47:魔法使いの弟子(破戒僧)、魔王と酒瓶
「嫁キター! こんなかわいい女神ちゃん、どこにかくしてたのよ♪」
だから女神は、おめーだろうが。あと、嫁って何だ?
ガタガタゴト――白い女神のとなりに椅子ごと移動する、飯の女神。
今日はいつもの丸机じゃなくて、ウチの椅子をだしやがった。
「いま、かくしてたって言ったか?」
神や鬼に見初められるって話は、前世でたまに聞いたな。
「そうか、あの白い面は――」
「そうですね。美しさを遮蔽する機能を搭載したアーティファクトのようです。」
〝視る〟能力じゃなかったのか。
そういや迅雷に、獣の居場所をきいてたしな。
「いえ、まさに視る能力です。眼には神をも魅了する超常的な能力……通力が宿るため念入りに遮蔽されたはずです。」
「念入りっておめえ、そんなことしたら見えねえじゃ――――あぁ!」
そうだ、穴の空いてねえ、あの鳥顔の面。
それを通してなお、外が見えていたことも面の能力だが、本質はそこじゃねえ。
神さんすらあざむく分厚い覆いのむこうから、見えていた事がこの面の本当の力だ。
「でゅふふふふっ♪ ねぇ~、おじょうちゃん~、お名前なぁんてぇいうのぉ~ん?」
おい、神。おまえも飯とはいえ、神の端くれだろ、ちったぁあらがえよ。
「はぁーあ、でれでれしやがって、おめえは仮にも女神だろうが……」
男も女も関係ねえのかもしれねえな。
ってことは、おれも通力で化かされ、かかってたってことか。
「ちょっと、ちがうわぁ~。〝化かす〟から綺麗なんじゃなくて、〝綺麗だから〟化かされたのよぅ~、でゅふっ♪」
いままさに心を奪われてるやつが言うと、含蓄があるんだか、ねえんだか……。
「あまりにも綺麗だと、それが〝能力〟と化すわぁ~、あごほっそぉーい♪」
「もとは綺麗に生まれて育っただけってことか? けど度を超えた地点で、〝呪い〟になんのは、かわらねえじゃねえか」
「あいかわらず、本質をついてくるわね、天正生まれのくせに!」
白いのの顎を、なでさするのにあきたのか、自称美の女神さまが、椅子にふんぞり返った。
「誰彼かまわず好かれたら、世界せんぶを相手にする事になって、たとえ魔王でも守り切れるものじゃないもの。まさに呪いでしかないわねっ♪」
魔王? なんかきいたこと有んな。
「シガミーが言ってるのは、〝第六天魔王〟っていう想像上の姿形だけど、ココには居るわよ魔王って種族がーぁ」
きょろきょろと家の中を、みわたし始める飯の女神。
第六天魔王……聞いたはなしじゃ、まさに仏敵って代物だった。
「ひょっとして、おれを来世に呼んだわけは、やっぱり魔王退治――――」
じつはそういう話でしたってんなら、悪鬼羅刹と恐れられた、おれとしちゃぁ、血がたぎらねえでもねえ――――
「それもぉー、ちがいますぅー。ここの魔王は二年前に、ここの領主の娘ちゃんに、スパーンって切られて絶滅したものぉ。ぷぷぷ~っ♪」
狐耳、マジでぶったぎってたのか。
「それで、いつ出てくるのかしらん?」
なにが? こいつは迅雷よりも正確にこころを読む。めんどうなときは声に出さなくていい。
「あたぁしぃのぉー、ごはんに決まってるでしょぉぉぉぉう!?」
ばかなの? しがみーはお馬鹿さんなのぅ~?
「あーもう、うるっせぇな! ここじゃ馳走なんて出ねえぞ!」
どかん。
人のはなしを聞け。
かたん。
だからおれの酒瓶を持ちだすんじゃねえよ。
ぐびりっ――――ぶぅぅぅぅぅぅっっ!!!
「なによこれっ、お酒じゃないわよ、お酢よぉ、お酢ぅーーーーっ!!!」
「なんだとっ!? おれの般若湯、どこへ隠しやがったぁ!?」
この世界じゃ、澄み酒なんぞ、とうとうお目にかかれなかった。それが正真正銘、さいごの一瓶だぞ、てめぇー!。
「てめえとはなによ、仮にも美の女神であるアタシに向かって!」
「イオノファラー、並びにシガミー。ひとまえで醜い諍いをするのは、看過できません。」
「やかましい、迅雷はだぁーってろぃ!」
「そーよ! これはアタシとシガミーの問題なんだから、口をはさまな――――ひとまえ?」
がたり。
たちあがる〝美の女神〟。
その顔には、まっ白い〝発掘神器〟が付けられている。
「シガミーさま、こちらの神々しいお方は、ご友人でございますか?」
「あーちょっとまって、いま、後光の輝度さげるから」
面を付けた美の女神と、元祖美の女神が、いつもの調子にもどった。
「イオノファラーです、シガミー。」
含蓄/深い意味をふくみ持つこと。
仏敵/仏教に仇なすもの。




