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456:央都観光ツアー、カルルと龍の巣

 ぞろぞろぞぞろろろ。

 わいわわいがややや。

 石組(いしぐ)みの(おお)きな通路(つうろ)を、四列縦隊(よんれつじゅうたい)行進(こうしん)する生徒(おれ)たち。


 先頭(せんとう)はリオレイニア先生(せんせい)

 初心者用(しょしんしゃよう)魔法杖(まほうつえ)(かか)げ、七色(なないろ)光の球(ひかりのたま)先端(せんたん)(とも)している。


「みなさぁん。もうすぐですのでぇ、がんばってくださぁい♪」

 いつもの給仕服(きゅうじふく)じゃなくて、質素(しっそ)(たけ)(ひざ)くらいまでの(ふく)を着てる。

 よそ行き(ドレス)ではないが――

 ふぉん♪

『ヒント>魔女のお出かけコーデ/襟付き花柄ワンピに、

     学院支給のマジックローブ。初夏に最適』

 ヒント(・・・)(なに)を言っているのか、さっぱりわからんが――

 可憐な彼女(リオレイニア)に、とても似合(にあ)っているのは(たし)かだ。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ははーい♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 彼女(リオ)のうしろにA組の生徒(おれたち)と、ツアーの(はなし)を聞きつけた(ほか)のクラスの生徒(せいと)たち。

 教室二(きょうしつふた)つと半分(はんぶん)くらい、子供(こども)たちが(つづ)いて――

「――――はぁ、ひぃ、ふぅ。ガラガラ、ぐわららん♪」

 最後尾(しんがり)はヤーベルト先生(せんせい)だ。

 (かれ)背負(せお)った魔法杖(つえ)は、今日(きょう)もがらがらとうるさい。


「ヤーベルト先生(せんせい)ー! (おく)れていますよー。あと(つえ)がうるさいので、お(しず)かにー♪」

 いつもよりすこし、浮かれてるな。

 いつも冷静(れいせい)な、彼女(かのじょ)にしてはめずらしい。


「おい、五百乃大角(いおのはら)さまよ。どうしたぁ、(だま)り込んで?」

 これだけ(たの)しげな催し物(イベント)の、真っ最中(さいちゅう)だってのに――

 御神体(こいつ)さまときたら、(あたま)(うえ)でうんうん(うな)ってやがる。


「うぅうぅーん? シェイクじゃぁ、(なん)のひねりもなさ過ぎでしょぉぅ?」

 (なん)(はなし)だ?

 ふぉん♪

『>例のアイスを使った冷たい飲み物。その名称を考察中と類推します』

 天狗役(てんぐやく)迅雷(ジンライ)(つく)った、(つめ)たい飲み(もの)


「そうわねぇ……お(ひめ)ちゃんが大層(たいそお)ぉ、お気に召したようだしぃ、この(さい)〝カルル〟なんてどぉおぅ()

 (あま)(つめ)たく、とろける(のど)ごし。

 その霊刺秘(レシピ)は、たしかに伯爵令嬢(リカルル)をもてなすために、考案(こうあん)されたものだが。


「「カルル!? かわいいっ!」」

 子供(おまえら)がそう言うなら、(わる)くねぇ名かも知れぬが。

 おれは頭上(ずじょう)根菜(こんさい)のような根菜(こんさい)を、ひっつかんだ。


姫さん(リカルル)の名から、三文字(さんもじ)もらったのか……(おこ)られやしねぇか?」

 おれが居たころの日の(もと)とは(ちが)って、お貴族(きぞく)さまたちは(はなし)が分かる御仁(ごじん)ばかりだ。

 普段(ふだん)殺気立(さっきだ)ってやしねぇけど――それでもだ(・・・・・)

 (かたな)を引っ()げた伯爵(とのさん)令嬢(ひめさん)相手(あいて)に、好き(この)んで滅多(めった)なことをする必要(ひつよう)はない。

 それじゃなくても、身の(あかし)である〝名〟を、勝手(かって)使(つか)うわけにはいかん。


「では、聞いてみましょぉ()

 取り出したのは御神体(いおのはら)(ばい)(なが)い、青板(スマホ)

 これはニゲル青年(せいねん)の持ち(もの)を、複製し(まね)(もの)で――

 ゆえ有って、某伯爵令嬢(リカルル)との通話(つうわ)可能(かのう)にしている。


「あ、もしぃもしぃ~♪ リカルルちゃんさん()

