表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

463/743

463:央都猪蟹屋プレオープン、夜の部

「やい、シガミー」

 (さかずき)片手(かたて)に、首根(くびねっこ)っこをつかまれた。

「どうしたぃ、工房長(こうぼうちょう)

 折れる折れる。


「どーして央都(こっち)に、奥方(おくがた)さまがいやがる?」

「こっちが聞きたいぜ。烏天狗(からすてんぐ)が受けた仕事(しごと)は、(ひめ)さんがちゃんと届けたはずだ(・・・・・・)


 出来(でき)たばかりの、央都(おうと)猪蟹屋(ししがにや)地下一階(ちかいっかい)

 洞窟(どうくつ)喫茶店(カフェ)いや……(さけ)も、どかどか出すめし処(・・・)

 ガムラン(ちょう)へ、とんぼ(がえ)りした姫さん(リカルル)と入れちがいに、今度(こんど)奥方さま(ルリーロ)央都入(おうとい)り。

 央都猪蟹屋(おうとししがにや)は、未曾有(みぞう)大災害(だいさいがい)に――来客されていた(・・・・・・・)


「コココォッォン!」

 ぼぼごごぉうわっ――――♪

 (いのち)を食らい尽くす、ほどではないものの。

 触れれば怖気(おぞけ)(はし)る、(いのち)灯火(ともしび)

 (ぞく)に言う人魂(ひとだま)とか、狐火(きつねび)とかそんな。

 焼かれても、(あつ)くもなければ燃えもしない仄暗(ほのぐら)(ほのお)


 (くち)から直接(ちょくせつ)、そんな(もの)を吐くときというのは。

 もちろん、機嫌(きげん)が良くないときに決まってる。


「まさか、ぬるい仕事(・・・・・)をしやがったんじゃぁ、ねーだろろぅなぁ?」

 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な、職人魂(しょくにんだましい)(うな)りをあげた。

「まさか! 天狗勢(あいつら)は、おれよかちゃんとしてる。それと納品(のうひん)クエストは達成済(たっせいず)みだぜっ!」

 おれたちが居るのは、檜舞台(ぶたい)()かって左側の席(ひだり)

 地上(ちじょう)への階段(かいだん)からはとおく、床下(ゆかした)厨房(ちゅうぼう)へはちかい。


「コホォン♪」

 洞窟めし処(どうくつパブ)中央(ちゅうおう)檜舞台正面(ぶたいしょうめん)

 ふっさふさの尻尾(しっぽ)が、わさりとゆれる。


「ほ、ほら、お呼びだぜ! 死んでこい!」

 あ、工房長(ノヴァド)め!

 背中(せなか)を押して、おれを人身御供(いけにえ)にしやがった!


「へ、へぃ。ようこそおいでくださいやしたぜわよ!」

 しかたがねぇ。

 猪蟹屋(ししがにや)前掛け(エプロン)(こし)に巻き、かるく(こし)を落として片足(かたあし)を引いた。


「来ぃまぁーしぃたわぁー。シガミーちゃーぁーん?」

 やや(くら)洞窟(どうくつ)

 奥方(おくがた)さまの、妖狐(ようこ)としての発露(はつろ)

 昼日中(ひるひなか)でも(ひか)る、ギッラギラした月影(つきかげ)双眸(そうぼう)


 (こえ)ぇんだが?

 やい五百乃大角(いおのはら)、どこ行った!?

 とっとと出てきて、持てなしてさしあげろやぁ!


 (くち)から狐火(きつねび)を吐きつつ、(みせ)に押しこんできたから――

 ヤーベルトとおっちゃんには、衝立(ついたて)の向こうに(かく)れてもらってる。

 (てき)出方(でかた)を見るまでは、(きゃく)危険(きけん)(さら)すわけにはいかねぇからな。


「ここがぁリカッルルちゃんとっ、(てん)()野郎(やろう)はんが(たの)しみはったぁ――なんてぇ言わはりましたかぃのぉー?」

 興奮(こうふん)のあまり、京都訛(きょうとなま)りが出ている。


対魔王結界(たいまおうけっかい)、ラスクトール自治領王立(じちりょうおうりつ)魔導騎士団(まどうきしだん)魔術(まじゅつ)研究所(けんきゅうじょ)管理(かんり)する施設(しせつ)。ラプトル第一王女(だいいちおうじょ)作成(さくせい)した、超巨大(ちょうきょだい)ゴーレムのお(なか)(なか)です」

 さっきまで呂律(ろれつ)(まわ)ってなかった(リオ)が、(すず)しい(かお)でそばに(ひか)えてやがる。

 あれも、〝女神(めがみ)祝福(しゅくふく)〟スキルの(ちから)か?

