表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

484/743

484:ネネルド村奇譚、ギャンブル王子と釣り

 ふぉん♪

『人物DB>サウルース・ヴィル・ラスクトール王子

      中央都市ラスクトール自治領第一王子』

 (かれ)はタターを学院(がくいん)(まね)いた王族(おうぞく)であり、無類(むるい)博打好(ばくちず)きだ。


「わ、(わたし)は、ジターだよ?」

 王子殿下(サウルース)に抱きかかえられ、戸惑(とまど)幼子(おさなご)

 おれと茅の姫(ホシガミー)ほどではないが、(すげ)ぇ似てやがるからな。


 ヴュウゥン――『(ポッ)』♪

 ヴュウゥン――『(ポッ)』♪

 タターと(ジター)(かお)に、(かさ)なるマーカー(・・・・)

 緑色(みどりいろ)だから、攻撃用の目印(ロックオンマーカー)ではない。


 ふぉん♪

『>同一人物で有る可能性は93%。両耳脇と頭頂部の跳ねた髪型の流れに、明確な差異を確認できます』

 馬鹿野郎(ばかやろう)め、まるで見分(みわ)けられてねぇじゃねぇか。

 王子(おうじ)間違(まちが)えるのも、無理(むり)はねぇーぜ。


 すっぽこかららっぁぁん!

 気持(きも)ちの良い(おと)

 杓子(しゃくし)を手にしたラプトル王女殿下(おうじょでんか)が――「サウルースおにいさまぁーららぁん!」

 王兄殿下(おうけいでんか)頭頂部(とうちょうぶ)を、(ちから)(がぎ)りに(たた)いた。


(いた)いじゃないかティル! いい(とし)をしてヤキモチもないだろう? (ちぢ)んでしまっているが、魔導学院(まどうがくいん)(まね)いたタター(くん)だよ?」

 おいこの(くだり)、まえにも見たぞ。

 まえに妹姫殿下(ラプトル)(なぐ)られたときは、(あたま)から血を垂らしていたが。


 クワララララッララァァァァン♪

 王子(かれ)(あたま)に乗せた鉄兜(てつかぶと)は、(かね)()(ひび)かせている。

 すげぇ良い(おと)を、(かな)でてやがるぜ。

 おれが経を読む(・・・・)なんてことも、この(さき)あるかも知れねぇから――

 あの(あかがね)(かぶと)に、(しるし)を付けといてくれ。

 ふぉん♪

『>はい、プックマークしました』

 よしこれでいつでも、(おな)(もの)(つく)れる。


「ヤキモチではありませんらぁん! その手を(いま)すぐ(はな)さないと――血の(あめ)が振りますらぁぁん!」

 伝家(でんか)宝刀(ほうとう)普段(ふだん)杓子(しゃくし)として使(つか)われ気味(ぎみ)な――

 第一王女殿下(ラプトルおうじょ)万能工具(まほうつえ)(うな)る!

 ヴォヴォヴン、ガチャギチ♪

 杓子(しゃくし)(さき)が、巨大(きょだい)(やっとこ)変化(へんか)した。


「ふふふっるぅん♪ 本日(ほんじつ)この場に彼女が居ない(・・・・・・)ことは、密偵(みってい)(すで)(つた)えてきている!」

 あー、王子(おうじ)(ひめ)さん……ガムランの四つ(あし)……(いさ)ましい(ほう)(ひめ)さんが苦手(にがて)なんだったか。

 それに密偵(みってい)って(だれ)だぜ、まったく。


(わたくし)は、こちらです」

 ジタバタする(おさな)(いもうと)を、高貴(こうき)な手から取りかえす少女(しょうじょ)タター。

 その背には、釣り竿(ざお)が。


「やぁタター、(ひさ)しぶりだね。なんだいその、やたらと(なが)魔法杖(まほうつえ)は?」

 魔法杖(まほうつえ)……なのか?

