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494/743

494:ネネルド村奇譚、浮力改竄と双月

 チャキンッ――――仕込(しこ)錫杖(がたな)(おさ)め、ガチリと鍵を掛け(とじ)る。

 (みずうみ)裂け(さけ)岩礁(がんしょう)があらわになった。

 巨木(きょぼく)の根が、もっと巨大(きょだい)蛸足(たこあし)のように(よこ)たわっている。

 蛸壺(たこつぼ)底まで落ちていく(ひゅるるるるるっ)――ごっわわわわわぁぁぁぁん!


 よし。(みずうみ)かち割ってやった(・・・・・・・・)ぜ!

 神域(しんいき)(かわ)でやったときは、おにぎりが投げ返した(・・・・・)錫杖(しゃくじょう)を――

 二の型(・・・)で真っ(こう)から、撃ち(かえ)した……水中(すいちゅう)で。

 今回(こんかい)普通(ふつう)水面(すいめん)を斬り――滅した(・・・)だけだ。


 下手(へた)におにぎりに手伝(てつだ)わせると、被害(ひがい)が出そうだし――

 星神(ほしがみ)SP(スキルポイント)で、鬼族並(オーガな)みの膂力(りょりょく)を手に入れた(いま)(からだ)だ。

 それは一人(ひとり)でも、容易(たやす)かった。


 ずっざざざざざざぁぁぁぁっ――――両側(りょうがわ)(たき)のように落ち込んでいた水面(すいめん)(ほつ)れていく。

 やがてゆっくりと大量(たいりょう)(みず)が、どっぱぁぁんと(なだ)れ込んだ。


「あわわわっ!?」

 蛸之助(たこのすけ)から(かえ)してもらった丸盆(まるぼん)がすっぽ抜けて、足場(あしば)をなくした――どぽぉぉん♪

 おれは今日何度目(きょうなんどめ)かわからないが、(みずうみ)へ落ちる。


「ごぼがへっ――すっ、吸い込まれちまわぁっ!」

 (およ)げるスキルがあっても、この(いきお)いには負けちまいそうだ。

 おれは必死(ひっし)丸盆(まるぼん)へ飛びつき、しがみ付いた。


 とおくから――――トンテンカンコンテテカカココン!

 木を(たた)くような(おと)が、(ちか)づいてくる。

 それは――「桟橋(さんばし)――がばごへ!?」


 工房長(ノヴァド)と、ネネルド(むら)(わか)(しゅう)と、おにぎりが――

 (ある)(はや)さで桟橋(さんばし)を、ぐーんと延ばして来てやがる。

 湖中心(みずうみちゅうしん)巨木(きょぼく)から湖畔(きし)中間(あいだ)あたりまで、(ある)いて行けるようになった。


「みゃにゃぎゃぁー()

 桟橋(さんばし)先端(さき)(かが)みこみ、すっと黄緑色(きみどりいろ)の手を差しだす猫の魔物(シシガニャン)

 なんだぜ、おにぎりのくせに(たの)もしいな。


 その肉球(ぷにぷに)がついた、手をつかむ――するん。

 引っ張り上げてくれるのかと(おも)いきや――するぅん。

 おにぎりはおれが引く手に引かれ、(まった)抵抗(ていこう)なしに湖面(こっち)へ落ちてきた。

 ぽちゃん♪

 シシガニャン(ども)夏毛(なつげ)は死ぬほど(みず)(はじ)くから、(しず)めようったって(しず)みゃぁしないが。


「にゃんみゃやぁー()

 なんだその、「おにぎりに、(まか)せるんだもの♪」みたいな(つら)

 水面(すいめん)に四つん這いになった、猫の魔物(おにぎり)が――(なが)されていく。

 へっぴり(ごし)のまま、クルクルと(まわ)るさまは――とても直視出来(ちょくしでき)ん。


「あはははっはっ――――きゃぁっ♪」

 あんな面白(おもしろ)姿(すがた)白眼鏡(かのじょ)には見せられないと(おも)ったら――

 すでに見られてた。

 (からだ)をくの字に折り曲げた勢いで(・・・・・・・・)――ざぶん、本日二度目(ほんじつにどめ)入水(にゅうすい)