 もともと(きも)(ふて)ぇから、そのせいかもしれんが。


「そぉ、そぅどしたなぁ! そぉないな面白(おもしろ)そうな(もん)おぉーずうぅっと(かく)し持ってたあげく、(わて)ぬきで天狗(てんぐ)野郎(やろう)はんと差し合う(・・・・)やなんてぇなぁ――もうもうもうケェーッタケタケタケェーッタケタケタッ♪」

 ぼぼぼぼごごごぅわぁ――――ふわっさふわっさふわさささっ♪

 (うれ)しくて尻尾(しっぽ)を、揺らしているわけじゃない。

 それは(かたわ)らの給仕服(リオレイニア)の、背筋(せすじ)を見りゃわかる。


「ル、ルリーロさまわぁ、まだ天狗(てんぐ)(うら)みがあるのかい――でごぜえますわぜ?」

 ひとまず、(おさ)めてくれたんじゃなかったかぁ!?

 リオが(すげ)(つら)黒眼鏡越(くろめがねご)しでも、表情(ひょうじょう)は手に取るようにわかる)で(にら)むもんだから、丁寧(ていねい)言葉(ことば)使(つか)うわぜ。


「ココォォォォォォォォンッ♪ そないなこと、わざわざ言わんでもわかっとるんとちゃいますかぁっ――とっとと天狗(てんぐ)ぅ、つれてこんかぁいぃぃぃっ!!」

 (した)っ足らずな怒声(どせい)は、まるで(こわ)くねぇけど――これは駄目(だめ)(やつ)だ。


 けど遠吠(とおぼ)えにどこか、自分(じぶん)鼓舞(こぶ)するような(いろ)が、混じったのを(かん)じたから――

 ふぉん♪

『>天狗への復讐よりも、再戦を望んでいるようですね』

 ああ。大方(おおかた)リカルルが、天狗(おまえ)との試し斬り(たたかい)面白(おもしろ)おかしく――自慢(じまん)でもしたんだろう。


 ふぉん♪

『シガミー>やいだれか、この場をどーにかしてくれ』

 っていうか、五百乃大角(いおのはら)どこ行った?

 ふぉん♪

『>いっそのこと、辺境伯をお呼びしては?』

 ばかやろーう。

 リカルルが(あいだ)(はい)ってくれてるならいざ知らず、そんなことすりゃ誰かの首が飛ぶ(・・・・・・・)

 (すく)なくともリオに、迷惑(めいわく)を掛けちまうだろうが。


「まずは、一息(ひといき)つかれてはどうですか()

 徳利(とっくり)猪口(ちょく)(ぼん)にのせ、リオの反対側(はんたいがわ)から姿(すがた)をあらわす茅の姫(ほしがみ)


 じっと金髪猫耳(きんぱつねこみみ)メイドを見つめる、辺境伯夫人(へんきょうはくふじん)ルリーロ。

 どうも、城塞都市(じょうさいとし)からガムラン(ちょう)(あそ)びに来るようになった途端(とたん)に――

 おれたちが、入れ替わりで央都(ここ)に来ることになっちまって――

 拗ねてるみたいにも……(おも)えてきたが。

 最悪(さいあく)場合(ばあい)に、この(なか)では(たたか)えないおっちゃんだけでも逃がさねぇといけねぇから――

 妖怪狐(おくがたさま)(こころ)機微(きび)は、慎重(しんちょう)見極(みきわめ)めねぇと。


「おひとつ、どうぞ()

 無造作(むぞうさ)(ふところ)に飛びこむ、(かや)(ひめ)

 (ぼん)をテーブルに置き――両手(りょうて)猪口(ちょく)を差し出した。


 無言(むごん)でそれを、受け取る辺境伯夫人(ルリーロさま)


