448:コントゥル家家宝(ジンライ)、蹄のロッド
「ふぅ、こんなもんか」
姫さんが飛びかかってこないように、階段途中の足場を――
硬くて柔くて強靱な――ジンライ鋼製の金網で、二重に囲んだ。
狐火の神髄……燃える真円が上がってきたら、そのときは猪蟹屋に逃げるぜ。
「よっこらせっと」
立てた丸い鉄の柱を折り曲げ、横に渡しただけの簡単な椅子に寄りかかる。
上級鑑定――ぽこん♪
『亥の目シリーズ一式【片喰・蹄】
伝説級の魔物を象った武器防具一式。
攻撃力320。
防御力3280。
条件効果/【片喰】この鎧を攻撃した対象に、状態異常〝♡〟を付与。
♡状態となった対象への魔法攻撃は、一切通らなくなる。
追加攻撃/戦闘状態が解除されるまでに、文様を完成させることで、
対象の残存HPに応じた一撃を、放てるようになる』
ぽここん♪
『蹄のロッド【全属性・片喰】
伝説級の魔物を象ったロッド。
常軌を逸した魔導伝導率を誇り、
芯で当てると無詠唱で魔術(小)が発生。
攻撃力1300/追加攻撃力100/追加魔法攻撃力3200。
条件効果/【片喰】芯で当てた場合は状態異常〝♡〟を進行させる。
追加攻撃/戦闘状態が解除されるまでに、文様を完成させることで、
対象の残存HPに応じた一撃を、放てるようになる』
装備条件/なし』
大鎧もロッドも所々傷が入ったが、鑑定結果に変わりない。
防御力も耐久力も、申し分ないだろうよ。
本当に、十分な性能をみせた。
しゅたり――対魔王結界やや中央へ、天狗が降りたつ。
そこへ光輪が届くまでには、間が空いたそのとき――
「カカカカカカカカカッ――――渾身で来られい、小娘よ!」
うしろ足で立ちあがった、猫のよう。
順手でロッドを水平に構える――天狗役。
生意気にも、三の構えだ。
三の型は連撃の技。根の両端による打突、最大百八の不意打ちを体現する。
とんでもなく多彩な打込みと、手数。
つまり、芯で当てるのには向かねぇ技だ。
ありゃ、超接近戦をソレとわからねぇ感じに、遠閒から仕掛ける型で――
本来、それ単体で使うもんじゃぁねぇ。
何ごとにも〝使い所〟ってものはあって、おれはそれを迅雷に教えとらん。
「んなっ、手も足も出ませんのに――どの口がぁ、仰っておられるのかしらっぁぁぁあ゛ぁぁぁあ゛ぁぁ?」
ガッシャゴシャ、バッキャガガンッ!
張りついた天井に、四肢の爪を突きたてるご令嬢。
壁天井を素早く歩く、多目的機動戦闘四足歩行車両は――
もはや、妖怪にしかみえん。
どっちが勝っても、過不足無ぇ。
新旧の家宝同士の戦いとして、立派なもんだった。
このまま姫さんが、力を蓄え続けた場合の上限――
諸行……現世の限界を、知るのも有りだ。
折角の『魔導伝導率1300%』という蹄を、迅雷が一端でも見せてくれるんでも良――ぬぅ?
攻撃力も、1300で同数?
偶然だろうが、どことなく……なんとなく、世界の理の――
人となり……いや世界となりが、垣間見えてる気がしねぇでもねぇ。
要するに、この世はどこか雑なのだ。
原因のひとつは神である五百乃大角に、起因しているに決まってるが。
こと武器や防具の地力。そして魔術の働きなんかは、もとから決まってて――
五百乃大角が持つ〝虎の巻〟に、すでに書かれているからなぁ。
あり方が雑というか、突き詰められていないというか――
色んな具合を、数字に置き換えるに当たって――
人の考えられる域を、超えてねぇというか。
さすがは、〝五百乃大角がうまい飯を喰うためだけ〟に作られた世界と言うべきか。
しかも、その上で五百乃大角が、雑な仕事をしやがるしなぁー。
えーっと、おれは指先をちょいちょいと、空中に這わす。
〝蹄のロッド〟の攻撃力は、足したら4600!?
しかも、『魔導伝導率1300%』が、どう関わるのかわからねぇが――
このうえに相当、加味されるはず。
希少金属オリハルコンの、魔導伝導率が300%。
その四倍以上も、効率が良いってんだから――
〝追加魔法攻撃力〟の部分が、そうだな……オリハルコン製の武器程度と考える。
3200の10%、威力の通りが良くなるとして3520。
40%なら、ソレだけで4480で――全部で5880。
アーティファクトである迅雷は、魔術が使えんが――
的中するとロッド自体が放つ〝魔術(小)〟なら、上乗せされそうじゃね?
炎の魔術〝ほのおのたま〟が、だいたい魔法攻撃力150くらい。
「ええっと、だから……ひのふの――6090!?」
蹄のロッドを的中されたら、シガミーなんか一発でお陀仏じゃんか。
この試し斬り。もう少し、詳しく……見ておきてぇかも。
「ふぅ、今日の晩飯わぁー、何にぃーしよっかなぁ――?」
そろそろ本当に上に戻って飯の支度しねぇと、やべぇしな。
「喚・ん・だぁ――?」
ぽこ――こぉん♪
この魔王膳とした飯神さまには、対魔王結界は効かんらしい。
てちり――黒頭巾の頭の上に降りたったのは、五百乃大角御神体。
「(おう、呼んだぜ。けど姫さんに見つかると、説明が面倒だから――)」
お前さまは、懐にでも入っとけ。
つかんで胸元に押しこんだ。
やめろ、もぞもぞするな。くすぐってぇじゃねぇーかよ。
ヴッ――すぽん♪
『イオノ>なによ、アナタの世界のよりどころ♪
イオノファラーちゃんさんを、
邪魔にするために、喚んだわけじゃないんでしょ?』
もぞもぞする重さが消えたと思ったら、画面の中に――ぽこぽこん♪
御神体の物理アイコンと、心の映し身が並んで現れた。
そのうちの一つが、目の中をうろつき出す。
「(頼まれてた例の家宝を、作ってみたんだが――忍び寄ってきた姫さんに、見つかっちまってな)」
金網の向こうで、火花を散らす兵共を見やる。
「――ぷひゃひゃひゃっ、試し斬りさせろってぇ!? あははあははあばばばばっ♪――」
耳栓からの音声が、超うるせぇ。
梅干し大の丸いのが、へちりと指をかすかに鳴らした。
ふぉん♪
『リカルル・リ・コントゥル LV53
HP:■■■■■■■□□□1612/2208
MP:■■■■□□□□□□1632/3401
神力:■■■■■□□□□□55%』
お?
今まで見たことがねぇ、窓板だが――
ふぉん♪
『天狗 LV57
HP:■■■■□□□□□□1349/3067
MP:■■■■■□□1285/1794
神力:■■□□□□□□□□26%』
五百乃大角は、こうみえて相当頭が良い。
おれが今知りたかった所を、ちょうど良く表示してくれた。
「(ふぅん。姫さんは、LV53か。さすがに強ぇぜ)」
よこから盗み見るのは、悪ぃ気もするが――
おれたちの身を守るためにも、彼女の強さは知っておきたい。
それは五百乃大角が食ううまい飯、すなわち世界の安寧に繋がるからな。