508:ギ術開発部研究所、魔導騎士団集結
顔に巻かれた、迅雷式隠れ蓑製の頭巾。
まるで首から上を、大怪我したようにも見える。
そんな連中でひしめき合う大講堂は、かなり面妖だった。
わいわわわいわわ、がやがやややがやや。
騒々しさも、ややくぐもって聞こえる。
「では我々は、ネネルド村の人たちへの綿密な聞き込みをしつつ、もう一度、大陸間弾道果実の発射地点を割り出そうと思いますっ!」
たまたま近くに居た学者が、ネネルド村村長を捕まえて――
そんなことを言った。
声を張ればこうして、普通に声は通るんだが――ちぃとうるせぇ!
その学者は、しゃらあしゃらした服を着ていた。
頭の両端に小さな切り株みたいなもの(たぶん巻き角)も、張り出ている。
頭巾越しでも、それが誰かわかった。
モゼル……頭突き女だ。
自然とおれたちは、距離を取る。
頭突きを食らわされては、大変だからな。
白頭巾は簡易的ながらも神々の叡知が折り込まれた、立派な猪蟹屋装備だ。
猪蟹屋が使う、目のまえの画面こそ見られないが――防御力に優れている。
〝厚布を顔に巻いても、布の向こうが見える〟ことに驚いた学者方の何人かが、「研究用と保存用と布教用に」と何枚も買い込んでいて――
「あらあああら、まあまあああ♪」
声をくぐもらせつつ大喜びの、星神茅野姫。
到底、串揚げ三本程度で(日本円で約450円)で手に入るような代物では無かったが――
無人工房とおにぎりと天ぷら号、そしておれと迅雷の尽力で――
それこそ、売るほどの在庫がある。
「すこひ手狭ですわへ?」
姫さんの声が特に籠もってるのは、頭巾の上から狐の面を付けたからだ。
「では主力となる君たちに、魔導騎士団詰め所まで、ご足労願いたいのニ゛ャァ♪」
猫の獣人である顧問氏は、頭巾で頭上の耳が塞がれてた。
「それ、ちゃんと聞こえるのか?」
まえに作った〝ケモノ耳用の鉢巻き〟を、出してやろうかと思ったら。
「ちゃんと聞こえるニ゛ャァ♪ 猪蟹屋の製品には、いちいち驚かされるニ゛ャァ~?」
化け猫みたいなダミ声。
くぐもる声に、技師としての恨めしさが滲んでいる。
学者方とネネルド村村民は、大講堂へ残り――
おれたちは央都の状況を探るべく、顧問氏に連れられ魔導騎士団本部へ向かうことになった。
「にゃみゃぎゃぁー♪」
「ひっひひひぃぃぃん――?」
「まて、おまえらが巻いてどうする?」
そんな夏毛で雑な図体をしたヤツが、何を巻いたところで――
猪蟹屋関係者だって、バレないわけがねぇだろが。
「仲間はずれなんて、かわいそーでしょ!」
声から察するにレイダだ。
「そーだよね♪」
察するにビビビー。
「ふむ、我は気に入ったぞ。この布は肌触りがとても良い♪」
ゲイルまで白頭巾に。
「あーもー、どうにでもしてくれ」
そもそもが、一番のお偉方が率先して暴れてやがるんだ。
少しくらい目立たねぇよう気をつけたところで、大した意味もねぇやな。
§
「魔導騎士団の全部隊を動かす――わけにもいかないからニャァ♪」
魔導騎士団詰め所へ、おもむいたおれたち。
ズザムズザム、ズザザザザザザザムザム!
ドタンバゴン、ボゴロロロロロォンロン!
集結する、魔導騎士団各部隊の隊長クラス。
総勢20名程度の連中――
「ふははぁっ――――良く来たなっ! 我こそは魔導騎士団第一師団団長の魔術師ゲラァルゴ・ケッピン!」
その恐ろしく長く刀身まで真っ白な、剣のような長板。
魔石が埋め込まれているところを見るに、たぶん魔法杖だ。
それが抜き放たれ、「ぬぅうぅぅぅぉっっっりゃぁぁぁぁぁ――――!」
ヴァリヴァリヴァリヴァリヴァリヴァリリィィィ――――ヴァッキューン!
