49:魔法使いの弟子(破戒僧)、おすしとSDKですしおすし
ぼわっ――!
おれは炎の魔法で鍋に火をかけた。
「(迅雷、白いのはどうして五百乃大角の腹ん中でふつうに動けるようになった?)」
『美の女神の食事を妨げることは出来ない』
これが、この来世で唯一の不文律だ。
わからねえなりに、一応わかるようにしとかねえと、あとが怖え。
女将の店では、五百乃大角に近よれるのは、めしを運んできたヤツだけだった。
「シガミーさま、コチラの葉は刻んで塩もみにすればよろしいですか?」
「おう、できたら味をみせてくれ。あと、〝さま〟はいらねー。おれもリオって呼んでるしな」
「はい、わかりました、シガミー♪」
トトトトッ、ストトトトン♪
あさ稽古のときの、から足みてえな拍子。
こいつは料理が、かなりできる。
偶然ここに居てくれなかったら、このせかいは終わってたかもしれねぇ。
§
もとから近くにいたやつぁ、押しのけられるか、ただじっとしてた。
迅雷に面を付けられるまでの、白いのみてえに。
五百乃大角を視たのは、おれ以外じゃリオがはじめてだ。
「それは、アタシが美の女神だからよ。美っていうのはどうしても視覚がメインの構成要素になるから、あの仮面を付けてれば、アタシの神格も遮蔽され、不文律も減衰されるっていうわけな~のさぁ――――ばちぃーん♪」
なんでぃ? 片目をとじて不気味にわらいやがって、目に虫でも入ったか?
「――あと1分で世界が消滅させます。いますぐ、ごはんをお出しなさぁいなぁ。遠慮はいらないわっよぉーん?」
どっかかどっかかどっかかどかどかぁん!
いま、「させます」って言ったよな!
家に、たまたまあった食えるものなんざ、辛みのある芋の葉と、酢と、ニゲルにもらって凍らしといた白身魚くれえしかなかった――――
「今日んとこは、コイツで我慢してくれ!」
どかり!
元僧侶と魔法と家事の天才がだした料理は――――緑色がかった芋団子に、辛みの薬味をのせ、酢でしめた切り身を乗っけたもんだ。
「米でもありゃあ、ちゃんとした寿司になったかもしれんが、ねえもんはねえ。これが気に入らねえなら、すなおに女将の店に行きやがれ!」
下ごしらえは、迅雷の〝汚れをおとすやつ〟で一発。
煮たり炊いたりと時間がかかるところは、お付き筆頭が生活魔法を駆使してくれた。
どうにかこうにか注文に間にあったのは、奇跡でしかねえ。
「やだもんねっ! 今日はシガミーハウスでごちそう食べるって決めたんだもんねっ、死んでもおなかいっぱい食べさせてもらうからねーだっ! いたあだぁきぃマァーウケケケケケケケッ、もぎゅもぎゅもぎゅぎゅぎゅーっ!」
ふらり――――白いのがよろめく。
どうやら、ここに至って、美の女神の実体を把握したようだった。
むりもねえぜ、ありゃ魔物だ。
美の魔物だ(上位権限により非公開です。)。
§
「なかなか、うめえんでやんの」
「おかわりも、つくれますよ。シガミーさ……シガミーの作り方をみていたので」
「じゃ、あたし、あと4個!」
寿司なんざ拳骨くれえの大きさだ。ひとつふたつで、腹一杯になるだろうが。いってえ何個食う気だぁ?
「はい、かしこまりました、イオノファラーさま。……シガミーはどうされますか?」
「……じゃ、もう二個くれ」
はい、少々お待ちくださいね♪
ちいせえ板場に音もなく駆けていく、給仕服。
のこされたおれたちの、目があう。
「ひょっほ、ヒガミー! もぐもぐ……ごくん。あんた、あの子、ぜえったいに逃がすんじゃないわよ?」
だれが僻みだ、だれが!
「なにいってやがる。リオは姫さん付きの筆頭だ、そうやすやすと――――」
「おだまりNASAぁ~い。なんっの心配もいらないないわよーん。だって、あたしのおいしいごはんのためなら、シガミーは神さまだって倒せる手はずになってますから(キリッ)!」
「おまえも神さんだろうが、物騒なことをいうんじゃねぇよ」
それと、姫さんお気に入りのリオレイニアと徒党を組むってこたぁ――――
この世界の脅威であるところの魔王を、ぶった切った姫さんとの――――
全面対決を――――意味しかねねえってこった。
そもそも、LV差がありすぎて、まだまだ徒党を組むのは荷が重いぜ。やろうとおもっても出きねえらしいしな。
「パーティーのLV制限……そんなの有ったっけ?」
迅雷が光る板を女神にみせた。
「じゃ、できるようになるまで、目をはなさないようにしておくことねぇ~。……世界が無事つづく……じゃなくって……おいしいごはんのためにぃ~!」
たちの悪い冗談だとぁ思うんだが――――どうにも安心できねえ。
§
「はぁー、おなかいっぱぁい♪ じゃ、あなたにも祝福を授けてあげる」
抱きよせた白いののあたまに、口をつける美の女神イオノファラー。
「おい迅雷、あれ大丈夫か! 余計なことして、リオの呪いがひどくなったりしねえだろうな!?」
「なぁーに? 外野のくせにうっさいわよ! あんた達にもイイものをあげるから、うまいことやんなさい。そして次回もあたしに、とびきりおいしいごはんを食べてせてちょうだぁい――――ばちぃーん♪」
また片目をとじて不気味にわらいやがった。
目に虫が入んなら、手ではらえよ!
カシンッ、シュヴォヴォヴォヴォヴォォッ――――
リオレイニアを放した女神が足の裏から煙を吐いて――――ドッゴガァァァァァァァン!!!
小屋の屋根を突き破って、どっか飛んでいきやがった!
「な、なんてぇ野郎だ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあっ――――!」
逃げるリオレイニア。
がらららっごかんがららっ!
また屋根に大あなが。迅雷あとで直せよな。
ひゅるるるるっ――――なんか落ちてきた。
がんごつん、ごろろん。
恐る恐る拾いあげると、それは、小さな箱。
五百乃大角の背中に、くっ付いてた箱と同じかたち。
背中のとくらべると、一割くれえの大きさ。
指でつまんだソレを、迅雷からはえた細い腕が、うばいとった。
「(これはSDKです)」
「(酢蛸? うまそうだな)」
「(ソフトウェア開発キットです)」
よし、説明をあきらめんな。それで何ができる?
「そうデすね、簡易的な収納魔法具が作れるヨうになりマす」
不文律/暗黙の慣習。明文化されない決まり事。
SDK/特定ハードやOSで動くソフトウェアの開発に、必要なツール群の総称。ソフトウェアデベロップメントキット。




