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490:ネネルド村奇譚、聖剣青首大根

「いや、まて? このマンドラゴーラはどっから持ってきたぁ?」

「なんかね、よいしょっとぉ()

 ゴガッチャリンッ♪

 (おお)きな革袋(かわぶくろ)には、見覚(みおぼ)えがある。


「これと一緒(いっしょ)に、おにぎりの(なか)(はい)ってたのよ()

 (ねん)のため、ひっくり(かえ)してみれば――『オルコトリア』。

 ガムラン町冒険者(ちょうぼうけんしゃ)ギルト支部名物(しぶめいぶつ)受付嬢(うけつけじょう)の、いつも支部(しぶ)(こわ)してる(ほう)名前(なまえ)が書いてあった。


「やっぱりかっ、取って置きを(・・・・・・)開けやがったなぁ!?」

 くそう。おにぎりの内側(なか)仕舞(しま)っとけば、バレねぇと(おも)ったのに。

 おれや迅雷(ジンライ)より、収納魔法具(しゅうのうまほうぐ)装備用(そうびよう)小型空間(こがたくうかん)ストレージ)や収納魔法(インベントリ)精通(せいつう)した(やつ)だ。

 検索(けんさく)を掛けるか、(じか)(おにぎり)参照(さんしょう)されたら――

 こうして見つかっちまう。

 取って置きを仕舞(しま)っとける、鍵付きの(・・・・)収納魔法具(しゅうのうまほうぐ)(つく)らねぇと。


「くすくす♪ 大根(だいこん)なら、御座(ござ)いますよ? 神域(うち)で採れた、ご立派(りっぱ)白いのが(・・・・)()

 どさどささ!

 それはたしかに立派(りっぱ)な、真っ(しろ)い。


随分(ずいぶん)まっすぐで(しろ)いな……まるで小太刀(こだち)みてぇだぜ」

 小太刀(かたな)と呼ぶには、ちいと(ふて)ぇが食いでが有りそうな(ところ)は――

 (じつ)五百乃大角(おれたち)()きの、野菜(やさい)だった。


「あらぁん、立派(りっぱ)青首大根(あおくびだいこん)じゃないのさっ、ウケケケケッ()

 どっささどさどさどっさっさ!

「まだまだ沢山有(たくさんあ)りますよぉ、くーすくす()

 うまそうな野菜(やさい)は、どんどん積み上がっていく。


「ふーん、こんなに有るんならさぁ、その聖剣(せいけん)でぇ――あの邪悪(じゃあく)でおいしそぉなぁ邪神(じゃしん)(たお)して来てよ()

 積み上がった根菜(だいこん)を、見あげる根菜(いおのはら)


青首大根(あおくびだいこん)だぁ? それに聖剣(せいけん)……邪神(じゃしん)?」

 聖剣(せいけん)って言ったら、ニゲルだ。

 たしかに彼奴(きゃつ)がいりゃ(たこ)なんざ、どれだけ(おお)きかろうが、(しお)を吐かれようが――

 水面(すいめん)数歩(すうほ)で駆け抜け、下ごしらえ(・・・・・)しちまうだろうぜ。


 それと邪神(じゃしん)ってのは、惡神(わるがみ)のことか?

 ウチの五百乃大角(おおぐらい)星神(しゅせんど)も、(たち)は良くねぇが――

 (はな)せば、わかる神さん(やつ)だ。

 (はなし)(つう)じねぇのは、やっぱり変異種(ヴァリアント)とか〝ミノタウ(おうがり)〟だな。

 アイツらは惡神(わるがみ)と言っても、良いだろう。


「うふふふっ、くすくすくす、クツクツクツクツ――――コォON(おぉん)!」

 ぎちり――――――――シュッボゥ!

 ぼっごごごごごごおぉぉぉぉうわぁぁぁ――――キュキュゥゥンッ♪

 なんで奥方さま(ルリーロ)が、真言唱(マントラとな)えてんだぁ!?

