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460:央都猪蟹屋プレオープン、茶会と小言と獅子頭

「まさかこんな(ちい)せぇ種火(たねび)が、あそこまで(ふく)れ上がるとは(おも)ってなくてよ!」

 まだひとつ(のこ)ってた、(ちい)さな「ひのたま」。

 それをヴッ――取りだした団扇(うちわ)で、(たた)いて消した。


 わいわいがややや、にゃみゃがぁ♪

 きゃはははうふふ、ひっひひぃん?

「おかわりを――」「わはひも――!」「ははふひははほ――♪」

 おれが巻き起こしたことではあるが、この世界(うつつ)連中(れんちゅう)は――

 どこか浮世離(うきよばな)れが、過ぎる。


「みんなっ、あとおっちゃんもすまねぇ!」

 おれは誠心誠意(せいしんせいい)(こうべ)を垂れた。

 なんせこいつぁ――

 不慮(ふりょ)事故(じこ)とか手違(てちがい)いで、済む(はなし)じゃねぇ。

 おれの料理(りょうり)仕上(しあ)げっていう、〝見世物(み8せもの)〟だからな。


「うふふふっ♪」

 生意気(なまいき)子供(こども)レイダが、(わら)いやがる。

 やいてめぇ。本気(ほんき)(わる)いと(おも)ってんだぜ!

 ぎっと(にら)むと――

「シガミーの出し(もの)で、爆発(ばくはつ)しなかったのなんてないでしょ。つぎわたし、わたしにもやらせて!」

 取りつく(しま)がねぇ。


「ひゃぁぁっ――――かわいい♪ ふわっふわの、もっこもこ♪」

 ビビビーが、チリチリになったおれの(かみ)を、(おお)きな(くし)()いている。


(わタし)算出(さンしゅつ)しタ燃焼規模(ねんしょウきぼ)大幅(おオはば)ニ超エ、831・5KW(キロワット)(アワー)到達(とうタつ)しマした。マナノ大気成分(たいきせいブん)へノ影響(えいキょう)考慮(こウりょ)していナかった、(わたシ)責任(せきニん)デす。(みな)さマへ謝罪(しゃザい)いたシ()――――」

 迅雷(ジンライ)も、こう言ってることだし……そろそろ勘弁(かんべん)してくれ。


「けどこれ、お(じょう)さまか奥方(おくがた)さまに知られたら――(こま)ったことになるかも知れませんよ?」

 なんだと!? リオがおれの(あたま)(なが)め、そんな(おど)しをかけてきた。

 おれはもう一度(いちど)(あた)りを見わたす。


 ふぉん♪

『ホシガミー>くすくす。心配せずとも、人的被害はありません』

 高床(たかゆか)にした、石床(いしゆか)階下(した)

 厨房(ちゅうぼう)から、茅の姫(ほしがみ)一行表示(ティッカー)を飛ばしてくる。


「みゃにゃぎゃぁー()

