50:冒険者パーティー『シガミー御一行様』、VS姫さん(体験版)とレイダの小言(定期)
「え? いったい何のお話かし……ら?」
狐耳が、もう一回言ってくださるかしらぁ?
と言わんばかりに、くるくると向きをかえる。
「だかぁらぁなぁ~! たとえばの話だ、たとえばの――」
がしがしとあたまをかく。
ここはギルドの二階。
預けてあった、おれの金を板から引きだすついでに、例の話を切りだしてみたのだ。
「おれに、リオレイニアを預けてくれるわけには――――!」
剣に手をかけた瞬間すら見えなかった。
細身の豪奢な剣。
鏡面のように磨きあげられた、抜身の剣。
その根元が、おれの首に突きたてられていた。
息をすれば切れる。
「(おい迅雷、こりゃやべぇ!?)」
「(はい。シガミーの居合よりも高速で――――――――)」
「ん? おこぉるぁぬわぁいぃくわぁるぁあぁ、もういっくぁい言ってぇみてぇ?」
――――ィィィィィィィィン!!
昼中にかんじねえはずの、月のひかり。
この両目の冥さは、ほんとうにやべえ。
胸のあたりを、チクチクと針と糸で縫われてるみてえだ。
「(危険――)」
まばたきしたら、こんどは何かを言おうとした迅雷に、剣があてがわれている。
迅雷の内緒話より、早えってことかよ!
こいつぁ〝剣速〟じゃねえ。
構えがなくて間もねえから、刀で受けられねえやつだ。
幻の流派に、そんなのがあった。
とうとう前世じゃ、話に聞いただけで、手合わせはできなかった。
おそらく手合わせしたらおれぁ、二つにされてただろうな。
「なになにー、もめ事はぁこまりま――――!?」
っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
別のギルド職員が、様子を見にきてくれた!
「――――フゥゥゥゥッ!」
スゥーーーー、チャキン!
納刀される豪奢な剣。
「ちょっと、かわってくれない? あたま冷やしてきますわぁー」
「わ、わかりました!」
了承したことをあらわす、手の甲であたまを叩くしぐさ。
出ていくときに、〝なんでも切れる〟――藩主の娘が振りかえった。
「……ごめんね、シガミー。……けど、次はないからね」
§
「(いきてるか、迅雷?)」
「(シガミーこそ)」
ありゃ、七転八倒根術の型でも居合でも抜けねえ。
それこそ二の太刀なんて大道芸じゃ、何枚におろされるか。
敵を知り己を知るためには、まず敵を知ろう。
ということで、レイダとの待ち合わせ場所。草原入り口へ向かう。
「シガミー♪」
ちいせえ花のついた雑草を、両手につかんで駆けよってくる――子供か。
おれぁ、いま子供だから……二つにならずにすんだんだな。
肩のあたりが凍りついたみてえに、鈍る。
レイダが差しだす雑草をつかみ損ねる――――ばらばららら。
「シガミー……どうかしたの?」
§
「リカルルさまを――――怒らせたぁー!?」
草原に正座させられる、おれと迅雷。
迅雷は曲がらねえから、草のうえに横だおしだ。
「えっとな、(なんって言やいいんだ……そうだ!)リオレイニアがおれたちのパーティーに居たら、百人力だと思ったんだよ!」
「リオレイニアさんの引きぬき!? ばっか! シガミーはほんとバカ!」
やたらとなげえ杖で、びしばしひっぱたかれた。
「たしかに、いてっ、お付きの仕事をやめて、やめろ、怪我すんだろうが、おれたちのパーティーに入るってのは、あぶねっ、おおごとかも知んねえけど――いいかげんにしろ!」
おれは魔法の杖を、がしりとつかんだ。
「あのひとは、お付きもやってるけど、リカルルさまのS級冒険者パーティー『聖剣切りの閃光』の一員でもあるのっ!」
「(――――そりゃ、やべえ。ぜんぜんべつの話になる。前世なら切腹物だ!)」
杖を放したレイダが、かがみ込み、迅雷をひっつかんで投げつけてきた!
おれにぶちあたる、すんでのところで迅雷が――ウゥゥン♪
ピタリと宙に浮く。
「けど白いのは、そんなこと一言もいってなかったぜ!?」
「もうっ、『聖剣切りの閃光』は大国の一個師団にも匹敵するって言われてるの!」
「なるホど、ソレだけの戦力が、みずから正体ヲ明かして回るコとは普通ありませンね」
「そーいうこと! この町の人なら、みんな知ってることだけどね!」
§
おれと迅雷は草原のまんなかで、この町のいろんな話を聞かされた……正座で。
迅雷が、女神像から知った話も含まれてたが、はじめて聞くものも多かった。
ガムラン町に子供が居ねえのは、三年前に魔物が氾濫したときに、隣町へ避難させたかららしい。
てめえの食いぶちで手一杯で、こどもがいねえのは何でかなんて、まじめに考えたこともなかった。
〝雷がしょっちゅう落ちる物騒な町だから〟って、かんたんに考えてた。
あふれた魔物は、二年もの歳月をかけて討伐。
残党も、その住み処をとおくまで押しもどされることになった。
けど隣町からガムラン町までは、とても距離があるため、いまだ戻ってくる子供はいない。
例外はおれとレイダ。
おれぁ、ちかくの岩場に湧いたし、レイダはギルド長に就任した父親についてきた。
そして、その規模の大戦にもかかわらず、討伐に参加した者に、死者は出なかったらしい。
なんでかは聞かなくてもわかる。
敵軍の総大将である魔王って生きもんを、狐耳が――ぶった切ったからだ。
三年前ならいざ知らず、いまとなっては深刻なはなしは、さほどねえ。
「シガミー、レイダさま。こちらにいらっしゃったのですね。お探ししてしまいましたよ、うふふ♪」
深刻なはなし筆頭、リオレイニアが大きな籠を手に姿をあらわした。
切腹/腹を切る自決法。
一個師団/師団ひとつ分。独立した陸軍部隊の最大単位。一万から二万人程度で構成。
魔王/魔物の親玉。仏教の修行や、良い行いを妨げる欲の化身。




