478:大陸間弾道卵の謎、超高速魔法杖と飛行魔法
「おい、タター。気をしっかり持てよ――ニャァ!」
彼女の故郷、ネネルド村。
村は完全に、広範囲にわたって水没していた。
その、元から水はけの良くなかった寂れた土地中央。
巨大な木が生い茂った村の様子は、地上……水上へ降りたつまでもなくわかる。
どこからどう見ても、壊滅状態だ。
「そうですよ、きっと村の人たちは無事です!」
少女メイドの元上役で有る、元侍女長も必死に励ますが――
「いえそれは、わかってますので平気です。むしろ、あの木の方が心配ですよぉ」
少女は正面の装甲板に投影表示された、巨木の姿をジッと見つめている。
はぁ?
生れ故郷の大惨事に、何を言ってやがるんだぜ?
気が動転してるって感じでもねぇのに――
心配するのは村人じゃなくて、災害である巨木の方だ。
「まだまだ距離がぁ、ありますのぉーでぇー、このまま加速しつづけまぁすぅよぉぉう?」
ルリーロがそう言ってから、約5分後。
「止まぁりぃまぁすぅよぉぉぉぉぉうっ――――♪」
魔法杖からたなびいていた細く長い雲が――途切れる。
ヴォヴォヴォォォォゥン!
急旋回する魔法杖。
「「「「「「「「「んぎぎぎぎぎぎぎぎっ!!!」」」」」」」」っ――ニャァ!!!」
おれたちは、前のめりになった。
そしてゲイルの腕を伝い、魔石へ次々と飛びこんでいく――
何だぜ……小さな燃える蜥蜴かっ!?
ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォゴォゥゥゥゥゥウウゥゥウウゥゥゥンッ!!!
魔法杖が反転し、おれたちを飛び越した!
ふぉん♪
『>ルードホルドの魔法杖の推進力、急速低下!
外燃機関である魔石出力の測定値が、1122・5KW/hへ到達しました』
ちっ、おれが猪蟹屋の地下で髪の毛を燃やしたときの、1・35倍かっ!
ふぉふぉん♪
『ゴウライ>リオレイニア、ひかりのたてを前に向かって張ってくれ!』
白眼鏡の一行表示に、割り込む方が速ぇ。
ガギッチャコンッ――――ガシガシィン!
装甲板で覆われ、鉄の箱みたいになった馬車を――両膝で抱える。
「――ひかりのたてよ!」
馬車を抱えたおれの眼前に、光の文様が浮かびあがった。
「あっぶねぇっ――ニャァ!!」
上下倒な上に、複雑な回転。
魔法杖をかろうじて避け、魔石から噴出する炎も防げた。
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」
女子供は座席に、つなぎ止められてる。
「「わぁぁぁぁ、みんな大丈夫ですかっ!」――ニャァ!?」
男連中は気絶中の工房長を除けば、立派なもんだ。
ごおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉっ――――――――!!!!!
薪を焼べられた魔法杖から迸るのは、凄まじいまでの奔流。
火龍ゲートルブと戦ったときの火弾より、ひでぇ。
ひかりのたてを回り込んだ炎に、炙られる。
「うおわっちちちちちちちちっ――――ニャァ!?」
鉄鎧の体でも、熱ぃもんは熱ぃぜ!
このままだと馬車を、振り落としちまう!
おれは太鎖を放し――馬車を両手両足で抱える!
最初の魔法杖の急旋回で、粗方の慣性はかき消えたが――
それでも、おれの勢いは止まらねぇ!
ヒュヒィィィィィィイィィィィィィィ――――――――ドガァァァァァァアンッ!!!!
背中の大筒を、全ての神力を使い切る勢いで、全開にした!
シュゴゴォォォォォッ――ォォォォォッ!
それでも、止まりそうもねぇ――――足下に木が迫る。
「(解析指南、どーにかしろっ!)」
ふぉふぉん♪
『解析指南>背面推進装置から噴出する龍脈由来の推進剤に、
再点火してください。推力が約50%増加します』
再点火ぁ? 火に火を付けてどうしようって――あ。
いまさっきゲイルが魔石に焼べてた、燃える蜥蜴かっ?
おれは背中の大筒の、うしろ辺りを――『◇』。
「ひのたまひのたまっ――ニャァ!」
ぼっじゅじゅじゅじゅぅ!
点かねぇ!
なら――『<<<<<◇>>>>>』。
「ひののひたたまひひたまぁやぁ――――!」
ぼこわわぁ、じゅじゅじゅぅぅっ!
点いたが消えちまった――――もう木にぶつかるぜ。
おれの念話も、いつまでも時間が稼げるわけじゃねぇ。
「このやろう――滅せよ!」
ゴォッ――ビリビリビリビリッ!
実効のない文言。巨木の幹にぶつかる瞬間。
ヒュィィィィィィィィ、ゴォウゴゴォォォオゥゥォォォオォォォォ!
おれの背中が、赤く光った。
「ぅぅうぅぅっぉおおぉぉおぉぉわぁぁぁぁぁぁあっちあちあちあちぃっ――――――――ニャァ!」
リオレイニアに背中から、火炎の魔法で撃たれたみてぇだぜっ!
ふぉふぉん♪
『>背面推進装置の測定出力値が、1247KW/hへ到達しました』
つまるところ、見込みが甘かったのだ。
走りだした物は、何時かは止まらないといけない。
加速を続けた魔法杖が、止まることが出来るのは――
轟雷を着た今ならわかる。
魔法の神髄が残した、飛行経路。
その活力の残滓が、長ければ長いほど――
その勢いを相殺するだけの、別の活力が必要になるのだ。
「(いやまて、そもそも魔法杖に乗る二人は、どーして吹っ飛ばされねぇんだぜ?)」
ふぉん♪
『>〝魔法杖に乗る術者に掛かる慣性〟をキャンセルするための術式が、飛行魔法に組み込まれているのだと思われます』
そーいうのが有るんだな、ひとまず納得したぜ。
とおざかる、ルードホルドの魔法杖。
あれには、あの巨大な魔石を扱えるだけの、術者と――
その魔石へ焼べるための薪、ゲイル少年が搭載されている。
奥方さまだって、ここまでの速さで飛んだのは――
今日が初めてだったんだろうさ。
馬車とおれには、そのどちらも搭載されていない。
あれだな。あのカワイらしい巻き角のアイツ。
ふぉん♪
『人物DB>モゼル・マトン
魔術研究所兵站線課第一班所属』
フワフワモコモコのアイツには責任を取って、ルードホルドにも耐えられる馬車を作らせようぜ――――
ドゴバギャメキメキメキメキ――――――――!!
おれは巨木の幹に、突き刺さる!
ふぉん♪
『イオノ>シガミー。馬車を木の幹にぶつからないように、放り投げてねー♪』
てめぇ、大人しいと思ったら――何をいまさら出てきて命令してやがるっ!
ガッシャバキボキ、ガッキュゥゥウゥン――――ゴガァァン!
おれは最後の力を振り絞り、言われたとおりに真横へ放り投げた!