 そのわりには、(いと)とか浮子(うき)とか――

「これは、釣り竿(ざお)です」

 だよなぁ。


 駆けよる兄王子殿下(あにおうじでんか)(かわ)ベルトを――ガシガチャリ!

 (やっとこ)でつかむ、妹王女殿下いもうとおうじょでんか


「はい、お(かあ)さん」

 (ジター)(かか)えて、ひょいと母親(イフター)手渡(てわた)すタター。


「釣り竿(ざお)……(なに)を釣るんだい?」

「もちろん(さかな)(たまご)です。王子(おうじ)さま」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「王子(おうじ)さまぁ――――――――!?!?!?!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


「よ、よくみりゃそっちの綺麗(きれい)(じょう)ちゃんは――ゴーレムっ(ひめ)っ!? ぐほぉ――へにゃり」

 村長(そんちょう)息子(むすこ)が、(じつ)(むすめ)肘鉄(ひじてつ)を食らって地に……大木(たいぼく)に伏した。

 ゴーレム(ひめ)悪名(あくみょう)は、こんな片田舎(かたいなか)でも名高(なだか)かったか。


(よう)するに、子持ちの魚(・・・・・)釣る(・・)ってことよね。けどそれなら、そう(むず)しくはないんじゃぁ無いのぉんぅ()

 さすが飯神(めしがみ)食材(くいもん)(かん)しちゃ、(ただ)しいことを言う。


「いいえ、釣るのは(さかな)ではありません。魚の卵(・・・)ですよ?」

「「はぁ()」?」

 タターは(なに)を、言ってやがるんだ?


「魚じゃなくて、(たまご)を釣るのぉー!? こ、これだから異世界(いせかい)っていうのは、ぷっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ、ウケッケケケケケケケケケケケケケケェッ()

 (たの)しげに奇声(きせい)(はっ)するな、妖怪(ようかい)め。


「〝(さかな)(たまご)()釣るぅーだとぉー?」

 たとえこの来世(らいせ)地獄(じごく)でも、そんなおかしな(はなし)があるか。

 なんか(ちょう)、引っかかるぜ?


 ヴォヴォォォォン♪

「(はい、確認(かくにん)しましょう)――タター、そノ(たマご)というノは〝巨大(きょダい)で茹デると火ヲ吐ク〟のデは()

 迅雷(ジンライ)が飛んできて、(くち)(はさ)んでくれたが――


「いえいえ、(ちが)いますよ。(おお)きさはイオノファラーさま程度(ていど)ですし、茹でたりしたら二本足で逃げ出します・・・・・・・・・・・

 なんでぇい、(ちが)うのか。(おど)かすなよ。

 あの業火(ごうか)を吐く(たまご)が、ここネネルド村名産(むらめいさん)だったら――

 また(はなし)一回(ひとまわり)り、ややこしくなる(ところ)だ。


「ぷくふひぃ――――にっ、二本足(にほんあし)で逃げ出す(たまご)って――――ぷきゃはっははははっ、あはははははははっはははははっ♪」

 突如突(とつじょつ)っぷした、メイドの(なか)のメイド・リオレイニアには、(ふた)つの弱点(よわみ)がある。

 その(ひと)つは、笑い上戸(・・・・)だということだ。


 彼女(かのじょ)復旧(ふっきゅう)するのに、5(ぷん)もかかった。


   §


 聞けば聞くほど(はなし)が、こんがらかると(おも)ったら――

 ふぉん♪

『>はい、どうやら卵に擬態した、未確認の水生生物のようです』

 どうりで(はなし)が、食い(ちが)うはずだぜ。


 水深約(すいしんやく)8メートル。

 (さかな)やムシュル(がい)の住み処になる、岩礁(がんしょう)

 その(さら)(した)

 水底(みなそこ)(つらぬ)(あな)が空いてて、その(おく)(たまご)居るらしい(・・・・・)


