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492:ネネルド村奇譚、蛸壺をつくろう

 シュルルルルルッ――――桟橋(さんばし)に置いといた、丸盆(それ)を投げた。

 まっすぐ飛ばなくて逸れちまうソレを、蛸之助(たこのすけ)器用(きよう)につかんだ。


 おぉー、がははははっ♪

 わわーい、がややーい♪

 受けてやがるぜ、まったく。

 (さけ)(せき)での大道芸(だしもの)としちゃ、おれの居合(いあ)いよか上出来(じょうでき)だ。


 大蛸(おおだこ)はレイダ材製(ざいせい)丸盆(まるぼん)相当気(そうとうき)に入ったらしく、(あたま)(うえ)顔の前(めのあいだ)に押し当て、じっとしている。


「ふははっ♪ そりゃ(なん)真似(まね)だぜ? 生まれてこの(かた)(たこ)為人(ひととなり)……生き方(・・・)には触れたことがねぇから、わからんぞ」

 つい(わら)っちまった。


 王族(おうぞく)学者方(がくしゃかた)もネネルド村民(そんみん)も、おれたちを遠巻(とおま)きに(なが)めては――

 「あーでもない、こーでもない」と、好きなことを(なら)べ立てやがる。

 面白(おもしろ)い出し(もの)というだけでなく、(たこ)為人(ひととなり)……為蛸(たことなり)はそれを見ているおれたちの、為人(ひととなり)をあばく(かがみ)だった。


興味深(きょうみぶか)いニャァ♪」

「はい。(いろ)識別(しきべつ)し、選り(ごの)みをしています」

「じゅるりっ()


(わたし)も投げて(あそ)びたい!」

(たし)かに、投擲武器(とうてきぶき)として使(つか)えるのでは?」

「じゅるるるりっ()


「あそこまで(おお)きいと食べられそうもないですじゃ」

「そうね(まる)くないしね」

「じゅるりっ、じゅるるるるりん()

 などと(おおむ)友好的(ゆうこうてき)――御神体(ごしんたい)さまは、(よだれ)をふけやぁ。


 とにかく(はなし)邪魔(じゃま)を、されないならソレで良いぜ。


(たこ)のお(あじ)……じゃなくって生態(せいたい)? えーっとねぇー昔見(むかしみ)たぁ科学番組(かがくばんぐみ)にーぃ、〝驚異(きょうい)(たこ)ニズムSP(スペシャル)〟ってのがあってねぇ……ごそがそ()

 ごそがそし出す、五百乃大角(いおのはら)


「パパパパッパパパパッパパパパパァァ――――♪」

 なんだこの御囃子(おはやし)はっ!?

 湖面上(こめんじょう)から聞こえた。

 一斉(いっせい)に振りかえると――


 ぼぉぉぉぉぉぉぉっ――――ごぉぉうわぁっ♪

 突如(とつぜん)あらわれたのは、巨大(きょだい)画面(モニタ)


「アナタの世界(せかい)のよりどころっ――――♪」

 でた、五百乃大角(いおのはら)特大(とくだい))が。

 阿鼻叫喚(あびきょうかん)湖上(こじょう)

 おれも(ふく)めた全員(ぜんいん)蛸之助(たこのすけ)(ふく)む)が(こし)を抜かした。


「いきなり飛び出すんじゃねぇやいっ!」

 フェスタで慣れたおれやガムラン(ちょう)連中(れんちゅう)ですら、ひっくり(かえ)っちまってる。

 村人(むらびと)はおろか、(てん)ぷら(ごう)まで逃げまどい――ぽっきゅらぽぽきゅららららっ♪

 大蛸(おおだこ)にいたっては「ぶぶぎっ――ぶくぷしゅっ!!」

 血ぃ!? (くろ)い血を吐いちまったじゃねぇーか、かわいそうだろうが!


 ふぉん♪

『ヒント>蛸墨は敵から逃げる際に使用される煙幕です。その味は美味とされています』

 そうわのぅ?

 ならいいけど、(あじ)情報(じょうほう)は要らん。


「美の女神(めがみ)ちゃんPRESENTS(プレゼンツ)。2218(ねん)小里原(おりはる)アビオニクス綱疋(つなひき)出張所(しゅっちょうじょ)映像分室(えいぞうぶんしつ)作成(さくせい)の〝ナナダモン発見(はっけん)!? 驚異(きょうい)(たこ)ニズムSP(スペシャル)〟を放送(ほうそう)しまぁす。みんな見てぇーねぇー()

