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465:央都猪蟹屋プレオープン、おっちゃんとレイダ材の実力

「チィェェェェェェェェイ!。」

 シュギギギッギィン!


 ぬ、(よろい)(かたち)人型(ひとがた)

 その上半身(じょうはんしん)が、(たお)れも(くず)れもしねぇ。

 スゥゥゥゥゥ――チャキン♪

 ぷっはぁぁぁ――ぜぇはぁ!


「斬れなかったかぁ?」

 ほれみろ、格好悪(かっこうわり)ぃことになっちまったじゃねぇーか!

「ぷひゃっひゃっひゃっ――――だらしないじゃない、シガミー()

 うるせぇな、飯神(めしがみ)のくせに!


「はぁあ!」

 おっちゃんのこえ。

 目一杯引(めいっぱいひ)いた切っ(さき)(なら)ぶように――

 (おく)手側(てがわ)肩口(からぐち)を、人型(ひとがた)にぶち当てる。

 こっちから見ると、まるで――

 自分(てめえ)(のど)(けん)を、突き刺したようにも見える。


 ただそこからが、ちょっとした見物(みもの)だった。

 ゴゴォン――「らぁあ!」

 ねじり込まれていた(からだ)(すこ)しだけ、まっすぐに(もど)った。

  ゴゴォン――「へえぇ!」

 おっちゃんの横顔(よこがお)が見えた。

   ゴゴォン――「りぃい!」

 ガッ――(かた)柄頭(つかがしら)を打ち込む!

    ゴゴォン――「あぁあ!」

 おっちゃんの両肩(りょうかた)が、人型(ひとがた)(たい)して正対(せいたい)した。

     ゴゴォン――「るぅう!」

 やっと、おっちゃんの手元(てもと)が見える。

      ゴゴォン――「うぅう!」

 なおも突き出される、両手(りょうて)


 ゴリゴリ、ズザザザザァァァァ!

 とうとう(けん)は、(からだ)のまえへ突き出された。

 つまり(けん)(とお)らねぇ(ぶん)だけ、おっちゃんの(からだ)後ろに下がって(・・・・・・)きたのだ。


「「「「ぷふふふ」」()」」

 子供たち(がきども)根菜(めしがみ)と、伯爵夫人(ルリーロ)(わら)う。


 ばかやろう。

 ありゃ真芯(ましん)(けん)を突き刺さねぇと、出来(でき)ねぇ芸当(げいとう)だぜ。

 おっちゃんが(いき)も絶え絶えに――小瓶(こびん)を取りだした。

 ありゃさっき、根菜(いおのはら)(くば)った蘇生薬(エリクサー)だ。


 うしろの(せき)までよろよろと(もど)り、つっぷすおっちゃん。

 (かた)を押さえるおっちゃんが、(ひかり)で満たされた。


 蘇生薬(エリクサー)だのみの、捨て身の(けん)か。

 おれの()(しち)(かた)匹敵(ひってき)する――

 (つらぬ)くためだけの、捨て身の(けん)

 押しこむときの(ちから)(とおし)(かた)は、体術(たいじゅつ)そのものだった。

 たぶん素手(すで)(ほう)が、おっちゃんは(つよ)い。


「〝攻城(こうじょう)のタウリン〟は健在(けんざい)ですね」

「いやいや〝城郭(じょうかく)のエクレア〟こそ――」

 エクレアが(けん)で突き飛ばした人型(ひとがた)は、対魔王結界(たいまおうけっかい)反対側(はんたいがわ)(かべ)に突き刺さっている。


 ふぉん♪

『>〝攻城のタウリン〟という二つ名から類推するに、

  本来は打突のための専用の武器か、道具を使用する技と思われ』


本当(ほんとう)だぜ! おっちゃんの突いた人型(ひとがた)(すこ)斬れてる(・・・・)!」

 (かす)かにだが、木の部分(ぶぶん)が見えていた。

 ちょっと(きず)が付いただけのおれとじゃ、雲泥(うんでい)の差だ。


(わたくし)ぃのぉーことわぁー、(だれ)もぉー褒めてぇーくぅれぇなぁいぃのぉー?」

 カチリと匕首(あいくち)(おさ)めた、伯爵夫人(はくしゃくふじん)が――

 小指(こゆび)人型(ひとがた)を、突いた。


 キィン――――ガラッ、ゴガシャァン!