「けほっ――(あま)っ、(あま)い! ココォォン!?」

 一口含(ひとくちふく)むなり、目を白黒(しろくろ)させ――ゴクリと飲み込む。

 ひゅっごわぁぁぁぁっ♪

 (くち)から吐かれた狐火(きつねび)の、(いろ)がおかしい。

 青白(あおじろ)いのは(おな)じだが――

 向こう(がわ)透けて(・・・)見えねぇ。

 ぶすぶすぶすすっ――テーブルが焦げた。


 危ねぇな! けど――


迅雷(ジンライ)、いますぐレイダを連れてこい!」

 おれは相棒(あいぼう)を、天井(うえ)に向かって(ほう)り投げた。


 この(さい)、〝レイダ(ざい)〟のお披露目(ひろめ)といくぞ。

 (おこ)ってる手前(てまえ)話題(わだい)にしてこねぇけど――

 こんなに綺麗(きれい)(いろ)の、櫓組(やぐらぐ)みの木材(もくざい)

 (あた)しもの好きの彼女(かのじょ)が、気にならないわけがないのだ。


 ヴォヴォヴォォォン――――「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ♪」

 階段(かいだん)の手すりを跳び越え、迅雷(ジンライ)につかまり直接おりてくる(・・・・・・・)

 檜舞台(ぶたい)着地(ちゃくち)した、生意気(なまいき)子供(こども)が――


「ル、ルリーロさま、こんばんわ」

 (こし)を落とし、片足(かたあし)を引いた。


「そこのテーブルに、アレをやってくれ(・・・・・・・・)!」

 (さけ)(さかな)宴会芸(えんかいげい)披露(ひろう)しろと、言われたと(おも)ったのかも知れん。


「えーいっ♪」

 躊躇(ちゅうちょ)なく子供(こども)(ぼう)を振ると、燃えたテーブルの一部分(いちぶぶん)が――――ギラリィン♪

 闇夜(やみよ)のような蒼色(あおいろ)で、塗り替えられた。

 金属質(きんぞくしつ)(かがや)くのは、燃えた部分(ぶぶん)だけ。


「こらぁえらぃ、(おどろ)きましたなぁ♪」

 ふぅ。奥方(おくがた)さまが、やっとまともな(くち)をきいてくれたぜ。


「これは迅雷(ジンライ)とレイダが(つく)った、相当硬(そうとうかた)い……漆喰(しっくい)みたいなもんだ。(すげ)ぇだろう♪」

 猪蟹屋製品(ししがにやせいひん)を置いたテーブルから、レイダ人形(にんぎょう)をすかさず持ってきた。


「こりゃぁ、面白(おもしれ)ぇなぁっ♪ まるで(てつ)じゃねぇか!」

 あー、工房長(こうぼうちょう)が釣れちまった。

 その(いか)つい手から、人形(にんぎょう)をするりと取り(かえ)猫耳(ねこみみ)メイド。


(さき)ほどの天狗(てんぐ)さまと試合(しあ)うお(はなし)、この超硬質(ちょうこうしつ)漆喰(しっくい)〝レイダ(ざい)〟でお決めになってはいかがでしょうか()

 おれに人形(にんぎょう)(わた)し、すかさず奥方(おくがた)さまの空いた猪口(ちょく)に、(さけ)(そそ)ぐ。


 ふぉん♪

『シガミー>商魂たくましいのも結構だが、この場を納められるんだろうな?』

 ふぉん♪

『ホシガミー>はい、お任せください』


「ふぅ、強者(きょうしゃ)である天狗(テェーング)さまとの試合(しあい)は、いつも物議(ぶつぎ)(かも)し出しますね。どういうことでしょうか、カヤノヒメさま?」

 黒眼鏡(グラサン)を手でクイと、持ちあげるリオレイニア。


「このレイダ(ざい)見事(みごと)、斬ってみせたらシガミーさんの勝ち。切れなかったら、ルリーロさまの勝ちということでは、いかがでしょうか? くすくすす()

 (あお)(かがや)くレイダの人形(にんぎょう)を、また(うば)われた。


「はぁ、こいつを斬れだとぅ?」

 (かて)えって(はなし)だが、おにぎりほどじゃねぇだろ?

 つまり斬れるってこった。


「だめーっ、切っちゃやだぁー!」

 茅の姫(ほしがみ)に体当たり、自分(じぶん)人形(にんぎょう)(うば)(かえ)すレイダ。


「よし、じゃぁ(べつ)(ため)し斬り人形(にんぎょう)を、(おれ)(つく)ってやるぞ、ガハハハッ♪」

 立ちあがるノヴァド工房長(こうぼうちょう)

 (かれ)鋼材(こうざい)だけじゃなく、木工細工(もっこうざいく)もお手の(もの)だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