 どうやら画面(モニタ)両端(りょうはし)空中(ちゅう)に浮かんだ(ふた)つの『(ΘΔΘ)(うかぶたま)』から絵と(おと)が出ているらしい。


 わいわいわいわいわいわいわいわいわわわい。

 がやがやがやがやがやがやがやがやがややや。

 (みんな)(つめ)てぇ飲み物(カルル)菓子(アイスクリーム)を食いながら、その蛸番組(たこばんぐみ)とやらを鑑賞(かんしょう)

 特大(とくだい)画面(モニタ)後ろから(・・・・)蛸之助(たこのすけ)も見てやがる。


 番組()(なか)(たこ)が〝(ちい)さな(くち)(つぼ)(おお)きな(からだ)(もぐ)り込ませた〟(ところ)で――

「ぶぎぎゅぎゅるる」と蛸足(あし)をくねらせた。


「ひょっとしたらぁ――ずずずずぅー、ぷはぁ♪ 蛸壺(たこつぼ)……つまり〝お(うち)が欲しい〟のかしらぁねぇぇー?」

 (たぬき)無関係(むかんけい)だとわかってからは、奥方さま(ルリーロ)(ほこ)(おさ)めてくれている。日の(もと)では(うみ)(ちか)江戸(えど)で良い暮らしをしていたらしいから、おれよか(たこ)について(くわ)しい。


(つぼ)なぁ?」

 おれはあの酒瓶(・・・・)と、似たかんじの(つぼ)を取りだした。

 (なか)(から)だし、あの酒瓶(・・・・)じゃねぇから、(さけ)醤油(しょうゆ)も出てこねぇが。

 ぶぉん――――ぽちゃんっ♪

 湖面(こめん)(ほう)り投げ、浮かべてみた。


 (たこ)はそれをひょいと(うば)い――(なが)(まわ)し、やがて興味(きょうみ)を無くし、湖面(こめん)に捨てた。


「どうやらルリーロさまが(おっしゃ)られたように、家代わり(・・・・)にするために――ひっく、巨大(きょだい)(つぼ)が欲しいのだと(おも)われるニャァ?」

 さすがは学者方(がくしゃがた)元締(もとじ)めだぜ。

 いま奥方(おくがた)さまが言ったのを、そのまま(かえ)しやがった。

 ひょっとして……酔ってるのか?


「そぉうわねぇー。古今東西(ここんとうざい)(たこ)って言ったら蛸壺(たこつぼ)よねぇー♪」

 じゅるるりっ♪

 やめろ、お(まえ)さまもか。

 それと(いま)すぐにでも(かじ)りつきそうな、その(つら)やめろ。


要望(はなし)をまとめると、「レイダ材製(ざいせい)大壺(おおつぼ)が欲しい」ということでよろしいのでしょうか?」

 どうやらリオレイニアの言うとおりらしい。

 ふぉん♪

『>素焼きの壺では構造上、巨大な物は割れてしまいます』

 そう言うことだな。


「ぷっぎゅ――?」

 さっき湖面(こめん)に捨てた丸壺(まるつぼ)に、(あし)だか(うで)を突っ込もうとして――

 ぱりん♪

 そんな(ふえ)ぇのを突っ込んだら、そりゃぁ割れらぁ。


「わかったわかった。お(まえ)さんが入れるくらいのを、寄こせっていうんだな?」

 ふぅ、(ねむ)くて(つら)くて(くる)しいってのによぉ。


   §


 五百乃大角(いおのはら)愛用(あいよう)一番(いちばん)でかい大鍋(おおなべ)

 そのさらに(ばい)くらいの、大男(エクレア)でさえ10人以上(いじょう)は入れるだろう巨大(きょだい)(つぼ)

 (つく)るのは簡単(かんたん)だ。


 目のまえに(ひろ)がるのは、見わたす(かぎ)りの巨木(きょぼく)(みき)

 絵で板(エディタ)使(つか)い――――ゴギャガガガガゴゴォン♪

 巨大(きょだい)木彫りの壺(・・・・・)が、完成(かんせい)した。

 黒筆(スタイラス)一筆(いっぴつ)、『猪蟹屋』と(めい)を入れてやった。


「ひのたまひのたまひのたま!」

 それをリオレイニアに焼いてもらい――

「ええええええええーい!」

 レイダにレイダ(ざい)に、加工し(ぬりかえ)てもらい完成(かんせい)


 酒瓶(さかびん)そのままの(かたち)じゃ、(いえ)にはならんだろうということで――

 香味庵(こうみあん)女将(おかみ)漬物(つけもの)を漬け込んでた、(すこ)しだけ(くち)(ひろ)くて(ふた)が付いた(かめ)のような(かたち)(つく)り替えた。

 ほぼ(まる)くて蒼くて――宝石(ほうせき)のようにも見える。


「なんだか、この世の(もの)とは(おも)えねぇ、(たたず)まいだぜ?」

 ぬぅううおっりゃぁ!

