510:ギ術開発部研究所、第一倉庫二階?
「――王家というか、王政に異を唱える勢力を制圧するのは容易いニャァ」
そうなの?
収納魔法具の中から轟雷を出そうとしたら、ミャッドが話し始めたから聞く。
「けど、それをしてしまっては――魔王討伐のために締結された、央都ラスクトール自治領としての正義が……永遠に失われます」
ミャッドと違って、青い顔のマルチヴィル。
だろう、それだぜそれ!
白いのを助けるためとはいえ、本丸のど真ん中で城攻めまがいのことを既にしてるんだ。
そーいう青い顔をして、事に当たるべきだろうがよ!
そーいう意味じゃ魔導騎士団団長たちの、一糸乱れぬ脱兎の如き逃げ足。
情けねぇが、あれが正しい。
「私に提案があります」
青い顔の秘書が、進み出た。
いつも顧問氏のうしろに控えていた、彼女にしては珍しい。
どさり。
彼女が置いたのは随分と古い、一冊の本だった。
§
「コチラは簡単に説明すると、発掘の指針となる古文書のひとつなのですが――」
ぱらぱらと慎重に、めくられる古文書。
「発掘って何だぜ?」
仕事柄、石や鉄や土を掘りに行くことがある、鍛冶工房長ノヴァドが尋ねた。
「我々、魔導騎士団魔術研究所ギ術開発部は、魔導騎士団の装備や央都防衛の魔法具や設備を日々開発していますが――」
青い顔を髭男へ向ける、顧問秘書。
「――そのうちの何割かは太古の時代の土壌から、発掘された物なのニャァ♪」
「みゃにゃぎゃみゃー♪」
たぶん、そうだな。
その中のひとつが〝おにぎり〟だ。
「この古文書には太古の神から神託した、悠久の発掘魔法具の埋蔵場所が書かれているのですが――」
ぱらぱら、ぺらりとめくられる古文書。
「その中には既に発掘したとされる☑マークが書かれている物もあるニャァ♪」
顧問氏がぺたりと、手を置いた部分には――『発掘済☑』の図案。
「この〝☑建国の際に龍を封印したとされる宝箱〟を調べれば、今回の事件の解決の糸口になるのでは、というのが私の提案です」
どうやら、初代ラスクトール王が龍を鎮めた太古のアーティファクトが、今も宝物庫に眠っているらしい。
魔導騎士団の敷地の、おれたちが間借りしている側とは反対。
王女のゴーレム工房に、ほど近いあたり。
つまり城壁を挟んで、壊滅した央都猪蟹屋があるあたり。
それほど大きくは無い、魔導騎士団一号倉庫とやらに行き着いた。
§
龍撃の戦い。建国の礎となった戦い。
そのとき封印に使われた宝箱とやらで、巨木に備えようって腹なのはわかった。
「何もねぇじゃんか?」
倉庫の中には、木箱ひとつ置かれてなかった。
「こっちだニャァ」
すててててと隅にある階段へ駆けていくミャッド。
そのあとを追い、おれたちは二階へ上がる。
「何だぜありゃ!?」
何だぜありゃ?
さっき一階隅の階段を上がるとき一階の天井には、あんな穴は空いてなかったぞ。
「この下ニャァ♪」
不思議がるおれたちを置いて、顧問氏は降りる階段へ飛びこむ。
秘書その他魔導騎士団所属の連中が次々と、天井の厚みを越える奥行きを降りていく。
「しゃぁねぇ、おれに続けやぁー!」
決死の覚悟で階段を降りると、下にあるはずの空っぽの一階では無く、棚だらけの倉庫部屋が有った。
§
「まだ先が、あんのかぁ?」
はぁひぃ。
「われわれも、ここまで降りてきたのは初めてだから確証はニャィが――」
ニャフフゥ。
「パズル大好き!」
と豪語する、根菜さまの手先の器用さに助けられていた。
階段や通路をふさぐ鉄格子には、歯車が付いた板が取り付けられていて、下へ降りるには――
まるで〝おにぎりの中身〟を組み合わせたときみたいに――
〝光る所を素早く押していくと、最後に二カ所光るからそれを同時に押す〟みたいなことを、しないといけなかった。
浮かぶ球に乗った根菜が、球から伸びた機械の腕で――
コカカカカカッ……コツコツコツコツ……スッタァァン♪
ガッチャン、ギャリガリカチカチカチッ――――ガコォーン!
そんな頓知仕掛けを解くこと、六つ目。
ふぉん♪
『>二階の階段から数えて、地下五階になります』
ぽぅわぽぽぅわわっ――!
灯りの魔法具が、ひとりでに灯され――
現れたのは、ソコソコの広さの部屋だった。
フカフカな座布団が張りついた、寸足らずの長椅子。
そのまえには、歪んだ大机が置かれている。
「あらぁん、これわぁん?」
五百乃大角が近づくと――ガッキョン♪
大机の天板が、大口を開けた二枚貝のように開く。
「「きゃぁぁぁぁっ!?」」
子供たちが逃げていく。
ヴォヴォヴォォォォォゥン♪
輝く光を周囲に放つ、浮かぶ球。
その球を覆い隠すように、姿を現したのは――
五百乃大角の生身の姿。
空中に映しだされた人の身は――
いつだか夜会で、浮かぶ球が着て見せたドレス姿。
ああして普通の人のように歩いてると、まるで美の女神のように見えないことも無い。
五百乃大角(映像)が長椅子に座ると――がったん♪
歪んだ大机の手前側にも、細長い口が横に開いた。
ズラリと並ぶ白と黒の歯を、むき出しにした――
超古代、神代の悠久の時代の、そのアーティファクト。
「召喚の塔にあった祭具に、似ていますららぁぁん?」
召喚の塔にあっただぁ?
「ピアノじゃんか?」
とはニゲルの言葉。
青年が知ってるってこたぁ、日の本の道具だ。
但し、おれが知らない――おれが死んだ後のもの。
ふぉん♪
『>はい。これはグランドピアノと呼ばれる楽器のようです。猪蟹没後181年のちに、日の本とは別の国で完成しました』




