467:央都猪蟹屋プレオープン、無人工房にて
結局、子供らの手前、おれまで自分の部屋に戻る羽目になった。
せめて最後に、使いかけの食材で――
「お前さまの夜食に大皿4。みんなの酒のつまみに、小鉢を5種類。こんなもんで――」
足りるかぁ?
ふぉん♪
『イオノ>たぶーん、大丈夫ぅーん』
そう言ってるから、気兼ねなく部屋に戻った。
§
「さて、無人工房へ行くぞ」
おれは寝床を持ち上げた。
「(決まった時間になれば、おにぎりと天ぷら号が来るからそれまでに、工房の隅でレア装備の修繕強化をしてしまおうぜ)」
ありゃ? 返事がねぇ。
おれは猪蟹屋から隣の倉庫へ渡る、地下通路へ飛びこんだ。
「やい迅雷、どこ行った?」
まさか、レイダが持って行っちまったか?
ふぉん♪
『シガミー>迅雷、まさかレイダに持ってかれちまってたか?』
ふぉん♪
『>そのまさかです』
ふぉん♪
『シガミー>子供たちは、そろそろ寝たか?
ふぉん♪
『>ラプトル王女の夜会ドレスについて、議論を白熱させています』
猪蟹屋にはとても、似つかわしくない程の――
しゃらあしゃらの極みだったからな。
大方、コントゥル家名代が来てることで――
本当の王女付きの侍女たちが、勘違いでもして――
本気を出したんだろうぜ。
ふぉふぉん♪
『シガミー>じゃあ、もう少し子供たちに付き合ってやれや。
おれは先に無人工房に行ってる』
ふぉん♪
『>了解しました』
§
大剣が11、細剣が3。
小剣が18で、盾が32。
大盾が3に、槍が9。
魔法杖と外套が、ひのふの……全部で10人分くらいと――
あとは、そこまでレアじゃない防具が、ひのふの……それなりにあるな。
「結構、有ったなー」
しかも中には、コントゥル家家宝に匹敵するようなのまで混ざってやがる。
じゃあ、さっそく――
そこまで強力じゃねぇ、小せぇ武器からやってくぞ。
もし早めに済ませられたら――
王女へ届ける〝軍用全天球レンズ〟を一個でもいいから作ろう。
ヴヴッ――――ビビビビッ♪
収納魔法から取り出そうとしたら――{The affected storage could not be mounted due to a DLP policy violation./DLPポリシー違反により、該当ストレージをマウントすることが出来ませんでした。}
なんか赤い文字が出やがった。
ふぉん♪
『ヒント>収納魔法具箱へのアクセスは、接触もしくは、
イオノファラー御神体か、INTタレット経由での操作が必要です』
は? こんなの今まで、出たことないだろうが?
おにぎりが背負ってる、収納魔法具箱に入れてあるからか?
「じゃぁ、しゃあねぇか。おにぎりを呼びに……」
リオに見つかると、怒られるな。
仕方ねぇ、もう少し待つか。
おれは無人工房の階段をあがり、一階の倉庫部分へ出た。
月明かりがあるここの方が、真後ろも見える目玉を作り――
その出来映えをみるのに、都合が良いのだ。
倉庫は央都猪蟹屋と比べると、奥行きが有ってそうとう広い。
高く積まれた木箱の間は広く取られ、高窓からさし込む月明かりが通路を照らしている。
「凄まじい量の商品だが、ほとんど捌けちまうからなぁ」
ありがたいことではある。
やりがいもあるし、何より性に合ってる。
魔物相手の大立ち回りも、魔王って言う生き物が死んじまったから――
本当に倒さねぇといけねぇ相手ってのは――
変異種くらいのもんだ。
前世の全てをついやした――七天抜刀根術は、なんでかスキルとして持ち越せたし。
日の本の獲物が獲れる、惑星まで付いてきた。
言うことはない。
せいぜい面白おかしく、この来世を謳歌しろという――
飯のおかわりが生きがいの美の女神さまと、小商いが生きがいの土地神さま。
あいつらの、思し召しだろうしな♪
ゴトリ。
む? 耳栓に付いた動体検知は簡易的だが、反応するはず。
相当な手練れか、サキラテ家みたいな隠形のスキル持ちが――
倉庫の中に居る。
息を殺せ、おれぁ何をしてやがる。
おれが死んじまったら、あのいつも腹を空かせた美の女神(笑)さまに――
だれが飯を作ってやるってんだぜ!
いや、星神が居るか。
姿形は瓜二つ、おれよかよっぽど人の世に馴染んでるし――
たたととと。
音もなく背後を取った。
月明かりが、さし込む木箱と木箱の間。
それは、そこに居た。
月影に照らされる、小さな人影。
いや、その小柄な体躯から伸びる――赤黒い影。
人ではない、化生の身の気配。
「お前さん、ゲール……いやゲイルか?」
それは、ガムラン町最寄りの火山にて討伐された、火龍ゲイルだった。
現在は猪蟹屋三号店店長(就任予定)として、我が軍門に降っている身で危険はない。
「ぬぅ、誰も居らず途方に暮れていたのだ。店主殿よ」
火龍ゲートルブが人の姿を取った者、それがゲイル少年だ。
五百乃大角が名付けた〝ゲール〟という愛称で呼んでいたが――
居あわせることが多かったニゲル青年と、響きが似てて紛らわしいって言うんで――
ゲ・イ・ルと発音するのが、定着して今に至る。
五百乃大角が言うには、どっちでも〝強い風〟という意味に違いはないそうだ。
「何だお前さん、雌だったのか?」
雄の火龍であるゲイルが、化けた子供の姿。
子供がぎりぎり抱えられるくらいの――
巨大な卵を、彼は抱えていた。
DLP/機密情報の持ち出しを禁止するためのソリューション。