輝く白剣、天へ昇る雷!
ありゃあ――白いのが良くやる、生活魔法の神髄に似てやがる。
ゴッガンッ!
どっと疲れた様子で白剣を地に突きたてる、第一師団長ケッピンとやら。
黒騎士や王子殿下と同じく、顔が良い若者だ。
中身は兵六玉……ニゲル青年に近い気がするが。
ガコォン♪
それは長大な、ねじれ枝。
「同じく第二師団団長のぉー、魔術師ニューヴ……ケッピン!」
ヴァリヴァリヴァリヴァリヴァリヴァリリィィィ――――ヴァッキューン!
掲げられた魔法杖の先端から、天へ昇る雷。
やたらと線が細い、1年A組の担任教師みたいな体格。
「あっ、バカてめぇ! おれの名乗りに繋げやがって!」
憤慨するケッピン。
「えぇー、良いじゃんか。名乗りのたびに、10パケタも使ってたら魔導騎士団が破産しちゃうしさ」
へらへらと口元をほころばせる彼は、見た目も中身もニゲル寄りだ。
そのあとキッチリ20名分の〝名乗り〟とやらを、聞かされおわった頃には――
頭上に青空が開けていた。
「へぇー、さっきまで曇り空だったのになぁ」
〝白いの〟……じゃなかった〝白いの〟の生活魔法の神髄も、コイツらの高等魔術らしい雷も――
そう違いは無いように見えた。
「やるもんだぜ!」
とは、鉄塊を背負う男性。
「さすがは、魔導騎士団団長さまたちだねぇ?」
とは、巨大な木さじを背負う女性。
長い名乗りの間に、ガムランの連中が合流した。
姫さんと青年にくっ付いてきたのは、たぶん――
女将さんと、ギュギュギュギュギュギュギュゥィィィィンッ!
うるせぇ、ギルド長か。
もう一人の変に、ひょろ長いやつは……白頭巾のせいで誰だかわからんが。
ガムランの冒険者が来てくれたなら、心強いぜ。
鬼娘が来ていないところを見ると、留守番を押しつけられたのかもしれないな。
「けど何で全員が、ケッピンさんなの?」
子供が、また余計なことを。
祭り事や騎士団の結束に関わる、重大な理由があったらどうするんだ!
「捧げ剣!」
赤いのが細身の豪奢な剣、『まがい物の聖剣【匠スペシャル】』を抜き放ち、空へと掲げた。
「捧げ杖!」
つづいて白いのが小さな魔法杖を取りだし、同じように空へと向ける。
――――――――ガラララララララッドッシャァァァァァァン!!!
天へ向むかって、雷鳴が轟いた。
直後、あまりの光の強さに――あたりが暗く影をなした。
ドッガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァァァァァァァァッンッ――――――――!!!!!!!!
天へ落ち、さらに折り返し落ちる雷光。
その場に居た師団長全員を、ばったばたと横倒しにした。
§
「「「「「「「「「「「「「「「「「せっ、聖剣切りっ!? な、なんでこんな所にっ!? にぃげぇろぉおぉおぉおぉーうぅう!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
折り返しの落雷を食らって、倒れていた師団長たちが――
気づくなり脱兎の如く、恥も外聞も無く逃げだした。
辛うじて残ったのは、たったの四名。
ご老体と童と、雑な形の鉄兜を頭に載せた――
顔の長い、毛むくじゃらだった。
こいつは、何の獣人なんだろう。
そして最後の一人は直撃を食らって倒れたままの、なんだっけ?
ふぉん♪
『人物DB/ゲラァルゴ・ケッピン
ラスクトール自治領王立魔導騎士団第一師団長』
そうだぜ、欠品だぜ。
はぁ……もし敵になるとしても、コイツらが相手ってことかー。
ほとんど逃げちまったところを見ると、まず猪蟹屋やガムラン町の敵じゃねぇ。