46:魔法使いの弟子(破戒僧)、まほうの神髄と女神と女神
「はい、おめでとうレイダ。これで見習いは卒業ね」
鬼娘が採取クエスト依頼書に大きな判を押したら、なんでかしらんが経験値が足されて、レイダのLVが7になった。
おれの板ぺらも、LVの横の欠けた丸が、すこし埋まった。
仕事を達成したとたんに〝修行の成果〟が現実になるってのぁ、どーにも合点がいかねえが、ここじゃあそういうもんらしい。
〝女神の祝福〟だなんてのが本当なら、あの大飯ぐらいも、ちゃんと仕事をしてるのかもしれねえなあ(上位権限により非公開です)。
§
魔法は状況によって、子細につかいわけられれば、すくない労力で最大の効果を発揮する。
つまり敵との距離が近いほど、瞬間的な判断がひつようになり、幾重にも複雑化していく。
§
「白いのは魔法を飛ばすのがうまいから、生活魔法でも戦えるってわけだよなー?」
森に入ったおれたちは、姫さんとギルド長の小言を聞く羽目になった。
白いのが事こまかに狐耳に報告するもんだから、どうしようもねえ。
これで、狼もどきの群れに襲われてなきゃ、リオレイニアも黙ってるつもりだったらしいが。
一週間のクエスト禁止と、おれがLV7になるまでは森へ近寄ることすら禁止された。
まあ、しかたねえ。
レイダも今日は、家でおとなしくしてるって話だし、おれもこうして魔法の理屈の勉強をしてる……どうした? そんな烏が火縄をくらったみてえな顔して。
「……魔法の神髄を、そんな、こともなげに……」
「神髄ったって、あの狼……四つ足の獣が口んなかで炎の魔法を、どうやって作るのかをみたら、門外漢のおれだってわからぁな」
魔法の杖の先端。ひかる筋で書いた円。
それを閉じて〝あまった長さ〟が、尻尾んなって――
飛ばす原動力になんのは、まちがいねーだろーし。
「いつも驚かしてくれるから、〝シガミーさまは本当におもしろい〟と、お嬢さまが、つねづねおっしゃっておりましたが……」
かちり、キュキュキュキュー、カチャリ。
白いのが白い面をはずして、目頭をおさえた。
「ふう、マスタークラスの魔術師ですら、そこまでの境地には至ることはないのに――――」
「では、そレがわかるリオレイニアは、その境地に届いてイるというわケですね――――」
「まておまえら、そんな話してる場合か――――!」
「シガみー?」
迅雷がよってきて視界をふさぐ――べちり!
手でおいはらった。
§
おれは白いのを、まっすぐに見つめていた。
つよい意志を感じさせる、おおきな瞳に吸いよせられる。
楚々とした細眉や目尻の曲線。
非の打ち所のねぇ鼻や頬や顎すじの造形。
「――どうかされましたか?」
桃源のしらべが、聞こえる。
見なれた口もとさえ、熟れた果実のようにかんじた。
朝露にゆれる新緑のような、みずみずしさ。
その水滴のひとつひとつに焦点が合い――目が離せなくなった。
「リオは、ほんっとうに美の女神じゃねぇかよ! なんだその面! 綺麗すぎんだろーが!?」
〝色の白いは七難隠す〟なんてどこかで聞いたことがあるが、そういうこっちゃねえ。
氾濫する慈愛と唯一無二の美貌が、目のまえにすわってる。
「はきゅ!? な、なななな、なにをおっしゃって、おられるのですかっ?」
「五百乃大角なんてぇ、ただ食い意地がはっただけのやつより、千倍きれいだぜっ!」
「あら、ごあいさつね、シガミー♪ ってうっわ、本当に綺麗! だぁれこれ、ひょっとして女神さまっ!?」
女神は、おめーだろうが!
でた、とうとう新居にまで出やがった!