(よう)するに、ほどよい(おも)さの(えさ)を付けた(いと)を垂らして、(うん)が良けりゃ(たまご)が食いつくと……やたらと面白(おもしろ)そーじゃんか♪」

 おれはタター(ちち)村長(そんちょう)から、釣りの極意(・・・・・)伝授(でんじゅ)された。


「がはははっ、参加者(・・・)がどんどん増えやがるぜ!」

 ノヴァドが(もど)ってきた。

 釣りがしやすいように、桟橋(さんばし)延ばして(・・・・)くれていたのだ。


「しかし、こんな簡単(かんたん)仕掛(しか)けで、その(たまご)本当(ほんとう)に釣れるのですか?」

 エクレアが(うたが)うのも、無理(むり)はない。

「いやだからさぁー、文脈的(ぶんみゃくてき)に〝釣れない(・・・・)〟ってお(はなし)よねぇん()

 やい御神体さま(いおのはら)やい。(あぶ)ねぇから、あんまり桟橋側(このへん)をウロチョロすんなよ。


 蹴飛(けと)ばされたら最後(さいご)、その岩礁(がんしょう)(あな)に飲まれて(おわ)りだからな。

 ふぉん♪

『>イオノファラー御神体は、水に浮きませんからね』

 ふぉん♪

『イオノ>どうぞ、お気遣いなく。ウケケケケッ♪』


 ヴォヴォヴォォォォン♪

 チョキチョキチョキ――ぱさり。

 迅雷(ジンライ)式隠(しきかく)(みの)使(つか)われている、(ほそ)強靱(きょうじん)電磁気的特性(でんじきてきとくせい)(そな)えた(いと)

 竿(さお)先端(さき)から垂らされた、その(はし)

 付いているのは(ちい)さな丸棒数本(まるぼうすうほん)と、(あな)が空いた(いし)だ。

 丸棒(まるぼう)浮き(・・)で、重石(おもし)重り(・・)


「この(ぼう)(いし)組み合わせで(・・・・・・)ぇー、釣れる釣れないがぁ決ぃまぁるぅのぉーねぇー? クツクツクツクツッ、まるでぇ博打(ばくち)みたいでぇーすぅーね――――あっ、博打(ばくち)とか言っちゃった!」

 奥方さま(ルリーロ)(はっ)した禁句(きんく)、気づいたときには(おそ)かった。


「さぁ諸君(しょくん)。その〝二本足(にほんあし)(たまご)〟やらを釣った者(・・・・)総取(そうど)りで、異論(いろん)はあるまい?」

 タターから釣り竿(ざお)を借り受け、浮きと(おも)りの吟味(ぎんみ)(はじ)める王子(サウルース)


「まったくもう、お兄様(にいさま)と来たらららぁぁん!」

 憤慨(ふんがい)する妹姫(いもうとひめ)

「こうなってしまっては、(いた)(かた)ありません」

 (あきら)めた表情(ひょうじょう)のリオレイニア。

 本来(ほんらい)目的(もくてき)だった巨大卵(きょだいたまご)(ほう)は、(なん)の手がかりも得られなかったが――

 卵釣(これ)りはネネルド(むら)様子(ようす)を知るのに、打ってつけな気がする。


「いよぉしっ、出来(でき)たぜ! 長丸棒(ながまるぼう)二本(にほん)に、重石(おもし)三個(さんこ)だぁ!」

 ふっふっふ。(から)が付いた水辺(みずべ)の生き(もの)ってことわぁ、(かに)蝦蛄(しゃこ)二枚貝(にまいがい)にムシュル(がい)

 どれも、うまいもんばかりだ。

 そのうえ「言葉(ことば)にならねぇ(ほど)うまい」と村人(むらびと)たちに言わしめる、そのお(あじ)


 ふぉん♪

『イオノ>相手にとって不足なし! さあシガミー、見事釣り上げてくださいな♪』

 へへっ、言われるまでもねぇぜ!

 おれは長竿(ながさお)をひゅんと伸ばし、(いと)をぽちゃりと垂らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