447:コントゥル家家宝(ジンライ)、天狗役をがんばる
「クッツクツクツクツクッツクツクツクツッ――――コッココココココッココココォォン♪」
上機嫌すぎて、虫とか鶏みたいになってね?
やっぱり、ニゲルは相当な物好き……いや、凄え男だぜ。
その赤い狐の面。
すこし高くなっってる、鼻っ柱。
煤けた鋼の靴。
靴底は、くすんだ銅色。
根を地に突きたて、倒になった勢いのまま――
頭を垂らす、赤色の獣の頭を――
蹴り上げる――天狗役!
おれが一度でも使った技なら、迅雷は事もなげに真似をする。
血の回廊や、印を結ぶ修験の技は再現できなくても――
こと体術や剣技に関しちゃ、失敗しない分、おれよか手練れと言える。
肩をすくめ、蹴りを躱す――ご令嬢。
ぐぐぐっ――――ギャッギィィィィィィィッン!
散る火花、すっ飛ぶ大鎧。
違ぇ――躱したんじゃなくて、頭突きを食らわすのに――
必要だから、首を引いただけだぜ!
修験者・天狗と、妖狐の末裔。
どっちも機械仕掛けの、まがい物だが――
気は抜けねぇ、何がどうなるかわからんぞ。
おれは上級鑑定をするような、悪い顔をした。
ぽこん♪
『朱狐シリーズ【多目的機動戦闘四足歩行車両】
古より伝わる最古のアーティファクト。
攻撃力2740。防御力1908。
条件効果/完全作動状態から、378秒経過。
10秒ごとに攻撃力が1%加算。
追加攻撃/1攻撃ごとに、追加攻撃力分の物理ダメージ。
追加効果/ただし被弾しない場合、
1分ごとに防御力が1%加算される。
被弾すると追加攻撃が発生し、
すべての累積分は、リセットされる』
なんだぜ、これ?
「こんなの、無敵じゃね?」と思ったが、迅雷の蹴りは当たってたらしい。
ぽこん♪
『攻撃力2000。防御力1800。
条件効果/前回のリセットから、2秒経過。』
数字が元に戻った。
また最初からなら、いくらかマシか。
しかし、あの魔法杖みたいにすっ飛んでくる――機械の尻尾のことがまるで書かれちゃいねぇぞ。
上級鑑定以上の鑑定が、要るってのか?
なら、あとでスキルを取っといた方が良いな。
ドゴガガァァンッ――――!
地に落ちた天狗役が、チッ――ギラァァン!
狭まり膨れ上がる光輪に、捉えられる。
キュゴドドドドガガガガガガァァァァンッ――――!!!
日輪は火球と化し、大爆発した!
渦を巻く月輪、燃え上がる日輪。
その間を跳ね回る――厄介な朱狐。
すべてが渾然一体。
対魔王結界はまるで、あつらえたように彼女に味方する。
カァァァァァァァッ――――――!
眩しい。視界のすべてが、光の霞に覆われた。
すると途端に、さぁぁと晴れる――炎と粉塵。
カシャカシャ音がしたから、姫さんが尻尾で払ってくれたらしい。
あの狐面なら、見なくても視るくらいは出来る。
同じような仕組みで外を見る、天狗役にも視えてるだろうが――
それを知らない姫さんは、目くらましで勝つ気はないってことだ。
こりゃぁ、根一本じゃ無理だろ。
せめて仕込み錫杖を、使え――
いや、当たらなければ一緒か。
それに、仕込み錫杖は――
ふぉん♪
『仕込み錫杖(極太)
攻撃力102。修験者が使う鉄の棍。
内部に隠された刀身は高威力。
追加効果/ATK+274』
家宝相手じゃ、とても太刀打ちできん。
「(HPやMPは、見られねぇのか?)」
ふぉん♪
『>戦闘中の人物を、上級鑑定することは出来ません』
そうなのか?
