481:ネネルド村奇譚、村の繁栄とムシュル貝
「ふんぬぅぅうぅぅぅぉおおおおおおおりぃぃぃぃぃいゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
工房長と黒騎士が、ネネルド村復興……繁栄に、尽力している。
おれと迅雷とおにぎりで、一気に削ることも出来るが――
ふぉん♪
『>巨木の伐採は慎重に行ってください。
ただでさえ未知の植物であることに加え、
巨大質量の倒壊や落材の危険があります』
そうだな、いくら硬くても木だしな。
男衆に削らせて、様子を見るぞ。
ふぉん♪
『>それと樹心に近い部分へ埋もれた際に、轟雷や私の神力が奪われた可能性があります』
そうだな。木に突き刺さったとき、一気に神力を奪われた。
いまは平気か?
いちおう迅雷には、神力棒を繋いだままにしてある。
ふぉん♪
『>はい。巨木の外縁部、いま居る〝木の生きた部分〟に触れる分には神力を奪われることはないようです』
ふぉん♪
『ヒント>樹心/形成層である外樹皮を支える、木の幹や枝の芯の部分。活発な生命活動は行われない』
んぅ? そりゃ初耳だが、そういうもんか。
ふぉん♪
『>はい。水分や養分を吸い上げるには、管状の通り道が有れば良いので、必ずしも生きた細胞を必要としません』
むぅ、わからん。
けど、お山に生えてた大樹には、人が入れるほどの洞があった。
しかも天までぼっかりと大穴が空いてたのに、春先には花を咲かせてなぁ。
〝外側だけ〟生きてりゃ、木は育つってのは……わからんでもねぇ。
そうなると、この巨木の死んだ部分に触ると、神力を奪われるってことか。
「うむむ、人間生きてりゃ学ぶことが、幾らでもあらぁな」
じゃぁお前は、あまり内側へ行くなよ。
ふぉん♪
『>了解しました』
ちなみに村人に聞いてみたところ、〝業火を吐く卵〟も〝投げた奴〟も見なかったらしい。
夜中に巨木が生えたから明るくなるのを待ち、こうして巨木へ上陸。
幹を掘って開拓開始し、ようやく足場を確保した頃、巨木に何かがぶち当たったと。
何かってのは、もちろん轟雷のことだ。
「まずわぁ、ムシュル貝でしょぉ?」と言う御神体の一声で、おれたちは飯の支度……村の整備を始めたわけだが――
そろそろ日も大分、傾いてきた。
「シガミーも本気だして良いですからねぇ? 5分で村人全員のお家とぉ、みんなで食卓を囲めるぅ、巨大集会所を作ってくださいなぁー♪」
気取るな根菜……いや魚の卵さまめ!
「無理難題を当たりまえのように、命じるんじゃねぇよ。けど……温泉街を作ったときの造形データが、残してあった気がするぞ――」
おれは絵で板から、記録を呼び出して――
ノヴァドとエクレアが開拓した、巨木の縁へあてがう。
ヴュパァ――――ギュィィィィィイィィィィン、ガタガタゴドン♪
数階建ての住居を作り、それを記録して――
重ねるように配置、配置、配置。
この辺は、〝央都の立ち並んだ宿泊施設〟も参考にした。
出来た家のあいだを、行き来できるように階段を作って――
危なくねぇように、ジンライ鋼製の手すりも組み付けた。
轟雷を使ったときの凄ぇ頓知の名残が、いくらか残ってたらしく――
考えるそばから、仕事が終わっていくぜ。
おれに神力は必要ないし、〝木工彫刻〟スキルだけで済む。
細かな所は小太刀で触るだけで、仕上がった。
「いよぉし、こんなもんだろぉ――――♪」
最後に作り付けの巨大テーブル付きの、巨大集会所を削り出
して終了。
広さは、レイド村集会所くらいか。
ただし大講堂みたいな、すり鉢状。
いまは女神の神託によって、行動している。
大義名分を笠に着て、やり過ぎた気もするが――
咎められる謂れはねぇや。
「な、何と言うことでしょう! 一瞬で村が出来てしもうたわい!」
感涙にむせび泣く村長。名は忘れた。
ふぉん♪
『人物DB/プランター
ネネルド村村長』
あー、そんなか。
タターと同じで、家名は無いんだな。
「たった今、水揚げされたばかりの――」
ドガシャッ!
「このムシュル貝くらいしか――」
ゴドガシャッ!
「お返しする物が無いよ!?」
ゴドガシャラッ!
山積みにされる、濡れた網。
中身はもちろん、ムシュル貝だ。
「いやいや、それが一番ありがてぇ♪」
いよいよ取って置きの、紫色の大根野郎を――
すり下ろすときが、来たぜ!
「やい、おにぎり……ありゃ? 女神さまの御使いさまの野郎は、どこ行きやがった!?」
居ねぇ。アイツの中に取って置きを、仕舞ってあるってのに。
気づけば、レイダとビビビーも居ねぇ。
「おにぎりなら、レイダたちに連れられて、タターのご家族のところに行くといって、木の幹を登っていきましたよ?」
白眼鏡が見あげる先。
木肌を削って作った梯子が、ずっと上まで伸びていた。
その両側には小さいが、家みたいなのが点在している。
水面近くだけじゃなくて上にも、鉄砲虫じゃなかった……村人がいるらしい。
〝木工関連スキル〟持ちが居るんだろうが、それにしてもだぜ。
夜中に生えた巨木から、木っ葉のような物置小屋を守り――
あまつさえ、それを寄せ集め足場にし――
果敢にも巨木を開拓し、村を拡大していく。
切れ者のリオレイニアの仕込みに耐えるだけの、可能性を秘めた少女。
ネネルド村からは確かに、彼女の血統を感じた。
「ここまで出来るなら、もっと住みやすい所に住みゃぁ、大成するだろうによぉ」
人には人の村には村の、本懐があるんだろうが。
§
「さて、下ごしらえをやっちまうか――あれ、もうねぇ?」
おにぎりたちが戻るまえに、ムシュル貝の殻剥きでもするかと包丁を取りだしたが――
「「「シガミーちゃんわぁ、その歳で女神さまの料理番なんだってねぇー♪」」」
村の女連中がいつのまにか、そばに立ってると気づいたときには、もう遅かった。
数え切れないほど沢山、並べて置いた大皿。
その全てに剥き身のムシュル貝が、こんもりと山積みにされていた。
貝が名産ってんなら、殻剝きが速ぇのも頷ける。
じゃぁ、マンドラゴーラ以外の野菜を切っとくか――
ヴッ――どさどさごろろろろっ♪
「「「「「「まだそんなに小さい手をしてるのに、えらいねぇー♪」」」」」」
ちっ、また一瞬で下ごしらえされちまったぜ。
人数もなんか、増えてるしよ。
ふぉん♪
『>シガミー。我々に出来る仕事を探しましょう。央都への連絡のために女神像の設置状況を確認してはいかがでしょうか』
そうだな。ソッチをやるか。