 見た目の重厚(じゅうこう)さよりも、それは(かる)く――どっばぁぁぁぁぁぁぁんっ!

 おれ一人(ひとり)(ちから)でも、(なん)なく湖上(こじょう)へ押し出せた。


 浮かべてやると――「ぷぷぎゅりゅぷっ♪」

 大喜(おおよろこ)びで(からだ)(なか)へ、押しこんでいく大蛸(おおだこ)――「ぷぎゅ?」

 あー、(ひろ)げはしたんだが、まだ(くち)がすこし(せま)かったか?

 いくらお(まえ)さんが(やわ)らかくても、その(せま)(くち)からは(はい)れるもんじゃ――はいった。


 うおおおおををををおおおををを?

 がはははっはあははっ♪

 さっき番組(モニタ)で見た光景(こうけい)が、目のまえで(おこな)われ――

 やっぱり受けていやがる。


「じゃぁ、あとは(ふた)か」

 おれが手にした(それ)にリオレイニアが、生活魔法(せいかつまほう)(とな)えようとしたら――

「コココォォン――――!!」

 奥方(おくがた)さまが、木彫(きぼ)りの(ふた)蹴飛(けと)ばした。

 あれ? やっぱり大蛸(たこのすけ)との和解(わかい)には、反対(はんたい)なのか?

 と(おも)ったが(ちが)うようで、ぼごごっごわぁぁぁぁっ!


「オン キリカク ソワカ!」

 ぼごごぉぉん♪

 くるくると舞い上がった蛸壺(たこつぼ)(ふた)を、こんがりと焼いてくれる。

 村人(むら)たちの手前(てまえ)(くち)から吐くのは止めたらしい。


「オン キリカク ソワカ!」

 ぼごごぼごごぉぉん♪

 そう、狐火(きつべび)(もの)を燃やそうと(おも)えば燃やせる。

 そうでなければ、いくら燃えない(ほのお)細く重ねた(・・・・・)ところで――


「オン キリカク ソワカ!」

 ぼっごごごごごおごごっごぼごごごごぉぉぉぉん♪

 大岩(おおいわ)(あな)穿てない(・・・・)って(はなし)だが、彼女(ルリーロ)(むす)んでいるのは――


「ぜぇーはぁー、ふぅーへぇぇー!」

 最弱(さいじゃく)(ほむら)(いん)加減(かげん)をするのは、苦手(にがて)らしいぜ。

「「奥方(おくがた)さまっ!?」」

 元侍女長(リオレイニア)新米メイド(ただのタター)が、突っ伏した辺境伯名代(おくがたさま)へ駆けよる。


「「「「「「「「「「「「せぇえぇーのぉーおぉー♪」」」」」」」」」」」」

 出来(できた)(ふた)(むら)がる子供(こども)たち。

 どうやらおれが最初(さいしょ)に投げた丸盆(まるぼん)のように、投げて飛ばしたいらしいが――

 十数人(じゅうすうにん)子供(こども)が、全員(みんな)でつかんだ(おお)きな(つぼ)

 そんな(もの)が、まっすぐに飛んで行くわけもなく。


 どたり、ばたり、どたたたたたたたたたたっ!

 まずレイダが(ころ)び、ビビビーが(ころ)び、(むら)子供(こども)たちが次々(つぎつぎ)とすっ(ころ)んでいき――

 (ふた)桟橋(さんばし)(うえ)を、ゴロゴロゴロロと(すす)んでいく。


 ざぶん、ぱしゃしゃしゃぱちゃっ――――!

 水面(すいめん)へ飛び込み(しず)んでは跳ねる、巨大(きょだい)(ふた)

 ぷぎゅりゅりゅっ――ぱしん♪

 その取っ手をつかんだのは、(つぼ)(おさ)まり湖面(こめん)(ただ)っていた大蛸(おおだこ)


 (つぼ)からしたら(ちい)さな、巨大(きょだい)(ふた)が――

 クワララァァン、カッチャリィン♪

 と乗せられたっ!


「「「「「「「「「「「「やったぁ、出来(でき)たぁっ♪」」」」」」」」」」」」

 子供(こども)たちが飛び跳ねた。


 真っ(さお)巨大(きょだい)(つぼ)が、湖面(こめん)(ただよ)う。

 その景色(けしき)はやっぱり、この世の(もの)とは(おも)えなかった。

小里原アビオニクス/謎の人工冬眠装置(ハイバネーションデバイス)を開発した謎の研究機関。

ナナダモン/大蛸のUMAの正体。自走し潜水しアイソレーションタンクにもなり、人ひとり分のプランター(食用プラント)も完備。 

※参照URL https://ncode.syosetu.com/n3069hs/

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