 御神体(からだ)からしたら、でかい(いた)器用(きよう)丸頭(あたま)にくっつけて――

 空中(ちゅう)へ向かって(はなし)しだす、美の女神(いおのはら)


「「「「「「「「「「「「「もしもしぃ?」」」」」」」」」」」」……ござる?」

 〝もしもし〟てのは、結局(けっきょく)わからん。

 神々(やつら)(はな)言葉(ことば)は、使い方(・・・)さえわかりゃ良いことにしてる。

 あと、〝ござる〟は言ってねぇだろ。


「そうぅ、あたしあたしぃーあたくしぃさまぁーですぅー。それでさぁー、(れい)のさぁ飲み(もの)のさぁ、お名前(なまえ)なんだけどさ()――」

 (ひと)の手の(うえ)で、ごろりと寝転(ねころ)がる御神体さま(いおほはら)

「えっ、ぷぐふひっ♪ うけるー、ウケケケケケケケッ()

 やい、〝受ける〟って(なん)だぜ!?

 勝手(かって)なことをするなよなぁ?


「じゃぁ、そーいうことでぇ♪ じゃぁまた来週(らいしゅう)ぅー、はぁーい()

 女神(こいつ)さまは青板(スマホ)とか通信魔法具(つうしんまほうぐ)(はな)すときに、(みょう)にクネクネしたりペコペコしやがるから――

「なんか小煩(こうるさ)くてイライラしたが、どーなった?」

 ――嫌味(いやみ)をおりまぜつつ、率直(そっちょく)に問いただす。


「「天狗(テェーング)さまに異存(いぞん)がないのでしたら、良くってよ」だってさっ♪」

 姫さん(リカルル)真似(まね)らしいが、吃驚(びっくり)するほど似てやららねぇ。

 がやがやがやややっ、ざわわわわわっ!

 子供たち(がきども)が、ざわついちまったぜ。


「ねぇ、レイダ?」

「なぁにぃ、ヴィヴィ?」

「イオノファラーさまが使(つか)ったのって、とおくの(ひと)とお(はなし)出来(でき)魔法具(まほうぐ)でしょう?」

 魔法具(まほうぐ)だぁ? 子供(こども)らは、つまらねぇことを気にしてたみてぇだ。

 央都(おうと)(まち)では便利(べんり)魔法具(まほうぐ)が、其処彼処(そこかしこ)使(つか)われてる。

 (めず)しいもんでもねぇだろうが。

 それに(なが)箱形(はこがた)通信魔法具(つうしんまほうぐ)なんかは、コントゥル家で普通(ふつう)使(つか)われてたはずだろ。


 本当(ほんとう)のことを言えば女神(いおのはら)宿(やど)御神体(ごしんたい)は、女神像(めがみぞう)とおなじことが出来(でき)る。

 青板(スマホ)がなくても、青板(スマホ)通話可能(はなせる)らしい。

 もっとも(ひと)(おど)かさねぇように、青板(スマホ)(かい)してガムラン町(リカルル)青板(スマホ)(はなし)をしてたんだが――


「(どうやらスマホを(かい)した(ところ)で、あまり意味(いみ)がなかったようですね())」

 そのようだな。


「イオノファラーさま?」

「なぁにー? ヴィヴィヴィーちゃん?」

「ヴィーがひとつ(おお)いです。えっと、その(いた)……薄型(うすがた)通信魔法具(つうしんまほうぐ)(わたし)たち以外(いがい)のまえでは、使(つか)わない(ほう)が良いと(おも)うよ?」

 ヤーベルトとリオレイニアも(ふく)んだ、全員(ぜんいん)(おお)きく(うなず)く。

「そうわのぉ? なんでぇ?」

 大首(おおくび)をかしげ、おれの(てのひら)でひっくりかえる御神体(ごしんたい)


「それを聞きつけた橙色(だいだいいろ)(ひと)たちが、(むら)がってくるからだよ」

 橙色(だいだいいろ)(ひと)たち? 十中八九(じゅっちゅうはっく)、ミャッドが居る(ところ)だな?