 手に(おお)きな柔布(タオル)(かか)えていたから、おれを(たす)けに来てくれたんだろう。


「ひっひひひひひひひひひぃぃん?」

 ひっくり(かえ)った子馬(こうま)まで、(なが)れて来やがった。

「ぷはははっ――!?」

 もう(わら)うしかねぇ。

 こうして不意(ふい)を突かれりゃ、坊主(おれ)ですら我慢(がまん)できん。


「みゃにゃぎゃあー()

 ぽきゅむんと、(しり)にぶつかった子馬(こうま)を見つめ(かえ)猫の魔物(おにぎり)

 蛸塩(たこしお)関係(かんけい)(もと)から(しず)まねぇ夏毛ども(やつら)が、ますます水面(すいめん)を跳ねる。


「あはははははっ――――(から)っ!? (しお)(から)っ――――けっほこほん!」

 まえに聞いたんだが彼女(リオ)笑い上戸(あれ)は、(はた)から見るほどには(たの)しくなくて――兎に(かく)、つらいらしい。

 (くる)しいやら(つか)れるやら、長引(ながび)けば(かた)がつって(もど)らなくなる(うえ)に、筋肉痛(きんにくつう)になるやらでな。

 そういう種類(なまえ)の、地獄(じごく)なんじゃなかろうか。


「しょっぱいっ! あわわぶくぶくぶく……でもなんかぁ、お出汁(だし)が出てる!? わぷっぶくぶく!」

 出汁(だし)とか言ってる場合(ばあい)かっ!

 女神御神体(かみさん)まで、落っこちたぜ!


 バッシャン――どぼぉん♪

 バッシャン――どぼぉん♪

 落ちた(いきおい)いで、浮き(しず)みを繰りかえしてやがる。

 かろうじて(みず)に浮いてくれたのは、(たす)かった。


 おれは丸盆(まるぼん)(かか)えて、桟橋(さんばし)から手を(はな)した。

 五百乃大角(いおのはら)をひっつかみ、水底(みなそこ)から立ちのぼる泡(・・・・・・)を避ける。

 桟橋(さんばし)がぶくぶくと、(あわ)に飲まれて落ちていく――「(もど)れぇぇぇぇぇぇっ!」

 工房長(ノヴァド)怒声(どせい)巨木(きょぼく)へ引き(かえ)村人(むらびと)たち。

 ちっ、これじゃおれも桟橋(さんばし)(もど)れん!


 ぼぅごぅぉぉぉわわわぁん――――金属質(きんぞくしつ)水音(みずおと)

 突き上げられた蛸壺(たこつぼ)が、水面を突き破る(・・・・・・・)

 巨大(きょだい)水柱(みずばしら)は――――ドゴッパァァァァァァァン♪

 また(おお)きく、湖面(こめん)(けず)り取った!


 おれと御神体(いおのはら)

 蛸壺(たこつぼ)に張りついて、作業中(さぎょうちゅう)だった迅雷(ジンライ)

 白眼鏡(リオレイニア)におにぎりと、あと(てん)ぷら(ごう)

 湖面(こめん)に浮いてた(やつ)らが全員(ぜんいん)上空(じょうくう)へ吹っ飛ばされた。


 あぶねぇっ、(つぼ)直撃(ちょくげき)を喰らってたら――

 桟橋(さんばし)みたいに細切れに(・・・・)、されてた(ところ)だぜ!


迅雷(ジンライ)、おにぎりっ! あと(てん)ぷら(ごう)もっ、死んでもリオを(まも)れぇっ!」

 号令一発(ごうれいいっぱつ)一瞬見(いっしゅんみ)えた給仕服(きゅうじふく)

 (ちか)くに(ねこ)(うま)もいたから、どうにか無事(ぶじ)でいてくれっ!


 ヴッ――――ブワッサバササササッ!

 迅雷(ジンライ)式隠(しきかく)(みの)で、(かぜ)をつかむ!


