449:コントゥル家家宝(ジンライ)、ドット安地はっけん
「(どれ、ずっと興味はあったんだぜ――)」
今までは、上級鑑定しようとするたびに――殺気がすっ飛んできて、碌に見られなかったからな。
それ以前に僧侶の戒律で懸想が禁じられてるから、あまり大っぴらに見つめてばかりも居られんが――
「上級鑑定、しめしめうっひっひ♪」
破戒無慙のおれに死角はねぇし、厳密にはもう薬草師だ。
ィィィィィィィィィィンッ――――――――!!!!
ドッゴゴゴゴォォォォォォォンッ!
「私を見ているのは、どこのカラテェーかしるぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁっ――!?」
ドゴガガガァン――――ギュゴギャガガンッ!
狐火の勢いで、すっ飛んできた赤い甲冑。
金網をひしゃげさせ爪を立てる妖狐の娘と、目が合った。
「わぁー、み、みみみ見てないよぉう? そ、そんなカラテェーはぁ居ないよぉう? き、きっと気のせいだよぉう?」
嘘も方便だ。薬草師だって命乞いくらいすらぁ。
金網を二重にして置いて、助かったぜ。
「――えっ、なにこの赤いの……ひょっとしてぇリカルルちゃぁん!?――」
そーだぜ。なんだっけか――
姫さんの甲冑の上級鑑定結果をつまんで、梅干し大のそばに貼りつける。
ぽこん♪
『朱狐シリーズ【多目的機動戦闘四足歩行車両】
古より伝わる最古のアーティファクト。
攻撃力2360。防御力1854。
条件効果/前回のリセットから、186秒経過。
10秒ごとに攻撃力が1%加算。
追加攻撃/1攻撃ごとに、追加攻撃力分の物理ダメージ。
追加効果/ただし被弾しない場合、
1分ごとに防御力が1%加算される。
被弾すると追加攻撃が発生し、
すべての累積分は、リセットされる』
「――なぁに、このぉぶっ壊れ性能!? チートじゃんかっ、あははあはは、ウケケケケッケケケケッ♪――」
ばかやろう、ゲラゲラ笑ってんじゃねーよ!
「――次は無くってよ? ギロリ!」
「ギロリ」と口で、念を押された。
そして、ココォォォォンッ――――カシャカシャ、バガドギャガガンッ!
機械の尾を力一杯、足場に叩きつけ――――ぼっごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉわぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!
噴出する、青白い濁流!
ドッゴゴゴゴォォォォォォォンッ!
新型コントゥル家家宝(予定)へ向かってすっ飛ぶ、旧型コントゥル家家宝(たぶん、奥方さまのお下がり)。
「うをわぁ!」
「――ひゃひゃわぁー!?――」
ふぉん♪
『イオノ>ちょっと、なにあの尻尾? 狐みたいじゃないの!』
ふぉん♪
『シガミー>知らん。お前さまの方が、知ってるんじゃねーのか?
〝最古の〟ってことは、ルリーロのお下がりなんだろ?』
「――おさがりぃ? 知らないけどぉん?――」
上級鑑定結果に駆けよる五百乃大角。
手を当てて、別の小板を出すこと数枚。
「――あぁーっ! これぇ、バカ兄貴の試作品だっ!――」
ふぉん♪
『朱狐シリーズ/作成者:オノハラレン
作成日:2222年1月26日』
なんか出た。凝り性の兄神さまの仕事で間違いないらしい。
ならば神々の御業の粋が、相当凝らされてるにちげぇねぇ。
そしてやはり、五百乃大角がなんかすると、〝もう少し詳しい所〟を知れるな。
「(おい、御神体なら、見られるんだろ? あの四つ足は上級鑑定出来たんだが、リカルル本人をみると今みてぇに殺気を飛ばしてくるから、代わりに見てくれや)」
「――えっ、嫌よぉー! 殺気どころか、おっかない姿のお姫ちゃんがすっ飛んでくるじゃないのっ! 絶対にぃ嫌ですぅー(キッパリ)!――」
あー、こうなると梃子でも動かねぇ。
「(わかった、じゃ諦めた。話は変わるが、あの四つ足のすっげぇー物騒な攻撃にも耐えるあの装備一式なら、奥方さまも満足してくれるだろぅ?)」
「うん」と言え。もう引き上げる。腹も少し、減ってきたしな。
「――えーっとぉ、ふむふむ? 〝亥の目シリーズ一式【片喰・蹄】〟……ミノタウロース装備を着て、ミノタウロースロッドを装備すると使える……なによこの〝状態異常♡〟って?――」
「(知らん。迅雷が食らわせたのは蹴りが一発と、掠り当たりだけだからな)」
「――迅雷クーン――」
ふぉん♪
『>何でしょうか、イオノファラー?』
地を跳ね壁を走り、天井に張りつきながら――
眷属がご祭神へ、一行表示する。
「――そのロッドでさぁー、会心の一撃を当ててみてよ――」
「(おい、無茶言うな。あの「う゛ぉぉぉんう゛ぉぉぉん」言う光の輪が、ギュッてなると大爆発すんだぞ?)」
敵に回すと本当に逐一、質が悪ぃ相手だぜ。
とおくから見てる分には相当、面白ぇお貴族さまなんだがなぁ。
ふぉふぉん♪
『>了解しました。あと34秒ほどお待ちください』
スゴン――――対魔王結界の中央。
立てた〝蹄のロッド〟に、仁王立ちの天狗役・迅雷。
なんだぜその、隙だらけの。
七天抜刀根術に、そんな構えは無ぇ。
それに散々やられてきた奴が、いまさら何をしようってんだ?
ぼぉぉぉぉおぉごわぁぁぁ♪
喰らわれ霧散する、仄暗い狐火。
ヴォォォオォゥィィィィイィンッ♪
逆に狭まり膨れ上がる、狐火・月輪。
その燃える輪はまるで水面にたゆたう、日輪のよう――
ふぉん♪
『ヒント>合成光表面温度、2100度に到達』
音頭な、知ってる知ってる。
「(やい女神。2100音頭てなぁ、どんくれぇだ?)」
梅干し大を、指で突いてや――
「(えぇー、急に言われてもなぁ――カブキーフェスタで作った炭が1000度ちょっとだから、その倍くらいかしらねぇぇ?)」
――ろうとしたらゴロリと転がって、避けられた。
思ったよりは熱くはねぇが、ジンライ鋼製の階段が切られるくれぇだぜ。
「(おい、迅雷避けろ!)」
ふぉん♪
『>心配いりません。あの月輪は高エネルギー密度を誇る熱源ですが、
エネルギーを吸収する対象がなければ、熱は発生しませんので』
やい、説明。
ふぉん♪
『ヒント>燃える物が無いので、熱くなりません』
わかった。
ロッドを立てた真ん中には、隙間があるらしい。
「クカカカッ――――♪」
天狗役は勝ち誇ったような頭巾を、壁を這いまわる四つ足に向けた。
やめろやめろ、煽るんじゃねぇやい。
ふぉん♪
『天狗 LV57
HP:■■■□□□□□□□959/3067
MP:■■■■□□□1126/1794
神力:■□□□□□□□□□17%』
マジで神力が、やべぇな。
ふぉん♪
『リカルル・リ・コントゥル LV53
HP:■■■■■■□□□□1391/2208
MP:■■■□□□□□□□1088/3401
神力:■■■■□□□□□□40%』
姫さんは――ほとんど変わらん。
おれは黒装束の中で神力棒……迅雷の飯を二本取りだして、腰帯に刺した。