 鋭利(えいり)な切り(くち)綺麗(きれい)に真っ(ぷた)つになった、(ため)し斬りの人形(にんぎょう)

 土台(どだい)に立てたジンライ鋼製(こうせい)(はしら)まで、スッパリと切られていた。


「「「「〝蒼焔(そうえん)の……亡霊姫(おばけひめ)〟」」」」

 大人連中(おとなれんちゅう)畏怖(いふ)(ねん)からか、二つ名(あざな)をつぶやいた。

「ココォォォン? いま(なに)かぁ、聞こえましたかぁ――?」

「「「「いえっ、(なに)も!」」」」

 大人連中(おとなれんちゅう)畏怖(いふ)(ねん)からか、目を逸らす。


 ごっひゅるるるるりゅ――と(ほそ)く、狐火(きつねび)を吐いたのを見るに。

 〝お化け姫(ルリーロ)〟は、そう呼ばれたくないみたいだが――


「いいな、(ふた)名持(なも)ちは。どういう(やつ)か、一発(いっぱつ)でわかる」

「くすくす♪」

 騎馬隊隊長(きばたいたいちょう)が、おれを見て微笑(ほほえ)んだ。

隊長(たいちょう)さんには、(ふた)つ名はないのかい?」

(わたくし)は、そんな大層(たいそう)(もの)ではありません。シガミーさまこそ、(ふた)つ名で呼ばれていないのが不思議(ふしぎ)ですよ?」

 彼女(かのじょ)(やり)はレイダ(ざい)に、(きず)ひとつ付けられなかった。

 けど、しなる(やり)(いきお)いで檜舞台(ぶたい)から、ふっとばすほどの見事(みごと)(わざ)だった。


さま(・・)()してくれ。えっと――」

彼女(かのじょ)の名はイラ・グロッグ。央都(おうと)区画警邏担当(くかくけいびたんとう)にして、〝北限(ほくげん)歌姫(うたひめ)〟と(うわさ)されるほどの……」

 リオレイニアが説明(せつめい)してくれ――

「えっ、あるじゃねーかっ! (ふた)つ名が!」

 (うそ)つきか。隊長(たいちょう)さんは、(うそ)をついたのかっ?


「やめて、リオレイニア。あなたこそ、〝美の女神(イオノファラー)の生まれ変わり〟と(まち)評判(ひょうばん)ですよ」

「あー、知ってる。〝イオレイニアさま(・・・・・・・・)〟でしょ!」

 ビビビーが(たの)しそうに、寄ってきた。


「えぇー、あたくしさまはここに居ますけどぉ? 生・き・てぇ・ますけぇどぉー!?()

 (すく)なくともいまその(からだ)わぁ御神体(つくりもん)で、生きちゃいねぇー(・・・・・・・・)だろうが。


「シガミーノ(ふタ)つ名ハ、〝女神(めがミ)料理番(りょうりバん)〟デ良いノでは()

 そりゃ、おれが自分(てめえ)で言ってるだけだぜ。

(ふた)つ名じゃねぇが――それで我慢(がまん)するかぁ」

 おれの生きる目的(もくてき)が、ちゃんとわかるからな。


「えっ、〝(げい)披露(ひろう)すると、(かなら)爆発(ばくはつ)する子供(こども)〟じゃないのっ?」

「〝ガサツだけど、根は乱暴者(らんぼうもの)〟では?」

 パーティーメンバーだから、遠慮(えんりょ)はいらない。

 けどおまえら、そりゃただの悪口(わるくち)だろうが。

 爆発(ばくはつ)してねぇのは(とな)えると、どういうわけだか威力(いりょく)が増す――

 〝文言(めっせよ)〟を(はっ)してねぇからだぜ。

 ふぉん♪

『>自重してください』


「じゃぁそろそろ、(おれ)出番(でばん)だろ?」

 ヴォヴォゥゥウン――――ゴォン!

 まるでいつもの鍛冶仕事(かじしごと)のように、振りあげられた鉄塊(てっかい)


 キキキキキキキキィィィンッ――――――――ゴッズムン!

 (よど)みのない振りおろし。

 金槌(かなづち)は、見たことのない複雑(ふくざつ)さの――

 〝魔法(まほう)神髄(しんずい)〟の軌跡(きせき)を、空中(ちゅう)(のこ)し――


 グワラララランッ♪

 ノヴァドは一体(いったい)人型(ひとがた)を、うすい(ぼん)のようにのしちまった(・・・・・・)


 工房長(こうぼうちょう)ノヴァドの、鉄塊(てっかい)のような巨大(きょだい)金槌(かなづち)は――

 (はや)(はなし)魔法杖(まほうつえ)一種(いっしゅ)だ。

 魔法(まほう)神髄(しんずい)(えが)かれた、複雑(ふくざつ)(ひかり)文様(もんよう)

 幾重(いくえ)にも折り(かさ)なった(ひかり)が、振りおろされた金槌(かなづち)追いつく(・・・・)と――

 おれの小太刀(こだち)を跳ね(かえ)したほど(かた)人型(ひとがた)が、ぺしゃんこになった。


「ふぅ、どーでぇい♪ ただ、こいつ(・・・)でも形状(かたち)を変えただけで、厳密(げんみつ)には破壊(はかい)できてねーけどな!」

 わからん。つぶれてるじゃんか?


「シガミー、斬れるかい?」

 (ぼん)になったそれを、(ひろ)いあげるエクレア。

「いーや、無理(むり)だぜ」

 (かたち)が変わっただけというなら、人型表面(ひとがたひょうめん)のレイダ(ざい)(そう)幾重(いくえ)にも(かさ)なってるってこったろ?

 ふぉん♪

『>そうなります。構造的には轟雷の複合装甲と同じ物です』


「これは(すで)(わたし)大盾(ラージシールド)よりも、堅牢(けんろう)なのでは?」

 (あお)(かがや)(ぼん)を、おれに投げて寄こすエクレア。

 ヴッ――ドズン!