 そう(おも)ったときには(すで)(あた)りが(かがや)き、一筋(ひとすじ)(ひかり)流れていた(・・・・・)

 いきなり狐火(きつねび)仙花(せんか)を、(はな)(やつ)がいるかぁ!


 ぶぎゅりゅりゅぅ――――ぱかん、ヴァヂヴァヂバチヴァヂィッ――――!!

 大蛸(おおだこ)水面(すいめん)に浮いていた丸盆(トレー)(おれが(わす)れてきた、もう一枚(いちまい))を(うで)(から)め取り――

 大岩(おおいわ)通す(・・)(ひかり)(すじ)を、(ふせ)ぎやがった!

 キュドドゴゴゴゴゴォォォンッ!!!

 (はじ)かれた光線(ひかり)が、とおくの湖畔(こはん)(かたち)を変える。


「うへぇ。(はなし)(つう)じねぇ(やつ)が、もう一人居(ひとりい)たっけ」

「なんでっしゃろ? シガミーはん、(なに)(おっしゃ)いましたかえ?」

 なんでぶち切れてやがる(・・・・・・・・)んだぜ、奥方(おくがた)さまわよぉ?


 ふぉん♪

『>シガミー。ルリーロが跋扈していた江戸時代において、狢と呼ばれた大狸の怪異が大蛸に化けたという記録があります』

 んだとぉ? 妖狐(かのじょ)御前(まえ)で言っちゃならねぇ禁句(ことば)(ひと)つが、〝(たぬき)〟だ。

 ちなみに、もう(ひと)つは〝天狗(てんぐ)〟。


「いーや、(なん)でもねぇ! おれもぉこの大根(だいこん)おぉー、ぶち当ててやろうかなぁ!」

 おれの(ちい)せぇ手には(ふと)すぎて持ち(づれ)えから、強化服(シシガニャン)を着ることにする。

 ヴッ――ぽこみゅむ♪

「みゃにゃぎゃぁー()

 強化服十号改(シシガニャン)を出したら、子供(こども)たちを引きつれた強化服一号(おにぎり)が寄ってきた。


 ごそごそ、むぎゅぎゅ♪

 おれは強化服(10ごうかい)(はい)りこみ、背を向けた。

「閉めてくれ」と猫の魔物(おにぎり)(たの)む。

 ちなみ轟雷(ごうらい)(すわ)らせて、(すみ)に置きっぱなしだ。

 大根(やさい)を持つには(おお)きすぎるし、学者連中(がくしゃれんちゅう)(むら)がってて――

 どうせ、すぐは使(つか)えない。


「にゃみゃぎゃぁーみゃー!」

 (わる)(おも)うな成仏(じょうぶつ)しろや。

 うまそうに生まれてきたことを、その姿(すがた)五百乃大角(いおのはら)に見られたことを――

 (うん)がなかったと、(あきら)めてくれ。


<<<<<(ポポポポポー)(ポッ)>>>>>(ポポポポポー)』――『(FIRE!)』!

 蛸頭(たこあたま)(とら)え、水上(すいじょう)に突き出た蛸足(たこあし)(すべ)てを(とら)えた。


 ドシュドシュドシュドシュドシュドシュッ!

 (かか)えた大根(だいこん)数珠(じゅず)つなぎのように、ひと(いき)(ほう)り投げた!

 (やま)なりに飛んで行く、青首大根とやら(しろいこんさい)


 ピピピピピィ――――『(しるし)』に変化(かわり)はない。

 (みず)(もぐ)られたら(おわ)りだが、当たらんでも(かま)わん。

 (みょう)にやる気の奥方(おくがた)さまの手前(てまえ)(はたら)いたってことが大事(だいじ)だぜ。


 ふぉん♪

『>着弾します』

 ドゴドゴドゴゴッゴガガッ――――!!!!!!