 いや呑気(のんき)にしてる場合(ばあい)じゃねーぞ。

 おまえは片耳(かたみみ)まわりが、焦げてる。

「ひひひひひぃぃん?」

 おまえは、(あし)(さき)が焦げてる。


 おれは、手にした猪蟹屋(ししがにや)団扇(うちわ)で――

 寄ってきた(ねこ)(うま)を、ばったばたと(たた)き。

 その(すす)(はら)ってやった。

 コイツらの毛皮(けがわ)伯爵令嬢(リカルル)伯爵夫人(ルリーロ)、そして変異種(ヴァリアント)攻撃(こうげき)(はじ)性能(つよさ)がある。

 これを破いた(・・・)のはニゲルの、攻撃力(こうげきりょく)34を(ほこ)る『まがい物の聖剣(安物)』。

 それと、フェスタの舞台(ぶたい)で立ち合った烏天狗(おれ)の『仕込み錫杖(直刀)』だけだ。


 (すす)が落ち、綺麗(きれい)になった猫馬ども(やつら)は――

 テーブルへ(もど)り、菓子(プリン)を食べ(はじ)める。

 おまえらは……(はな)がねえから気にならんのかもしれんが。

 大食(おおぐ)らい席以外(せきいがい)の、みんなの(さじ)が止まってる。


「ふんふん、木が燃えたにおいがするかぁー?」

 この(すす)を、どうにかしねぇと。

 焼けた櫓組(やぐらぐ)みの(かべ)天井(てんじょう)を、(あたら)しく(つく)(なお)すにも――

 子供(こいつ)らを一度(いちど)退()かさねぇといけねぇ。

 (きゃく)として呼んだわけだし……そいつぁ、うまくねぇ。

 どうすりゃ良い?


 ふぉん♪

『解析指南>炭化した表面を構造色で塗り替えることで、炭素分子の剥離を防ぐことが可能です』

 わからん。

 ふぉん♪

『ヒント>ゲタスベール/量子記述的に再配置された表面構造は、構造色の構造を含みます』

 わからん。


「(下駄(げた)の歯に塗布(とふ)していた〝栴檀草(せんだんそう)()〟のような構造(こうぞう)を、漆喰(しっくい)がわりに使用(しよう)しま())」

 水平(すいへい)(たお)れ、平謝(ひらあやま)りをしていた相棒(あいぼう)が――ヴォヴォォンと起き上がり寄ってきた。

「そいつぁー、どーすりゃ、良いんだぜ?」

 向きを自由(じゆう)に変えられる、栴檀草の実(ひっつきむし)

 (かべ)をすべったり天井(てんじょう)に張りつく以外(いがい)使(つか)(かた)を、おれは知らん。


(わたシ)をかザして、焦ゲた木ノ(イろ)塗り替えて(・・・・・)くダさ()

 じゃあ、まずはソレをやっちまうか――迅雷(ジンライ)をひっつかむ。


「えっ!? (なに)それ面白(おもしろ)そう! やるっ! (わたし)がヤル!」

 相棒(ジンライ)をレイダに(うば)われた。

「まてこら、(かえ)――!?」

 目のまえに、質素(しっそ)可憐(かれん)な……美の魔神(イオレイニア)降臨した(たちふさがる)


「シガミー。これからは即興(そっきょう)(げい)披露(ひろう)することを、(ひか)えて(いただ)けませんか?」

 仏道(ぶつどう)帰依(きえ)したおれでさえ――(とりこ)にされちまう(ひとみ)

 魔眼殺(まがんごろ)しの黒眼鏡越(くろめがねごし)しでも――そういつまでも()めつけられたら。

 どーにかなっちまうかもしれねぇから、目線(めせん)を逸らす。


「へぁ? そりゃ(こま)る、いざってときの見せ(もん)がなきゃ――」

 仁王立(におうだ)ちの、美の魔神(イオレイニア)

 質素(しっそ)なドレスがはためく。


「でしたら、(わたくし)とレイダの了承(りょうしょう)を、取り付けてからにしてください」

 魔神(まじん)が、おれの(うしろ)ろあたまに取り付いた。

 うすい(しり)でどかりと、ビビビーが(よこ)退()かされる。

 まだ、ご立腹(りっぷく)らしい。

 (ビビビー)に八つ当たりを、するくらいには。

 ここは言うことを聞いておく。


「んぁーうん。わかった。言うとおりにするぜ」

 実際(じっさい)毎度毎度(まいどまいど)騒動(そうどう)を起こしちまってるしな。


「(迅雷(ジンライ)、そっちは(まか)せても良いか?)」

 もさもさもさ。

 いつも、するりと(はい)っていた手ぐしが――

 ぎゅぎぎ――「()た、(いて)ぇ!」


「(はい。了解(りょうかい)しまし())」

 相棒(あいぼう)が、子供(レイダ)に振りまわされても頑張(がんば)ってる。

 おれも頑張(がんば)らねぇとな。


「ヴィヴィー。そのブラシを貸して(いただ)けますか?」

「いーよ、レーニアおば……レーニア先生(せんせい)。はい♪」

 ビビビーが(おお)きな(くし)手渡(てわた)し、塗装(とそう)(はじ)めたレイダの(もと)へ駆けていく。


「どうぞ、お使(つか)(くだ)さい。プークス()

