502:ネネルド村奇譚、魔眼殺しVer2をつくろう
「じゃあ、やるぞ。せいぜい10分程度で調整は済むから、協力してくれ」
ヴッ――どんがたがたん。
テーブルと椅子を、桟橋まえに並べた。
「あら、心地よい風ですね。うふふ♪」
さぁぁぁぁっ――――たしかにココは、良い風が吹きやがる。
絵で板を立ち上げ――ヴュゥパ♪
リオレイニアの顔の形だけが、表示された。
解析指南、迅雷でも良いが――
彼女に似合う目隠しの形に、良い案はねぇか?
どうせ新しく、本式の奴を作るなら――
より見た目の良い物に、してやりたいからな。
ふぉん♪
『>そうですね。ふて腐れたイオノファラーの心に寄り添うため収得した【地球大百科事典】スキルを使用すれば、シガミーの没後607年における衣服や生活様式の変移を参照可能です』
わからんと言いたいとこだが、迅雷を介せば色々見られるのがわかりゃ十分だぜ。
ふぉん♪
『解析指南>目隠しデザイン生成を開始します>
1:サングラス、
2:MRヘッドセット、
3:アイマスク(儀礼用、夜会用、睡眠用)。
この中からお好みのデザイン系統を選出してください』
ヴォン♪
『[▒]』
ん? なんだこの図案は?
解析指南が出した枠の隅。
小板がクルクル回って出たり無くなったりを、繰りかえしてるぞ?
ふぉん♪
『ヒント>タブレットを取りだしてください。
自動的に入出力フェイズを進行します。』
やっぱり、わからん。
「シガミー。タブレット……黒板ヲ取りだしてくだサい」
おう、言われるままに取り出す――コトン。
パッ――『この中から、お好きなデザインを何個でも選んでください』
なんか出た。
「好きな物ぉ――じゃぁ、リオ。これ指で押――」
ぱしり。
「私が操作しても、よろしいのですね?」
黒板を取られた。
「ああ、わかるなら、どんどん進めてくれ」
彼女は五百乃大角や迅雷、ひいてはおれがもたらした物を、これまで一番間近で見てきたのだ。
黒板の操作なら、おれより早い。
§
「どんな感じだぁ?」
彼女の背後にまわり、見ていたら――
ヒュパパパパパパパパパパパ、ススススッ、ポンポポン♪
その素早く動く指先に圧倒された。
全部で数百枚位の中から、選ばされただろうか。
その指に、迷いはなく――ヴォォォゥン♪
『あなたが生成した、『目隠しデザイン』は――こちらになります』
出来上がったらしいが……こりゃ、轟雷の顔というか目というか。
おれが死んだ後、600年分の重みというか――
ニゲルがロボットプラモと呼んで、興奮していた何か。
そんなのに、通じるものだった。
「スポーツタイプノ、偏光サングラスのようでスね」
「こいつぁー、随分と尖っていやがるなぁ」
割ったピードロのように、鋭利な感じ。
「幾分、攻撃的にも見えますが、素敵ですね♪」
本人が気に入ったんなら、文句はねぇが――
「見てくれが良くてもコレじゃ、何も見えねぇだろ?」
けど……目隠しの部分が、鏡になってやがるぜ?
「シガミー。調整にも時間が掛かりますので一度、このままのデザインで作成してみましョう」
§
「これは普通に向こう側が、見えていますよ?」
その嬉しそうな顔。
驚いたことに鏡の向こうからは、ちゃんと見えているらしかった。
「ひかりのたま、みずのたま、ひかりのたてよ♪」
灯火が湖面を飛んで行き、たゆたっていた蛸足に当たる。
飛沫が舞い、ひかりのたてが――
ヴォヴォォォォンと広がった。
「今までのように、ほんの少し遅れて物が見える感じがなくなっていますっ♪」
うふふふふふっと、魔法杖を振りまわし、はしゃぐレーニアおばさん(19)。
おれが居た頃の日の本だったら、とうに嫁に行ってる歳だが。
この世界では、まだまだ気ままに独り身の生活を謳歌する歳だ。
はじける笑顔は、とても素敵だった。
だが、おれは正気を保っている。
膝から崩れ落ちるほどの恋に、落ちていない。
と言うことは〝魔眼殺し〟としての機能が、ちゃんと働いている証拠だ。
ふぉふぉふぉん♪
『解析指南>〝白狐の面〟の216枚の魔術光学的構造を、概算化し魔術的特性の持つ質量をキャンセルしました』
光の筋、魔法の神髄。その質量をキャンセル。
概算化し切り捨てても、魔術は発動する。
そう言っているのだ。
常人の約50倍も収得した、おれのスキルと――
前世の修行の記憶が、そう理解したが。
「まて、光に重さなんて、元からねぇだろうが?」
おかしいだろうがよ。
ふぉふぉん♪
『>イオノファラーが生存する2222年現在、重力質量は否定されています。物質とは光が場に止まり続けた結果、質量を持った物です。慣性質量および、魔術光学的な概念の改竄は容易く行えます』
頭の奥が、チリチリしやがる。
なーんか要らねぇスキルを、背負い込んじまったんじゃねぇだろな。
ふぉん♪
『シガミー>まてまてまて。物は光が鈍重になって出来たもんで、無い重さまで引いたと言っているのか?』
そりゃおかしいだろ、光がなきゃこの世は真っ暗だろうが。
演算上も教義上も、絵空事じゃねぇ。
ふぉん♪
『イオノ>坊主、驚異の理解力!』
やかましい!
おまえ、それ言いてぇだけだろうが。
ふぉん♪
『シガミー>その難しい魔術の話と空の話は、ぜひとも後でしようぜ』
リオレイニアの持つ繊細な、魔術操作技術。
その遅延が無くなることで、威力まで少し上がるってんだろ?
良いことずくめの、良いもんが出来たのは確かだろっ?
ふぉん♪
『>はい、上出来と言って良――▼▼▼』
真上からなんか、落ちて来たぁ!?
ヴッ――パシッ、ガキッ!
小太刀を取りだし、鯉口を開ける!
それは丸くてまるで、卵みたいな形をしていた。
ーーー
重力質量/重さに由来する引き合う力。2222年現在、光学的見地から否定されている。
慣性質量/動き続ける、もしくは止まろうとする力。