 突き刺さる大根(だいこん)

 ぼよよぉんと揺れる、蛸頭(たこあたま)

「まるで、効いてませんね?」

 チチチィーと、とおくを見た白眼鏡(リオレイニア)が、結果(けっか)を知らせてきた。


 轟雷(ごうらい)を持ち出してまで、(はたら)気力(きりょく)はもう無い。

 茅の姫(ほしがみ)(ざつ)(あつか)われた節々(ふしぶし)が、(だる)くてなぁ。

 筋肉痛(きんにくつう)蘇生薬(エリクサー)は、効かねぇし。


おい蛸助(みゃにゃぁ)! もう日も暮れるから(みゃんみゃやーんにゃ)今日の所は(みゃにゃぁー)引き分けにしねぇかぁ(みゃにゃにゃやーにゃ)!?」

 出来(でき)ることなら、もう(かえ)って寝たい。

 その一心(いっしん)で、(こえ)を張ってみた。


「ぷぎゅりゅりゅりゅるぅ?」

 あー? まさかの返事(へんじ)(かえ)ってきたぞ?

 気のせいだろうが――「おまえ話が分かるのか(みゃにゃにゃぎゃぁ)――?」

「ぶぎゅりゅりゅるるる? ぶぎゅりゅ!」

 なーんか言ってるようにも聞こえる。


(おドろ)くべキことですが、演算単位(えんざんタんい)匹敵(ひっテき)すル知性(ちせイ)痕跡(こんせキ)検出(けんシゅつ)しまシ()

 ヴヴッヴッ――ルガ(ばち)(うご)きで(なに)かを推しはかった迅雷(ジンライ)が、そう告げてきた。

 おにぎりと同等(どうとう)(すく)なくとも(てん)ぷら(ごう)を越える人格(ひととなり)(ゆう)しているらしいぜ。

 あの子馬並(こうまな)みの(こころ)を持つと言うなら、(ほうむ)り去るのも気が引けなくもねぇ……気がするような?


「みゃにゃぎやぁっ――――()

 ドシュドシュドシュドシュドシュドシュッ!

 一列(いちれつ)(つら)なり飛んで行く、大根(だいこん)の矢。

 見ればおにぎりが(のこ)りの(しろ)大根(だいこん)を、(つぎ)から(つぎ)へと天高(てんたか)くへ飛ばしていた。

 どんどん減っていく、まっすぐで(しろ)根菜(こんさい)


「お待ちなさい、おにぎり。(はなし)し合う余地(よち)が有るというのなら、(すこ)様子(ようす)を見ましょう()

 五百乃大角(いおのはら)意外(いがい)言葉(ことば)。その表情(ひょうじょう)は、いつになく真剣(しんけん)

 うまそうな獲物(えもの)をまえにした、(めがみ)言葉(ことば)とは(おも)えない。


「みゃにゃぎやぁっ――――()

 ドシュドシュドシュドシュドシュドシュッ!

 ドシュドシュドシュドシュドシュドシュッ!

 まっすぐで(しろ)根菜(こんさい)次々(つぎつぎ)と、彼の敵(おおだこ)へ吸い込まれ――

 (みずうみ)藻屑(もくず)と消えていく。

 大量(たいりょう)に有った大根(おやさい)が、のこり半分(はんぶん)を切ったとき――


「待てって言ってるでしょぉー! そのおいしそうなぁ、お大根(だいこん)おぉー、ぜーんぶ使(つか)っちゃうつもりっぃいいぃぃぃいいいぃぃっ!?()

 女神御神体(いおのはら)さまの(すさ)まじい剣幕(けんまく)に、(おそ)れを成したのか――

「みゃっ!?()

 強化服(きょうかふく)自律型一号(じりつがたいちごう)おにぎりが、その手を止めた。

青首大根/辛みが少ない大根。昭和後期に開発された、病気に強い品種。地上にせり上がった胚軸が日に当たり緑色になることから、その名が付けられた。

演算単位/量子的な特性をあらわす高濃度な演算リソースと、それを計る仮想単位。ひいては量子脳としての発露、人格を構成するにたり得る時間経過(経験)を内包していると判断するための指針のひとつ。

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