 茅の姫(かやのひめ)配膳(はいぜん)のついでに、(おお)きめの(かがみ)を――ゴトン♪

 目のまえに、置いてくれた。


「わ、わるいな。おれの(かみ)なんか、どうでも良いぞ?」

 (かがみ)(うつ)りこむおれの(あたま)は、まるで獅子頭(ししがしら)だ。


「どうでも良くはありません! この(かみ)をあのお二人(ふたり)に見つかったら、きっと(わたし)も……ふぅ、(おこ)られますので」

 (くし)を入れる(たび)に、もっさりと(ふく)れあがる、金糸(かみ)(たば)

 あのお二人(ふたり)というのは、コントゥル母娘(おやこ)のことだ。

 さっき言ってた、「(おこ)られる」というのは――

 ひょっとしたら、おれの(かみ)が焦げちまったことか?


「じゃぁ、こいつを使(つか)ってくれ」

 ヴヴッ――――ふわさっ。

 (なに)もない空中(ちゅう)から、一本(いっぽん)(おび)を取りだした。

 天衣無縫(てんいむほう)スキルを使(つか)わず、エディタで縫い合わせただけの(ぬの)だ。


 ふぉん♪

『紫色のリボン』

 頑丈(がんじょう)だけど装備(そうび)として仕上(しあ)げてないから、防御力(DEF)は付かなかったみたいだ。


「おや、これは――(れい)測定時(そくていじ)着用(ちゃくよう)していたリボンですか?」

 おっちゃんが、四角い器(プリン)を手に寄ってきた。

 わいわいがややや、にゃみゃがぁ()

 きゃはははうふふ、ひっひひぃん?


「シガミー! その装備(そうび)使用(しよう)は、保留(ほりゅう)したはずではっ!?」

 黒眼鏡(サングラス)(そこ)から――ぎろり!

 眼孔(がんこう)(なな)めになり、表情(ひょうじょう)がふたたび(けわ)しくなった。


「いや、これはだなぁ――!?!?」

 わいわいわいがやがやわい!

 みゃにゃぎゃにゃひひひひひひぃん?

 ぎろり!


「カヤノヒメちゃんの、青空食堂(あおぞらしょくどう)は良かったけど……」

「シガミーちゃんのお(うち)は、まだ出来(でき)てないのかな……」

 子供(こども)たちが飽きちまって、(さわ)(はじ)めた。どうするよ。

 ここで失敗(しっぱい)すると(はじ)まったばかりの央都猪蟹屋おうとししがにやに、けち(・・)が付きそうだぜ。

 この場をどうにか(しの)いでくれやぁ、五百乃大角(かみ)さまよぉう!


 ヴヴヴヴヴヴヴウッ――――――――カチャカチャカチャカチャ!

 ヴヴヴヴヴヴヴヴッ――――――――コトコトコトコトコトコトコトコトン!

 プリンという菓子(かし)おかわり(・・・・)が、全員(ぜんいん)(せき)に置かれた。

 それと収納魔法(インベントリ)から、(いま)まで貯めておいた蘇生薬(エリクサー)も取り出され――

 なぜか一緒(いっしょ)(なら)べられた。


 ぽこ――こぉん♪

 かるい処理落(しょりお)ち。

 同一(どういつ)エリア(ない)再展開(いどう)でも、負荷(ふか)が掛かるらしい。


「ウッケケケケケケケケケケケケケケッ――――――――みなさん、お(わす)れではなぁいですぅーくわぁぁー? あたくしさまが、かの美の女神(イオノファラー)であることおぉー。このあたくしさまの料理番(りょうりばん)を――イジメるなら、相手(あいて)になりますよぉ()

 おれの(あたま)(うえ)顕現(けんげん)し、降りたつ根菜(いおのはら)


 た、(たの)もしいな。

 (しいた)げられてるわけじゃねぇが――

 (めずら)しく(たの)もしいな、お(まえ)さまよぉ!

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