大根を、手にした笊で受け止めるフッカ嬢。
「「「三人合わせてぇ――深遠の囁き!」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「わわーわぁーわっわわぁぁぁ♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ちっ、なんだぜこの大歓声わぁ。
「おれぁ、もっと淑やかな奴らが来ると思って、期待してたんだがぁ」
大道芸人としての妬みを込めて、言ってやる。
どっちにしろ〝深遠の囁き〟感が、ひとつもねぇのは本当だ。
「期待? なんの?」
おれの独り言に、レイダが食いついた。
「そりゃ、おれの行儀の参考に、なるかと思ってだな――痛っ!」
つかんだままの根菜に、指を囓られた。
おれたちが座る長机に降りたち、がちがちと空噛みする美の女神な御神体さま。
「お行儀ならぁ、リオレイ……ルガレイニアちゃんさんに教えてもらったら良いじゃないのさっ?」
そりゃそーなんだが。
「レーニア……ルーガレおばさんのマナー講座は、ほかの先生たちから評判良いってウチのメイドが言ってたよ?」
そりゃそーなんだが。
「あそこまで完璧だと、商売や冒険者をするときには……都合が悪ぃこともあるんだよ」
感じとしちゃ、〝大酒をかっくらってるときの鬼娘くらい〟が良い案配なんだがなぁ。
「「「そぅわのぉ?」」」
根菜本体と子供たちが、不思議そうに見つめてくる。
大きな声じゃぁ言えねぇが、ルガレイニア先生の指導は――
戦乱の世に生きた破戒僧のおれにゃぁ、ちと厳しずぎてなぁ。
§
「さて出し物も済んで、人が疎らになったところで伺いますが――」
教卓へ立つ、ご令嬢リカルル。
「な、何でしょうか、リカルルさま?」
怯えるフッカ。長年苛まれていた呪いから解放され、装備も心も心機一転。
明るくなった彼女ではあるが――
「実はアナタの――」
カツコツカツリ――長机へ歩みよる靴音。
「「ま、まってリカルルさま、チャッカは悪くないの!」」
自分を呼びつけた領主の娘に、詰めよられれば――
「ううん、悪いのは私ですっ! 身に覚えはないけどっ、二人には関係ないんです!」
こうして取り乱したりも、するわなぁ。