 猪蟹屋謹製(ししがにやきんせい)収納魔法具(しゅうのうまほうぐ)から、いつもの大盾(おおたて)を取りだす顔が良い男(エクレア)新婚(しんこん))。


「そうだなレイダ。あの(たて)に、こいつ(・・・)塗る(・・)ことは出来(でき)るか?」

 おれが持つ(ぼん)をココンと(たた)き、エクレアの大盾(おおたて)(ゆび)さす――

 小柄(こがら)屈強(くっきょう)工房長(こうぼうちょう)

 ちなみに工房(こうぼう)ってのは、ガムラン(ちょう)にある鍛冶場(かじば)のことだ。

 (おな)じく小柄(こがら)種族(しゅぞく)の、屈強(くっきょう)(おとこ)たちにより経営(けいえい)されている。

 今日(きょう)部下(ぶか)たちを、連れてきてねぇみたいで(たす)かった。

 もし全員居(みんない)たら間違(まちが)いなく、手持(てもち)ちの(さけ)じゃ(あさ)まで――

 持たなかっただろうからなー。


 おれとエクレアとノヴァドから詰めよられ――

「どなの、ジンライ?」

 (ぼう)丸投(まるな)げする、子供(レイダ)


炭化(たンか)させル必要(ひつヨう)がありマ()

 ふぉん♪

『解析指南>浸炭窒化焼入処理などを行うことで、鉄鋼表面に強固な炭化層を生成可能ですが、その時点でレイダ材を凌ぐ硬度を獲得するため、現実的ではありません』

 ふぅん。わからん。

 わからんけど――


(すみ)ってことわぁ……おれの(かたな)ぁ、(はい)を練り込んであるぞ? なぁ工房長(ノヴァド)?」

 おれは小太刀(こだち)を、手渡(てわた)してみた。

「おう(たし)かに、ヒーノモトーの秘伝(ひでん)でジンライ(こう)を打ったぞ!」

 こうして(こと)あるごとに話題(わだい)にしてるし、秘伝(ひでん)でも(なん)でもねぇが。

 小柄(こがら)(わり)(おお)きな手で、スラリと抜かれる小太刀(こだち)

 (いろ)漆黒(しっこく)にしてあるから、小太刀(かたな)(かたち)(あな)が空いてるみてぇだ。


「レイダ、これも塗ってみてくれないか?」

 ノヴァドが持つ(かたな)を、(ゆび)さした。


「ええーい♪」

 ギラリン――――♪

「「「ほほぉう♪」」」

「「きれい!」」「見事(みごと)ですね」

 湧く大人(おとな)子供(こども)たち。


 刃先(はさき)から(つよ)く、ギラッギラに(ひか)(かたな)

 中子(なかご)……(つか)(ちか)くなると蒼色(あおいろ)漆黒(しっこく)に溶けて、(ちが)いがわからなくなった。

 こらぁ、見た目が(すげ)綺麗(きれい)だぜぇ♪


「よし、じゃぁ斬ってみるかぁ♪」

 やべぇ、ちぃと(たの)しくなってきた。

「おひとつどーぞ()

 ヴッ――ゴドンッ!

 茅の姫(ほしがみ)が置いた人型(ひとがた)は、たぶんエクレアが(はじ)き飛ばしたやつだ。

 (ひろ)って持ってきてくれたらしい。

 残念(さんねん)ながらやっぱり、傷一(きずひと)つ付いてなかった。


「チィェェェェェェェェイ!。」

 シュギギッザッギッィンッ――――ガギャギンッ!!!

 あっぶねっ――すぽん♪

 折れた切っ(さき)を、即座(そくざ)仕舞(しま)った!

 ぷっはぁぁぁ――ぜぇはぁ!


「ふぅい。折れちまったか!」

 しかも、(さや)鯉口(くち)が割れちまった。

(かた)いレイダ(ざい)が斬れるが、折れやすい……のかぁ?」

 (ひげ)に手を延ばす工房長(ノヴァド)

 相当(そうとう)(なや)んでるときの仕草(しぐさ)だ。


 人型(ひとがた)には(おお)きく、切り込みが(はい)っていた。


「こりゃ、手に負えねぇぞ?」

 (うで)を組んだおれの(くび)が、(よこ)に曲がっていく。

 これも相当(そうとう)(なや)んでるときの仕草(しぐさ)だ。

 つい、出ちまう。


 面白(おもしれ)ぇもんにはなりそうだが――ガリガリと(あたま)を掻いてたら。

 その手を、茅の姫(ほしがみ)に止められた。


「シガミーの小太刀(こだち)一撃(いちげき)(しの)ぐ、木で出来(でき)(かる)お盆(トレー)。それだけで使(つか)(みち)としては、上々(じょうじょう)かと(おも)いますけれど? プークス()

 手にした蒼盆(ぼん)(うえ)には、出せる料理の一覧(おしながき)――光る黒板(タブレット)が載せられていた。

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