503:ネネルド村奇譚、大陸間弾道たまごの正体
「きゃっ――ひかりのたてよ!」
ヴォォォォォォォッン!
見方によっては、なんと言うか――
まるでルガ蜂の顔のように、見えないこともない――
〝魔眼殺しVer2〟、周囲の景色を写し込む眼鏡。
それを掛け、更に研ぎ澄まされた高等魔術を放った――
リオレイニア・サキラテ。
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ッ!
落ちてきた丸いのは、ひかりのたてにぶち当たり――
ゴガァァァァァンッ――――!
ブォォンッ――――ドガァァァンッ――――ドゴゴォォォォンッ――――バキバキバキキィィィ――――!!!
床にあたり壁に跳ね返り、柱を粉砕して――
「ぎゃぁぁぁぁぁっ――――!」
「うひゃぁぁぁあっ――――!」
「みゃにゃぎゃぁっ――――!」
「ひひひひぃぃんっ――――?」
老若男女に猫、そして馬――――天ぷら号の腹をかすめた。
阿鼻叫喚のネネルド村。
「っきゃやややややぁぁぁっ――――ドゴゴガガァァン!」
今の声は学者方の、ふわふわもこもこした頭突き女か!?
おれとリオをかすめ、湖面へ飛んで行く巨大で丸い何か。
頭突きに弾かれた卵型が――――ぽこぉん♪
水面から出ていた蛸足に見事に命中、ぷぎゅりゅりゅりゅとキャッチされた。
「ぷぎゅぎゅりゅりゅーぅ?」
巨大な蛸によって、桟橋に置かれる丸いの。
「こりゃぁ、ゲイルが持ってきた……あの卵と同じ――だよなぁ!?」
がやがやぎゃぎゃややや、わざわざざざわざざわわ?
「これが上から落ちてきた……と言うことは――」
ギュギュギュィィィィンッ――!
ギュギュィィン――!
チチチィ――!
魔法具やアーティファクトの作動音が、うるせえ!
学者方の何人かとミャッド、そしてシュッとした魔眼殺しVer2を掛けたリオレイニアが――上空を、直上の枝葉を見上げている。
ヴュュュゥゥゥゥンッ♪
チチチチィ――――おれの視界も拡大され、大写しになる。
太さが10シガミーはありそうな、小枝の先。
かなりの上空に茂る枝葉の中に、よく見れば〝ゲイルを狙った灼熱の卵〟が何個か、ぶら下がってた。
「ちっ、なんで気づかなかった!?」
「全天スキャンノ解像度でハ、卵形状ト判別するマでに時間ガ掛かりまス」
ああ言やぁ、こう返しやがって。
「まさか!?」
「「ひょっとして!?」」
ざわつく学者方ども。
「「「この卵って――!?」」」
「「「「卵じゃなくて――――!?」」」」
「「「「「この大木のぉ――――――!?」」」」」
拡大して目で見て確認した連中が、核心に迫った。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「種ぇ――――――――――っ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
うるせぇー、学者どもめっ!
「驚いたニャァ! 種と言うより――木の実かニャ?」
「ということは、あの紅蓮の炎は大木の木の実の……〝果肉〟ということになるのでしょうか?」
困惑の顧問氏と秘書。
ぎしぎしぎしっ――――!
そのとき桟橋が、大きな音を立てた。
傾く橋桁から、「水に落ちてはたまらん」「戻れ、戻れ」と、学者方が逃げていく。
対魔王結界の惨状を知るものも、「炎に巻かれてはたまらん」「逃げろ、逃げろ」と戻っていく。
「リオレイニアさんが、あの卵を撃ち落としたの?」
余計なことに、いつも気づく子供。
「いえ、普通にひかりのたてを使っただけですが――」
おずおずと進み出る、美の権化。
もっとも〝美〟は今、魔導光学的にかつてないほど相殺されている。
つまり、等身大の妙齢の淑女が、そこに立っていた。
「レーニアおばさん――じゃない!? 人の魔物っ!?」
黒頭巾は脱ぎさられ〝蜂の顔の眼鏡〟を掛けた彼女は、人の目には――
「それ知ってる、魔神って言うんだよね……あれ? 魔王だっけ?」
子供め。
おれも迅雷も、まさか――こうなるとは、夢にも思わねぇ。
「人の魔物!?」
ざわざわざわわわっ!?
「魔王って、絶滅したはずじゃ!?」
がやがやがやややっ!?
まるで猫の魔物を初めて見たときの、人々のようなやり取りだぜ。
この作法だか茶番だかは、一度やらないと――
どうしても話が先に、進まねぇらしい。
「様子を見るぞ」「そウしましょう」
なんて後手に回ったのが、裏目に出た。
§
「なに!? 魔王とな?」
とうとう一番のお偉いさんである、コントゥル辺境伯さまがやってきちまった。
「伯爵さま、ここは危険かも知れません! お下がりください――ひかりのたてよ!」
護衛たちを従えたお館さまや奥方さまを、守るように駆けよった給仕服姿の魔王(疑い)は――ヴォォォォォォォッン!
三度目の〝|邪を弾く聖なる盾《MAGIC・SHIELD》〟を展開した。
ふぉん♪
『シガミー>猫の魔物は〝決闘死〟とやらで、人の魔物は〝魔王〟だったか?』
ぽこふぉん♪
『イオノ>ちょっと何よ、この騒ぎ?』
ひと口サイズの五百乃大角が、画面の中に現れた。
ふぉん♪
『ホシガミー>ちょっと目を離すと、すぐに面白いことに、プークス?』
魔神の再来の再来の再来、リオレイニア・サキラテ。
彼女が〝MAGIC・SHIELD〟を展開したということは――
それは、お館さまや奥方さまの守りが、万全になったことに他ならない。
ふぉん♪
『>イオノファラーが温玉にさえしなければ、あの物体が熱を発することは無いと思わ――▼▼▼』
また真上からなんか、来るっ!?
ヴッ――パシッ、ガキッ!
ふたたび小太刀を取りだし、鯉口を開ける!
それはやっぱり丸くて、まるで卵みたいな形をした――
巨木の木の実(推定)だった。
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ッ!
木の実は魔神リオレイニアの、高等魔術に防がれ――ゴガァァァァァァァァン!
こんどは空の彼方へと、飛び去った。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「辺境伯ご夫妻がぁ、狙われたぞー!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
駆けよる村人たち。
「ふぅ、危ないところでした。伯爵さまに奥方さま、お怪我は御座いませんか?」
颯爽と振りかえるのは、ルガ蜂のような顔。
その轟雷の両目のような姿形が、この世に出てくるまでには。
日の本で言うなら600年も必要だったのだ。
おれが居た頃の日の本より、随分と後の世の来世でも――
両目が鏡で出来ていたら、そりゃぁ――
魔神と間違われても、仕方がねぇだろう。