 気づけば(あた)りはいつのまにか、月明(つきあ)かりに照らされていて――

 フッ――その(ひかり)(さえぎ)る、巨大(きょだい)(かげ)

 肩越(かたご)しに見上(みあ)げれば、蛸壺(それ)(すさ)まじい(いきお)いで(うえ)へすっ飛んでいく!

 その(たか)さは、轟雷(おれ)巨木(きょぼく)に突き刺さった(ところ)(とど)きそうなほどで。


 おれは桟橋の根元(みんなのところ)へ、ブワサと降りたった。

 (みんな)見上(みあ)げている。

 おれも振り(かえ)り、月夜(つきよ)に浮かぶ丸い影(それ)を見あげた。


 ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ――いつまでも落ちてこねぇ!


 強化服10号改(シシガニャン)を着たおれが、瀕死(ひんし)重傷(じゅうしょう)を負わされた(ほど)(たか)さ。

 落ちた衝撃(しょうげき)で、「割れちまうんじゃね?」と(おも)ったが――


 クワララララララララララァァァァァァァァッン♪

 まだ波打(なみう)湖面(こめん)に落ちる蛸壺(たこつぼ)

 飛び上がったときと(くら)べれば、衝撃(しょうげき)(ちい)さい。

 それでも(みみ)(つんざ)衝撃(しょうげき)に、全員(ぜんいん)(たお)れた。


無事(ぶジ)完成(かんせイ)しまシ()

 ヴォォォォオォォォゥゥゥン♪

 (うな)金属棒(ジンライ)


「まるで無事(ぶじ)じゃねーだろがぁっ!」

 (なみ)(かぜ)衝撃音(しょうげきおん)で、おれたち全員(ぜんいん)ずたぼろだ。


 ひっくり(かえ)り、(しず)んでいく(つぼ)

「ぷっぎゅりゅりゅりゅっ――♪」

 迅雷(ジンライ)指示通(しじどお)りに避難(ひなん)していた蛸之助(たこのすけ)が、(つぼ)を追って(みずうみ)(しず)んでいく。


「シガミー、ご無事(ぶじ)ですか?」

 (すず)やかな(こえ)が、聞こえた。


「はぁはぁ――リオは? 無事(ぶじ)だな」

 紅月(ウェレ)蒼月(ルィノ)

 双月(そうげつ)(むらさき)がかった月影(つきかげ)を背に、舞い降りる(・・・・・)


 ヴォォォォォォッゥゥゥン♪

 丸盆(まるぼん)(くら)べたら、10倍近(ばいちか)(おお)きさ。

 その光景(こうけい)(かた)(ぐさ)となり――

 やがて詠唱魔法具(プロマイド)新作図案(しんさくずあん)採用(さいよう)される。


「にゃみゃぎゃぁー()

「ひひひひひひひひぃぃぃぃんっ?」

 おまえらぁ、「(まも)れ」って言っただろうが!

 (ぎゃく)(まも)られてどうする。


 パッシャァァァァンッ――――♪

 湖面(こめん)着水(ちゃくすい)したのは、(まる)(ふた)

 その(うえ)颯爽(さっそう)と立つのは、やたらと(おお)きな子馬(こうま)

 それに(また)がる、ガムラン随一(ずいいち)の((かく)れ)モテ(おんな)は――

 猫の魔物(おにぎり)を、まるでお(ひめ)さまのように抱きかかえ――

 白金(はっきん)(ぼう)をクルンと振るった。


 ぼぼぼぼぼっふぁふぁっふぁふぁふぁふぁふぁふぁっさぁぁぁぁっ――――♪

 びしょ濡れだったあたり一面(いちめん)が、一瞬(いっしゅん)(かわ)く。


塩水(しおみず)(うえ)じゃ、魔法杖(まほうつえ)使(つか)えねぇんじゃなかったか?」

 (はな)まで舞ってやがるし。

 けど、ふぁぁーふ♪

 ひとまず無事(ぶじ)で良かっ――――すやぁ♪


「ちょっシガミー、何寝(なにね)てんのっ!? タコパ、タコパの開催(かいさい)()――」

 うるせぇ。おれぁ(つか)れ――すやぁ♪

 すややぁ――すややややぁ♪

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