ふぉん♪
『>イオノファラーかカヤノヒメがいれば可能です。
それと、私のHP/MPを表示することも可能です』
ふぉん♪
『天狗 LV57
HP:■■■■■■□□□□1901/3067
MP:■■■■■■□1539/1794
神力:■■■□□□□□□□31%』
結構減ってる――けどおまえ本当は、やられてねぇじゃんか。
あっ、神力がやべぇ。
ふぉふぉん♪
『>狐火・月輪を防ぐ際に、想像以上の神力を消費しています』
んじゃ、予備の神力棒を使うか?
ふぉふぉん♪
『>ソレには及びません。神力棒はストックが700本あります』
なら良いが、切り替えるのに30秒掛かるんだろ?
こんな有様で、どうやって待ってもらうんだ?
ヴォゴォォォオンッ――――!!
二つ巴になった光輪が、息を整えていた天狗を襲う。
六の型を使うまでもねぇのか、根を構え駆けていく大鎧。
大きく根を振りあげ――そのまま振りおろした!
チッ――ギラァァン!
キュゴドドドドガガガガガガァァァァンッ――――!!!
日輪は火球と化し、大爆発した!
機械の尾が、振り払われ――
粉塵と、うねる炎が流されていく。
また一個の、光輪だけになったぞ。
脈動は、すぐに外周一杯を埋め尽くす。
迅雷は、ヤケになったのかもしれん。
それでもあの大鎧は、姫さんの甲冑の全力の攻撃を食らっても、まるで問題ねぇようにみえる。
試し斬りには、ここらで十分じゃね?
むしろ――
おれが、代わってやっても良いんだぜ。
「(それには及びません。つきましては、シガミーが指輪に所蔵する裏天狗を、お貸し頂きたく)」
てめぇっ――――なんで、念話使ってんだ!
ヴッ――――ガッシャン♪
それでも、グルグル巻きの黒布を取りだした。
これは、いま天狗役が着ている天狗一式と、ほぼ同じ物だ。
「コッコココココォォォォォォォォォォォォォォンッ――――――――!?」
吠える、お嬢さま。
例によって、ニゲルには見せられねぇ。
四つ足の獣が、壁から剥がれ落ち――
倒になりながら、腰の剣を抜き放った!
ィィイィィィィィィンッ――――!
豪奢な剣が、ほぼ中央。
地を這う天狗に、届く。
ガッキュギィィィィンッ――――!
「(うへぇ――外から見ると、そうなるんだな)」
詳しいことは知らんが(なんせ殿さま姫さまが使う、護身の術だからな)――
空中で剣を抜き放った瞬間、閃光が放たれ――カァカカァァァァッ!
天狗を照らした光が、剣戟の音を発すると――ギャッギィィィンッ!
姫さんの姿が光球と化し、敵の元へ飛んでいく――ピロロロォォォォオ!
気づいたときには姫さんが、天狗役に細剣を突きたててる――という按配だ。
以前の〝魔眼・聖剣切り〟よりも――
今の〝狐火・仙花〟よりも――
それこそ、ニゲルの〝勇者の歩み〟よりも――
圧倒的に遅い早業だが――
おれの滅の太刀よか、よっぽど速ぇ。
ふぉん♪
『ヒント>先制攻撃スキルを、併用しているようです』
あったな、そんなスキル。
ギギィィィィィンッ――――――――!
豪奢な〝まがい物の聖剣〟を弾かれた、リカルルが後ろ足で――
ガギィィン!
壁に張りつき――スゥゥゥゥ、納刀する♪
ォォォオン――――くるくるくるるるっ♪
蹄のロッドを弾かれた、天狗が――おれがいる足場まで、跳んできた。
「ほれ、何に使うか知らんが、〝裏天狗〟だ。持ってけ!」
姫さんからは、死角。
見えないように〝天狗や烏天狗の元になる、装備一式を丸めた物〟を渡してやった。
「(かたじけない、弟子よ――カカッ♪)」
あっ、ばか念話やめろやっ!
姫さんがさっきみたいに、ここまで飛んでくるだろうが!