 ふぉん♪

『人物DB/ミャニラステッド・グリゴリー

      ラスクトール自治領王立魔導騎士団魔術研究所ギ術開発部顧問技師』


 ラスクトール王家(おうけ)へは王女経由(おうじょけいゆ)で、ミノタウ素材(そざい)(わた)してあるし――

 王女(おうじょ)には軍用全天球(ぐんようパノラマ)レンズの納品(のうひん)を、約束(やくそく)した。

 けどミャッドの(ところ)には、測定魔法具(そくていまほうぐ)(こわ)した弁解(いいわけ)のついでに(かお)を出そうと(おも)ってて――

 いろいろあって、まだ行けてねぇ。


「あー、知ってる知ってる。橙色(だいだいいろ)(ふく)を着た連中(れんちゅう)……ひとたちでしょぉー? 平気平気(へーきへーき)、そんなのが来てもあたくしさまの料理番(りょうりばん)が、蹴散(けち)らしてくれるからぁ――バチィン♪」

 目をパチパチさせて、おれと迅雷(ジンライ)を見るんじゃねぇやい。


 この物見遊山(かんこうツアー)とやらが、(はや)く終わったら――

 その(あし)で、(かお)を出してみるかな。


   §


「はい、みなさん注目(ちゅうもく)ー! あの(おお)きな(あな)が、かの有名(ゆうめい)な〝(りゅう)の巣〟です」

 質素(しっそ)なドレスに身を(つつ)むリオレイニア先生(せんせい)は、ソレはソレは人目(ひとめ)を引いた。

 〝魅了(みりょう)魔眼(まがん)〟……じゃなかった〝魅了(みりょう)神眼(しんがん)〟を押さえるはずの魔眼殺(まがんごろ)し。

 それすら殺す(・・)美しさ(・・・)


 おれたちは断崖絶壁(だんがいぜっぺき)(めん)した、城壁(じょうへき)内側(うちがわ)整列(せいれつ)していた。

 (ふと)鉄柵(てっさく)金網(かなあみ)(おお)われた、長窓(ながまど)の向こう。

 (おお)きな窓一面(まどいちめん)(ひろ)がるのは、巨大(きょだい)窪み(あな)

 最深部(さいしんぶ)には(みずうみ)形成(けいせい)され、まるで巨獣(きょじゅう)眼光(がんこう)(ごと)(ひかり)(はな)っている。


 たおやかな指先(ゆびさき)に、つられるように(むら)がる生徒たち(がきども)

「おい、おまえら。ちゃんと(あな)(そこ)(みずうみ)をみてやれよ」


 がやがやがややや。わやわや(だれ)あれ?

 綺麗(きれい)じゃね? 王族(おうぞく)(かた)かしら?

 物見遊山(べつのツアー)連中(れんちゅう)までゾロゾロ付いてきちまって、長窓(ながまど)鉄柵(てっさく)がぎしりと鳴る。


 おれは、すかさず手をかけ――ヴヴッ、ギャギチッ!

 ジンライ鋼製(こうせい)針金(はりがね)鉄柵(てっさく)を、こっそりと補強(ほきょう)した。


「(そういや、〝泥音(そらとぶいた)〟はどうした?)」

 ふぉん♪

『>現在も上空へ待機させております』


「(飛びっぱなしで、神力(はら)は空かんのか?)」

 ふぉん♪

『>全天候対応で、常時30%程の充電が可能です』

 ってことは?

 ふぉん♪

『>故障するまでは、浮いていられます』


 おれは真上(そら)を見あげるが、(なに)もない。

 ずっととおくを(とり)一匹飛(いっぴきと)んでるくらいで、(くも)ひとつねぇ。

 今日(きょう)は良い天気(てんき)すぎて、リオが〝(つめ)てぇ魔法(まほう)〟を掛けてくれてなかったら――

 おれたち全員(ぜんいん)(あつ)さで、ひっくり(かえ)ってた(ところ)だ。


 ふぉん♪

『>筐体表面に背後の景色を表示していますので、

  肉眼で捕らえることは不可能かと』

「(リオの眼鏡(グラサン)でもか?)」

 ちらりと見習い先生(リオレイニア)(ぬす)み見たら、目が合った。


 ふぉん♪

『>電磁メタマテリアルによる電界像改竄により、

  我々以外に、察知できる者はおりません。

  直接、接触でもしない限りはですが』


 ふーん、なら良いけどよ。そろそろ用意(ようい)しとけ。

 折角(せっかく)だから人目(ひとめ)がある(いま)天狗(てんぐ)さまにご登場願(とうじょうねが)うぞ。

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